別にこれはいつも通りで

松葉 楓

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本編

1年生 秋 第7話

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「忘れ物ないね」

「うん、大丈夫」

さっきから、なんか変に動揺しているけれど、気づかれていないだろうか。

「あ…!当番チェック表」

「えっ、1番大事なやつだろ」

「すぐ取ってくる!」

「…5秒以内に戻ってこいよ」

「はいはーい、分かった!」

「はいは1回だ!」

「…やっぱりなんか先生みたい」

「やっぱりってなんだ」

「だって先生みたいなんだもん。あ、今から5秒だからね」

「…何でもいいから、少しは急げよ」

職員室に鍵と一緒に渡しに行くのに1番大事な物を忘れてしまった。
動揺が行動に出てしまった。普段忘れ物とかあんまりしないのにな。
…まあ、明るく誤魔化したけど、どうか気づかれていませんように。

「はい」

「…おお、本当に5秒だ」

「もちろん!…って真面目に数えてたの」

「うん…なんとなく。じゃあ、今度こそ鍵閉めるから」



そんなこんなで、なんとか私は閉めてもらった部屋の鍵を貰って、チェック表と一緒に先生に渡しに行った。

「そうか、勉強してたのか」

「はい」

「そうかそうか、期末試験も頑張ってな。気をつけて帰れよー」

「分かりました、気をつけて帰ります。失礼しましたー」

頑張れと言われたけど、高校生活2回目の試験…大丈夫かな。
最初の試験範囲は大体中学校の復習だったから簡単だったけど、今回はそうも行かない。
…と、少なからず不安もある。
でもまあ、なんとかなるか。

「浅見先生…まだ残ってたんだね」

「そうだね。きっと、テスト問題まだ作成中なんだよきっと」

「ああ、確かに。先生も大変だね」

図書委員会の顧問である浅見先生。
浅見先生は国語の担当教諭なので3学年全クラスの問題を作るはずだ。
生徒より、問題を作る先生の方が意外と大変だったりするよね。

「よし、あと7分だ」

「よし、じゃあ校門までダッシュだ!夜の学校ってなんか楽しいね!」

「おい、時間ないとはいえ、廊下なんだし…しかも職員室の前なんだから走るなよ」

「ほら、やっぱり先生みたい。変なところで真面目だよね」

「はあ…僕は元から真面目だ!」

なんか、急にお腹が空いてきた。
はしゃぎ過ぎるなよとか、人の話聞いてるのかとか後ろからいろいろ聞こえたけど、もちろん置いて行くに決まっている。
動揺してるの気づかれたくないし。

「ふう」

校門を出た時には姿が見えなくなっていた。
よし、今のうちに整えよう。色々と。
…平常心だ。そう、平常心は大切だ。

「相変わらず、速いな」

「ふっふっふっ」

「…なんか勉強するより疲れた」

「ほら、夜ご飯奢ってくれるんでしょう。早く、駅まで行くよ」

「もう走るなよ。駅まで意外と距離あるんだから…流石に追いつけない」

「大丈夫、大丈夫。もう走らないから」

田舎だから意外と駅から離れてるんだよな。お腹は空腹だけど、奢ってくれるならもう少しの辛抱だ。…なんて。

田舎の静かな町に先週よりも少し涼しくなった秋の夜空が広がるなか、今日は一段と鈴虫の声と共に、楽しげな2人の声が響いていた。
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