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第4楽章 グラスハープ四重奏 2
しおりを挟む「コモンでもグラスハープがいいです。でも先生、それじゃグラスが耐えられないです」
「わかっている。僕に考えがある。皆カフェからグラスを持ってきてくれ。卒業パーティで使われる薄いやつだ。ここで足りなければ…寮にも。…音符の数…グラスハープの譜面は…1118個…そこまでグラスはないとすると…」
数人がグラス探しに走り出し、残った学生が「音符の数って咄嗟に出るのか?」とささやき合っている。
コールディアは強度について考える。以前のレポートを思い出していた。
「先生、前にレポート出したとき、1回で割れてしまった人と3回、最大4回で割れた人がいたんです。魔律が抑えられたらもしかしたら1個につき3音はいけるかもしれないです」
「それでは音程が変わってしまう。他のパートが…」
「コールディア、いくつ下げればいい?」
バリウスが聞いてくる。彼女はレポートの内容を思い出すと、「多分20くらい」と答えた。
「20…音階はギリギリ変わらないな…全員魔律を20下げよう、楽器を持ってきて」
第一バイオリン、第二バイオリン、ビオラ、チェロが今まで練習していた楽器をそれぞれ持って来る。
「バリウス…」
ノートヴォルトに名前を呼ばれた第一バイオリンのバリウスが、感覚で20下げた魔律で奏でる。
「まだ高い……行き過ぎた。魔力が増えたか? くらいの微量な調節でいい。そう、そのまま弾いていて。次ステラ…君はいいな、欲を言えばあと0.2上げて欲しいが。次ネリー…高い、ゆっくりでいい。ゆっくり下げて…もう少し…そこだ。最後マティア……下げて、下げて…よし、そのまま続けて」
「コールディア、残ったグラスもある。1番肝となる最後の高音のグラスは無事だ。割れたほとんどは中央のグラス。僕が調律して配置する。あとはマギアフルイドの代わりに水を…誰か手伝ってくれる者はいないか」
ノートヴォルトが周囲を見渡す。この控室にいる者は皆出演待ちなので、名乗りを上げるものはいない。
「どうなさいましたの?」
その時、演奏の終わったフレウティーヌが騒ぎを聞いて駆け付けた。
グラスハープの惨劇を見てぎょっとする。
「コールディアこれは!?」
「わからないけど、割れてたの。今コモンで対応しようってなってるんだけど手伝いがいなくて」
「なら私がやりますわ。ノートヴォルト教授、私はどうすれば?」
「ノートヴォルト教授、何があった」
フレウティーヌに指示を与えようとしたとき、魔術師学科の教授、アーレイがやって来た。
彼は合同訓練の時に補助魔法の指導をする教授で、魔力感知に長けている。
「グラスハープが何者かに割られた。時限式か遠隔かはわからないが、人為的だ。まだマギアフルイドに魔力が残っているうちに追跡できないか」
「なんということだ…これは保存させてもらおう。割れたグラスのいくつかに何か残っているな…魔法陣か? 割れた物はこちらでなんとかする。残りは使うのか?」
「そのつもりだ」
そう言うとアーレイ教授は残りのグラスを調べてくれた。
何も仕掛けられていないことが分かると、彼は生物・植物を研究する魔術師がよく使う保存の魔法を使い一部の割れたグラスとマギアフルイドを回収した。
「こちらは私がやっておく。警備員はすまないが残りの破片を片付けてくれ。それと不審者がいないか見回りを」
そう言われた警備員は魔律回路を組み込んだ腕輪で他の警備員と連絡を取り合い、破片を片付け始めた。
「フレウティーヌ、君は用意したグラスにどんどん水を入れてくれないか。グラスの形によっても水の量はかわってしまうから大体の量でいい。できるか?」
「おまかせください」
「ありがとうフレウティーヌ」
「教授、グラス持ってきました。カフェのおばちゃんに怒られそうだけど」
「俺も持ってきました。ちょうど新調しようとしてたストックが50個ありました。それと他にも…勝手に持ってきたけど」
「寮から盗んできました!」
「あとで僕が怒られておく…全部ステージ袖に持って行ってくれ。もう時間がない。向こうで用意しよう。コールディア、いいね?」
彼女はコクリと頷くと、全員ステージ袖へと移動した。
コールディアたちの演奏とその前の演奏の間には休憩が挟まれる。
彼女たちは閉まった幕の内側で、慌ただしく準備を進めた。
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