学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

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第1楽章 18000Mpの叫び 2

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 コールディアは廊下に出ると、教授の部屋のある階下に向かおうとした。
 その時、練習室5の部屋からチェンバロの音色が聞こえた。
 通常の魔律波動より5Mp低く演奏するこの癖のある音は、間違いなくノートヴォルト教授だ。
 なぜこれだけは低く弾くのか聞けば、「その方が古典的」と返って来た。理解できない。

「授業さぼって何してるの…」

 教授と学生が逆転したような台詞を言うと、それでも彼女は邪魔にならないようそっと扉を開けた。
 ブラックローズウッドで作られた黒鍵の上に夢中になって指を滑らせる人物は、やはりノートヴォルト教授。
 彼は数小節弾くと譜面台の楽譜に書き込んでいた。
 いつも思うが、どうして自動筆記を使わないのだろう。
 こっそり後ろから覗き込み、ひと段落したところで声をかけた。

「先生、もう授業始まってますよ」

「では自習だ」

 そう言いながら自分の作業に戻ってしまう。

(あ、これ無理なやつ)

 「わかりました」とも言わず、そっと部屋を後にした。
 戻る途中で練習室1に寄り、フレウティーヌに「自習だって」と告げると、彼女は「好都合だわ」と答えた。

 2か月後の夏の発表が迫るので、皆授業よりも練習をしたいのだろう。コールディアも練習したいのだが、実はまだ曲が決まっていない。というか完成していない。
 他の部屋からも音が聞こえたので、自習を告げ、教室にも自習を告げるとなぜか彼女の手の上にレポートが集められた。

(私先生の助手じゃないんだけどな)

 シャツも返してなかったし、まあ今回はいいかと思いレポートを受け取る。
 最後に嫌な3人組からも受け取ると、さっさと教室を出ようとした。

「おい」

「なによ…」

「お前ノートヴォルト教授並に耳いいよな。ちょっと俺とこいつらのバイオリンの魔律波動確認してくれよ」

「そんなの波動測定器使えばいいじゃない」

「あれ1.0刻みだろう?教授の言う0.1じゃないんだよ。お前ならできるよな?」

「勘違いしてるけど私は0.1刻みで数値化できるわけじゃない。1と2の間はあくまで感覚なの。わかる違い?」

「なんでもいいんだよ練習室4に来い」

 ここで「はい」と言わなければ恐らく今後また嫌がらせが増える気がしたコールディアは、嫌々ながらついていく。
 そして部屋に4人入ると、鍵を閉められた。

「ちょっと、なんで鍵…」

「そりゃあ邪魔が入らないようにだろう?」

「バイオリンはどこにあるの?」

 部屋を見るも、真ん中にグランドピアノが鎮座するだけで自前の魔奏器がない。

「楽器はな、お前だ」

 バカ子息…フリオッソ伯爵子息は、壁にコールディアを追い詰めると逃げられないように両手を壁につく。
 腰巾着も逃げ道を塞いだ。

「な、に」

「お前はクソムカつく貧乏人だけどな、顔は好みなんだよ。胸もそこそこあるしな。一緒に“自習”しようぜ」

「魔奏器ならいくらでも付き合う。それ以外はお断りよ」

 犯される。
 16歳のコールディアにだってそのくらいはわかる。
 相手は自分より体格のいい男3人。
 このままでは絶対に敵うわけがない。

「おっと魔法で反抗されても困るからな、口は塞がせてもらうぜ…キスがしたくなったら下半身でおねだりしろ」

 そう下品なことを言うと、腰巾着がコールディアの口に布を押し込んだ。
 言葉が発せなければ、魔法を唱えることなどできない。
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