学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

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第2楽章 神席に沸く黄色い声 4

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 確かにコールディアにとっても知らない場所で働くより教授の傍の方が遥かにいい。学院の中で働けるのも魅力的だし、ついでに演奏指導や他にもテストのあれやこれをちょっとだけ教えてもらうなんてあれば凄く助かる。

「事務室に聞いてみるといい…確か他にも学生を助手にしていた教授がいた気がする」

「わかりました、聞いてみます。けど本当に私でいいんですか? 何をするんですか?」

「僕がやりたくないこととか」

「押し付け…ほんと、どうして教授なんてしてるんですか」

「……それ以外の道が与えられなかったから」

 いつもと変わらずぼそりと言われたそのセリフは、どこか重たさを含んでいる気がした。
 
 俯いた教授からは表情が読み取れない。
 だが少しすると、彼は僅かに顔を上げて違う話をした。

「…グラスハープはもうホールの控室に移動されてる。練習ならそちらで」

 急な話題の変更には特に何も言わず、コールディアは「わかりました」と答え扉を開けようとした。だが1つ教授の疑問に答えていないことを思い出した。

「あ、そうだ防音解除。あれ、声じゃなくて1音ずつ魔律波動を真似してみたんです。“ウォール・解除タセット”の音を」

「1音ずつ? あの状況で? いや、思い出さなくていいけど…」

「あはは。大丈夫ですよ未遂だし。防音解除すれば、先生に高域波動が届くんじゃないかと思って」

「じゃああの雑音は魔力で高音に持って行ったの?」

 いくら魔力で魔律に変化を与えられるからと言って、可聴域を越えそうなほどの変化を与えるのはかなり工夫がいる。
 それを咄嗟に思い付き実行したのだから、単純な音楽才能だけではそうはならないだろう。彼女は自分で気づかないだけで魔術に関しても長けたものがあるのか、もしくは魔力の伸びしろがあるのかもしれない。

「はい。あんな高いのは初めて出しましたけど、やればできるもんですね」

 心配されたくなくて明るい声で返したつもりだが、確かに思い出したいものではない。
 あれ以上進まなくてよかったと心から思うが、力で逆らうことも出来ず恐怖を覚えたのは確かだ。
 なにより、その状況を昔から知るノートヴォルトに見られているのが未だに恥ずかしかった。
 助けてくれたことを記憶の中で強調し、できるだけバカどものことは思い出さないようにしている。

 コールディアのふるまいを見て、教授は猫背をさらに丸めて何か思案し始めた。
 
「では失礼しました」

 ノートヴォルトが何も言わないので、退室しようとする。
 なんとなくいたたまれない。
 そんな彼女に、彼は意外な言葉をかけた。

「…君には辛いことだったと思う…未遂でもないし大丈夫でもないだろう。話し声がまた1.2低くなっている。……まあ助手がソファを使いたいと言うのならそれでも構わないけど」

 コールディアが目を見開き一瞬固まる。
 自分が悲しい時、魔律の変化でこの教授には筒抜けなのだ。
 ここで泣いても構わない、そう教授は言っている。

「先生、年に1~2回言動が優しく繊細ツァールトですね」

 彼女は笑みを浮かべてそう言うと、扉を閉めて走り去った。
 許可は出されたけど、今ここで泣くのはちょっと違う気がする。

(恥ずかしいし)

 部屋に残ったノートヴォルトは、走り去る彼女の足音を拾っていた。
 何故か、コールディアの一音一音を拾ってしまう。

 彼は急にピアノに向かうと今の足音から着想を得た小曲を作ったが、楽譜に書き留めることはなく立ち上がると、おもむろに着替えた。
 袖の埃を見て、コールディアの言葉を思い出したからだ。

 チャイムの音が鳴ると、珍しく次の授業には遅れずに向かったのだった。
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