学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

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第7楽章 好きな音色

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「ふふ、ふふふっ…ついに終わった…終わったー! 先生っ! 見て下さい! この美しい部屋を!」

 ノートヴォルトの家に連続で通うこと5日目。
 コールディアはついにリビングの床を全て発掘し、ソファのカバーを洗い、許可を得た上でクッションを新調することに成功した。
 散らばった楽譜も本も全て壁際の本棚に収め、散乱していた服は洗濯しクローゼットに整然と並べられた。

 ローテーブルにあった文具は存在すら気づかなかったデスクに移され、いくつも発見された乾いたインクボトルは無事廃棄された。

 チェンバロの前に座っていたノートヴォルトは顔を上げると、改めて室内を見渡した上、少しだけ驚いた表情になる。

「ご苦労様…」

「勝った…私はついに勝ったんだ!」

「何と闘っていたの」

「汚れ、および先生の無関心さ。今少し驚きましたね!? 勝ったぞー!」

「ここまで綺麗にしてくれたメイドはいなかった。新学期が始まったらすぐ元に戻りそうだけど」

「そこは努力してくださいよ」

「できない努力はしない…」

「かなり頑張ったんですよ!? キープして欲しいなあ」

「気が向いたら努力する…」

 ノートヴォルトは絶対に向ける気のない声で答えると、またチェンバロの前に座った。

 時刻はお昼近く。
 昨日キッチンを発掘できたので、今日は材料を持参していた。

「先生、特別サービスでお昼作るんで、すこぉしだけお願いがあるんですけど」

「なに?」

「夏休みの課題、ちょぉっとだけ見てくれたらなーって…」

「内容による…」

「必修の魔術基礎Ⅰの四大元素理論と、現代魔術のえーと、魔力係数について…ですね。あとピアノをお借り出来たらなお良し」

「ピアノは好きにしなよ。課題は…それ本来僕が教えられるものじゃない…」

「なんとなく先生なら答えらえるんじゃないかと」

 中等部以降の教師は各科目の専門となる。
 通常は専門外の教科、それも学院レベルとなると指導できる教師はまずいない。
 学院教授となればもっと専門的だし、必須科目とは言え答えられない教授も多いはずだ。

 教科書を胸に「できるよね?」という目で見るコールディアに、彼は溜息をついた。

「わかったよ…ヒントだけね」

「やった! じゃあキッチンお借りしまーす」

 そこまで料理が得意というほどでもないコールディアが簡単な昼食を作り、これも無事発掘されたテーブルで頂く。これまで買ってきたものを隙間を探してなんとか食事していたので、感動もひとしおだ。

「先生、テーブルについて食事をするって文明覚えたって感じしますね」

「僕の場合その労力と見返りが合わない」

「あ、私別に料理得意ってわけじゃないんで、あんまり期待しないでくださいね」

「僕には文句を言う権利はない」

 他愛もない会話をしながら、食事が進む。
 学院のカフェで友達と昼食を取ることは毎日のようだが、学院の外でこうして誰かと食事をするのはなかなかない。
 ましてや相手はノートヴォルトで、この5日学業に関係のない会話をしながら一緒に食事をするのが少しだけ楽しみだった。

「先生色々と能力のバランス崩壊してそうですよね」

「僕は特に困らない」

「私はちょっと困りますよ。前期の授業、半分以上呼びに行きましたから」

「……ごちそうさま」

「はーい」

 責められているように感じたノートヴォルトが逃げるようにテーブルを後にする。
 だが食器を片付ける彼女の背中に「おいしかったよ」と声がかかった。

「あ、ありがとうございます…お口に合って…よかった、です」

 まさか感想を言われるとは思わなくて、危うく食器を落とすところだった。
 無駄に鼓動が速まる。

(だってなんか、新妻っぽい)

 そう浮かんだ瞬間、彼女は今度こそ皿を落としてしまい、割れていないか慌てて確認することとなってしまった。

 幸い食器は割れず、片付け終わった彼女はエプロンを外すとそのままテーブルに課題を広げた。
 専属教授がいるってなんて贅沢なんだろうと思いつつ、ノートにペンを走らせる。

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