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第2楽章 神席に沸く黄色い声 2
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王宮からショスタークの他に派遣された新任の魔術師が魔物役となり、動き回っては時折魔法を放っている。
魔術師学科の学生は先頭で攻撃を開始し、魔物役はそれに対抗し攻撃してくる。支援組は気を逸らしたり攻撃組を補助魔法で強化したりと、かなり本格的だ。皆にやる気さえあれば。
第1組の訓練が終わり、コールディアら第2組の訓練となる。
支援組の3人は、攻撃組の少し後方に陣取ると訓練が開始された。
指導係の魔術師が学生の間を回りながら、より適切な動きになるよう教えていく。
そんな中、なぜか時々女子の黄色い悲鳴が上がった。
「ねえ、悲鳴が近づいてない?」
「それってレングラント様が来たってことよ」
「やるなら真面目にやりなよ…」
魔物役がコールディアの前方にいる攻撃組の1人を狙っているのが見え、彼女が補助魔法で妨害すると狙われた攻撃組の学生は返り討ちに成功していた。
「来たわよ」
「魔物が?」と思ってラッピーの方を見れば、「そっちか」と思った。
手にしたボードに自動筆記で何やらメモを書き込みながら、目の前をレングラントが通り過ぎていった。
「見えた?」
「よくわかんないよ。黒髪だってだけ」
「私は目が合いましたわ」
「ええっ、顔くらい見たかった―」
ラッピーは攻撃組の邪魔をする魔物の妨害をしながら悔しがっていた。
「なんだ、ラッピーも結局見たいんじゃない」
「そりゃね、一応女子だし。私みたいな末端の貴族なんて、どうせ会えないしなー」
「私なんぞ庶民ですので」
そんなだらけた空気のまま訓練は終わり、レングラントによる総評の後解散となった。
学生が減ると、校庭の端っこの木陰にノートヴォルト教授がいるのが見えた。
「先生、ちゃんと参加してたんですね。かなり端っこですけど」
「参加はしていない。見ていただけだ」
「まあ来ただけいいんじゃない?」
「3か月ぶりですわね」
「君たち煩いよ」
そう言えば練習室での例の事件のあった日、ノートヴォルトはかなり反応の速い攻撃をしていた。
苦手でもなさそうなのに、どうして訓練を嫌がるのだろう。
「僕の魔力は演奏のためにあるんであって攻撃するためのものじゃない」
「先生らしいですね」
笑ってそう言うと、何故か彼の顔が険しくなった。自分の後ろを見ている気がして、3人同時に振り向く。
そこには、レングラントを後ろに連れた宮廷魔術師を束ねる師団長、クレド公爵がいた。
全く知らないコールディアは突っ立っていたが、両サイドにいるフレウティーヌとラッピーが急いで淑女の礼を深々ととったのを見て、慌てて彼らに道を譲ると頭を垂れた。
「ノートヴォルト君、例の件の色よい返事をそろそろ貰いところなのだが」
「…お断りしますと申し上げました。何度いらっしゃっても同じです」
「こんなとこにいるより遥かにいい人生を送れるぞ?」
「どの人生が僕にとっていいものかは僕が決めます。それが少ない選択肢であっても」
ノートヴォルトの声が固い。大貴族を前にして萎縮と言うより、敵意があるように思えた。
クレドが大きく溜息をつくと、後ろの魔術師に同意を求めた。
「レングラント君、君ももったいないと思うだろう?」
「…あまり積極的に勧誘していると芸術派が黙っていません」
「まったく面倒な連中だ。契約だかなんだか知らんが私は諦めないぞ」
一体王宮の偉い人が学院のちょっとだらしない教授に何の用なのだろうか。
しかも話の内容からすると、何度か何かを打診されている雰囲気がある。
草を踏みしめる音がしたのでもう去ったのかと少し顔を上げてみると、クレド公爵の背中と、なぜか教授を凝視するレングラントが見えた。
まだ上げてはいけなかったと思い慌てて地面を見ると、数秒して足音が去って行った。
魔術師学科の学生は先頭で攻撃を開始し、魔物役はそれに対抗し攻撃してくる。支援組は気を逸らしたり攻撃組を補助魔法で強化したりと、かなり本格的だ。皆にやる気さえあれば。
第1組の訓練が終わり、コールディアら第2組の訓練となる。
支援組の3人は、攻撃組の少し後方に陣取ると訓練が開始された。
指導係の魔術師が学生の間を回りながら、より適切な動きになるよう教えていく。
そんな中、なぜか時々女子の黄色い悲鳴が上がった。
「ねえ、悲鳴が近づいてない?」
「それってレングラント様が来たってことよ」
「やるなら真面目にやりなよ…」
魔物役がコールディアの前方にいる攻撃組の1人を狙っているのが見え、彼女が補助魔法で妨害すると狙われた攻撃組の学生は返り討ちに成功していた。
「来たわよ」
「魔物が?」と思ってラッピーの方を見れば、「そっちか」と思った。
手にしたボードに自動筆記で何やらメモを書き込みながら、目の前をレングラントが通り過ぎていった。
「見えた?」
「よくわかんないよ。黒髪だってだけ」
「私は目が合いましたわ」
「ええっ、顔くらい見たかった―」
ラッピーは攻撃組の邪魔をする魔物の妨害をしながら悔しがっていた。
「なんだ、ラッピーも結局見たいんじゃない」
「そりゃね、一応女子だし。私みたいな末端の貴族なんて、どうせ会えないしなー」
「私なんぞ庶民ですので」
そんなだらけた空気のまま訓練は終わり、レングラントによる総評の後解散となった。
学生が減ると、校庭の端っこの木陰にノートヴォルト教授がいるのが見えた。
「先生、ちゃんと参加してたんですね。かなり端っこですけど」
「参加はしていない。見ていただけだ」
「まあ来ただけいいんじゃない?」
「3か月ぶりですわね」
「君たち煩いよ」
そう言えば練習室での例の事件のあった日、ノートヴォルトはかなり反応の速い攻撃をしていた。
苦手でもなさそうなのに、どうして訓練を嫌がるのだろう。
「僕の魔力は演奏のためにあるんであって攻撃するためのものじゃない」
「先生らしいですね」
笑ってそう言うと、何故か彼の顔が険しくなった。自分の後ろを見ている気がして、3人同時に振り向く。
そこには、レングラントを後ろに連れた宮廷魔術師を束ねる師団長、クレド公爵がいた。
全く知らないコールディアは突っ立っていたが、両サイドにいるフレウティーヌとラッピーが急いで淑女の礼を深々ととったのを見て、慌てて彼らに道を譲ると頭を垂れた。
「ノートヴォルト君、例の件の色よい返事をそろそろ貰いところなのだが」
「…お断りしますと申し上げました。何度いらっしゃっても同じです」
「こんなとこにいるより遥かにいい人生を送れるぞ?」
「どの人生が僕にとっていいものかは僕が決めます。それが少ない選択肢であっても」
ノートヴォルトの声が固い。大貴族を前にして萎縮と言うより、敵意があるように思えた。
クレドが大きく溜息をつくと、後ろの魔術師に同意を求めた。
「レングラント君、君ももったいないと思うだろう?」
「…あまり積極的に勧誘していると芸術派が黙っていません」
「まったく面倒な連中だ。契約だかなんだか知らんが私は諦めないぞ」
一体王宮の偉い人が学院のちょっとだらしない教授に何の用なのだろうか。
しかも話の内容からすると、何度か何かを打診されている雰囲気がある。
草を踏みしめる音がしたのでもう去ったのかと少し顔を上げてみると、クレド公爵の背中と、なぜか教授を凝視するレングラントが見えた。
まだ上げてはいけなかったと思い慌てて地面を見ると、数秒して足音が去って行った。
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