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第2楽章 神席に沸く黄色い声 3
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「先生…今のは…」
「僕には関係ない」
いつになく厳しい声でそう答えた教授は、そのまま音楽棟へと戻ってしまった。
「なんだろう今の」
「あまり詮索はよろしくありませんわ。魔術師団長が直々いらっしゃるなんて、よほどのことだと思いますの」
「そうだね。はー、びっくりした。でも一瞬レングラント様見れちゃった。超美形」
「ラッピーは抜かりないね。まあ私もちらっと見ちゃったけど」
「そろそろ私たちも戻りましょう。次の授業が始まりますわ」
時間がないので少し急ぎ足で校舎に戻ると、3人は各々の授業を受けるために分かれた。
しかし教室までやって来たコールディアは、ドアの前の“休講”の張り紙を見つけた。
「なんだ休講…どうしよう、何しようかな…あ、そうだ先生に楽譜貰いに行こう」
朝1番に楽譜を取りに来るようにと言われていたことを思い出し、そのままノートヴォルト教授の部屋に向かった。
グリフビー曜日の3限目、彼は何も授業がなかったはず。
いつものようにノックすると、しばらくして「どうぞ」と聞こえた。
「先生、楽譜をもらいに来ました。休講になったんで練習したいんですけど」
「ああ、えっと…これだ。来週最初の合わせをしたい」
彼は書類の山から目的の楽譜を引き抜くと、彼女に渡した。
「それまた急な…」
「君ならできる」
「全面的な信頼は嬉しいですけど、でもそうか、そうすると仕事探せないか…」
「仕事?」
俯いた長髪の向こうで怪訝な顔をされた気がして、彼女は気まずそうに答えた。
「実はちょっと仕送りが心許なくてですね、学生でもできる仕事を探しているんですけど、なかなかなくて。貴族の学生なんて仕事する必要ないのに、なぜか貴族向けの求人は並ぶんですよね…」
「だから朝掲示板を見ていたのか」
「はい。次の休みに街で探してみようかなーって思います…って先生山が!」
「山?」
話をしているうちに、無理矢理楽譜を引き抜いた書類の山が雪崩を起こし、見事に床に散乱した。
「あーあ…先生もう少し片付けましょうよ…」
2人して書類を拾う。
採点されていない答案用紙のようだった。
「先生、これ先月のでは?」
「そうだった気もする」
「気もする、じゃないですよ。これ高等部の教諭に怒られませんか?」
「苦情は来ていた気もする」
コールディアは溜息をつく。
中等部で出会った時から思っていたが、音楽才能は天才でもその他は壊滅的らしい。
なんてバランスの悪い人だろうと思いつつ、デスク下の隙間に入った最後の1枚に手を伸ばすと、埃も一緒についてきた。
「きたなっ」
「…ごめん」
「うわ先生、ローブに埃が! わー! こんな狭い所ではたかないでください!」
呆れつつ答案用紙を纏めると、彼女はそれを手渡した。
「それちゃんと洗ってくださいよ。もう、なんかお母さんみたいじゃないですか」
「お母さん…そうだ…」
「何か言いました?」
「お母さんをやってくれないか」
「はっ!?」
「間違えた。助手だ。僕の助手として雇うのはどうだ」
一瞬10歳上の教授を自分がよしよしする姿を想像してしまい、声が裏返った。
「あり得ない間違え方しないでくださいよ。助手って、学生がそんなことできるんですか?」
「規定上は問題なかった気がする…」
「また“気がする”ですか」
「君は僕の扱いをよく知っている…どこからか連れてくるよりずっといい」
「僕には関係ない」
いつになく厳しい声でそう答えた教授は、そのまま音楽棟へと戻ってしまった。
「なんだろう今の」
「あまり詮索はよろしくありませんわ。魔術師団長が直々いらっしゃるなんて、よほどのことだと思いますの」
「そうだね。はー、びっくりした。でも一瞬レングラント様見れちゃった。超美形」
「ラッピーは抜かりないね。まあ私もちらっと見ちゃったけど」
「そろそろ私たちも戻りましょう。次の授業が始まりますわ」
時間がないので少し急ぎ足で校舎に戻ると、3人は各々の授業を受けるために分かれた。
しかし教室までやって来たコールディアは、ドアの前の“休講”の張り紙を見つけた。
「なんだ休講…どうしよう、何しようかな…あ、そうだ先生に楽譜貰いに行こう」
朝1番に楽譜を取りに来るようにと言われていたことを思い出し、そのままノートヴォルト教授の部屋に向かった。
グリフビー曜日の3限目、彼は何も授業がなかったはず。
いつものようにノックすると、しばらくして「どうぞ」と聞こえた。
「先生、楽譜をもらいに来ました。休講になったんで練習したいんですけど」
「ああ、えっと…これだ。来週最初の合わせをしたい」
彼は書類の山から目的の楽譜を引き抜くと、彼女に渡した。
「それまた急な…」
「君ならできる」
「全面的な信頼は嬉しいですけど、でもそうか、そうすると仕事探せないか…」
「仕事?」
俯いた長髪の向こうで怪訝な顔をされた気がして、彼女は気まずそうに答えた。
「実はちょっと仕送りが心許なくてですね、学生でもできる仕事を探しているんですけど、なかなかなくて。貴族の学生なんて仕事する必要ないのに、なぜか貴族向けの求人は並ぶんですよね…」
「だから朝掲示板を見ていたのか」
「はい。次の休みに街で探してみようかなーって思います…って先生山が!」
「山?」
話をしているうちに、無理矢理楽譜を引き抜いた書類の山が雪崩を起こし、見事に床に散乱した。
「あーあ…先生もう少し片付けましょうよ…」
2人して書類を拾う。
採点されていない答案用紙のようだった。
「先生、これ先月のでは?」
「そうだった気もする」
「気もする、じゃないですよ。これ高等部の教諭に怒られませんか?」
「苦情は来ていた気もする」
コールディアは溜息をつく。
中等部で出会った時から思っていたが、音楽才能は天才でもその他は壊滅的らしい。
なんてバランスの悪い人だろうと思いつつ、デスク下の隙間に入った最後の1枚に手を伸ばすと、埃も一緒についてきた。
「きたなっ」
「…ごめん」
「うわ先生、ローブに埃が! わー! こんな狭い所ではたかないでください!」
呆れつつ答案用紙を纏めると、彼女はそれを手渡した。
「それちゃんと洗ってくださいよ。もう、なんかお母さんみたいじゃないですか」
「お母さん…そうだ…」
「何か言いました?」
「お母さんをやってくれないか」
「はっ!?」
「間違えた。助手だ。僕の助手として雇うのはどうだ」
一瞬10歳上の教授を自分がよしよしする姿を想像してしまい、声が裏返った。
「あり得ない間違え方しないでくださいよ。助手って、学生がそんなことできるんですか?」
「規定上は問題なかった気がする…」
「また“気がする”ですか」
「君は僕の扱いをよく知っている…どこからか連れてくるよりずっといい」
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