学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

文字の大きさ
上 下
6 / 113

第1楽章 18000Mpの叫び 2

しおりを挟む
 コールディアは廊下に出ると、教授の部屋のある階下に向かおうとした。
 その時、練習室5の部屋からチェンバロの音色が聞こえた。
 通常の魔律波動より5Mp低く演奏するこの癖のある音は、間違いなくノートヴォルト教授だ。
 なぜこれだけは低く弾くのか聞けば、「その方が古典的」と返って来た。理解できない。

「授業さぼって何してるの…」

 教授と学生が逆転したような台詞を言うと、それでも彼女は邪魔にならないようそっと扉を開けた。
 ブラックローズウッドで作られた黒鍵の上に夢中になって指を滑らせる人物は、やはりノートヴォルト教授。
 彼は数小節弾くと譜面台の楽譜に書き込んでいた。
 いつも思うが、どうして自動筆記を使わないのだろう。
 こっそり後ろから覗き込み、ひと段落したところで声をかけた。

「先生、もう授業始まってますよ」

「では自習だ」

 そう言いながら自分の作業に戻ってしまう。

(あ、これ無理なやつ)

 「わかりました」とも言わず、そっと部屋を後にした。
 戻る途中で練習室1に寄り、フレウティーヌに「自習だって」と告げると、彼女は「好都合だわ」と答えた。

 2か月後の夏の発表が迫るので、皆授業よりも練習をしたいのだろう。コールディアも練習したいのだが、実はまだ曲が決まっていない。というか完成していない。
 他の部屋からも音が聞こえたので、自習を告げ、教室にも自習を告げるとなぜか彼女の手の上にレポートが集められた。

(私先生の助手じゃないんだけどな)

 シャツも返してなかったし、まあ今回はいいかと思いレポートを受け取る。
 最後に嫌な3人組からも受け取ると、さっさと教室を出ようとした。

「おい」

「なによ…」

「お前ノートヴォルト教授並に耳いいよな。ちょっと俺とこいつらのバイオリンの魔律波動確認してくれよ」

「そんなの波動測定器使えばいいじゃない」

「あれ1.0刻みだろう?教授の言う0.1じゃないんだよ。お前ならできるよな?」

「勘違いしてるけど私は0.1刻みで数値化できるわけじゃない。1と2の間はあくまで感覚なの。わかる違い?」

「なんでもいいんだよ練習室4に来い」

 ここで「はい」と言わなければ恐らく今後また嫌がらせが増える気がしたコールディアは、嫌々ながらついていく。
 そして部屋に4人入ると、鍵を閉められた。

「ちょっと、なんで鍵…」

「そりゃあ邪魔が入らないようにだろう?」

「バイオリンはどこにあるの?」

 部屋を見るも、真ん中にグランドピアノが鎮座するだけで自前の魔奏器がない。

「楽器はな、お前だ」

 バカ子息…フリオッソ伯爵子息は、壁にコールディアを追い詰めると逃げられないように両手を壁につく。
 腰巾着も逃げ道を塞いだ。

「な、に」

「お前はクソムカつく貧乏人だけどな、顔は好みなんだよ。胸もそこそこあるしな。一緒に“自習”しようぜ」

「魔奏器ならいくらでも付き合う。それ以外はお断りよ」

 犯される。
 16歳のコールディアにだってそのくらいはわかる。
 相手は自分より体格のいい男3人。
 このままでは絶対に敵うわけがない。

「おっと魔法で反抗されても困るからな、口は塞がせてもらうぜ…キスがしたくなったら下半身でおねだりしろ」

 そう下品なことを言うと、腰巾着がコールディアの口に布を押し込んだ。
 言葉が発せなければ、魔法を唱えることなどできない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

先生と私。

狭山雪菜
恋愛
茂木結菜(もぎ ゆいな)は、高校3年生。1年の時から化学の教師林田信太郎(はやしだ しんたろう)に恋をしている。なんとか彼に自分を見てもらおうと、学級委員になったり、苦手な化学の授業を選択していた。 3年生になった時に、彼が担任の先生になった事で嬉しくて、勢い余って告白したのだが… 全編甘々を予定しております。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

悪役令嬢(濡れ衣)は怒ったお兄ちゃんが一番怖い

下菊みこと
恋愛
お兄ちゃん大暴走。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】騎士と王冠(The Knight and the Crown)

けもこ
恋愛
皇太子アビエルは、レオノーラと初めて出会った日の情景を鮮やかに思い出す。馬を操る小柄な姿に、彼の心は一瞬で奪われた。その“少年”が実は少女だと知ったとき、驚きと共に彼女への特別な感情が芽生えた。彼女の内に秘めた強さと純粋な努力に、アビエルは深く心を惹かれ、次第に彼女をかけがえのない存在と感じるようになった。 アビエルは皇太子という鎖に縛られながらも、ただ彼女と対等でありたいと切に願い続けた。その想いは日に日に強まり、彼を苦しめることもあった。しかし、レオノーラと過ごす何気ない日々こそが彼にとって唯一の安らぎであり、彼女と共有する時間を何よりも大切にした。 レオノーラは、自分の置かれた立場とアビエルへの気持ちの間で揺れ動く。だが、彼女は気づく。アビエルがもたらしてくれた幸運こそが、彼女の人生を輝かせるものであり、それを受け入れ、守り抜こうと心に誓う。 #この作品は「小説家になろう」サイトでも掲載しています。そちらではすでに完結済みです。アルファポリスでは内容を整理しながら連載中です。

処理中です...