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元治元年

ごたいめ~ん(弐)

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 私とほむろは、庭に降りてきた入山の追っ手5人と対峙した。

(いつから気づいてたんだろう?)
『池田屋事件のあとだろうな。もしあの時気づいていたのなら、こんな時には来ない』
(そうね。あの時の方が、今よりずっと襲撃しやすかったもの)
『やはりあの日の外出がいけなかったのか?』
(奇遇だね。実は私もそんな気がすごくしてるんだ)

 昼に外出したのはあの日だけだったんだが、その時に気づかれた可能性が高いな。シャレにならんぜ。

『どうする?』
(どうしようか)
『ここで戦うのか?』
(それは避けたいな。ていうかできれば逃げたい)

 でも逃げれるのか?私にはあの壁を越えられるほどの跳躍力も腕力もないんだけど。平助君と山南さんは多分大広間だけど、この庭は大広間からは遠いし。

(この庭は微妙に人目に付くから妖術もあからさまに使えないし)

 困ったな。

 私がその場でいろいろ考えていると、5人のうち真ん中にいた人がゆっくり歩み寄ってきた。目の下にすごい隈をたたえた、がりひょろの男だった。

「驚かせてしまって申し訳ありません、九尾の狐様、及び九尾の巫女様」

 がりひょろ……もうパンダでいいや……にやたら丁寧に挨拶された。いやいやいや、丁寧に挨拶してもついていかないからね。

「私は入山の里の村長の息子、入山 真和いりやま まさかずと申します」

 わお。そんな偉い人の息子まで追っ手にかりだされてるとか、なんかウケる。

 つーかこの可愛くないパンダが、将来入山の里の長になるの?ちょっと入山の未来が心配だわ。

「九尾の狐様と巫女様には、我らとともに来てほしいのです」

 やーなこった。ついて行ったら好き勝手に使われた挙句、ポイされるに決まってるでしょ。

「我らの望みを果たすには、お二人の力が必要なのです」

 その"望み"を叶えてやるのが、私は嫌なのよ。

「さあ、我々と共に来るのです。そして一緒に日ノ本を掌握しましょう。我らの国を作るのです」

 だから嫌だってば。そんな国もいらないから。

「さあ…………」

 パンダが一歩こちらに踏み込み、私の腕をガシッとつかんだ。痛い痛い痛い!握力強い!骨が折れる!ていうか目が据わってる怖い!

 パンダは私の手をつかんだままニヤリと笑い、ズルズルと私を他の4人のところに引っ張っていく。

 いーやーだー!離してってば!

「ダメですよ。嫌がっている女の子を無理やり連れて行っては」

 私がパンダの手を振りほどこうとジタバタしていると、どこかで聞いたことがあるような、ないような、そんな感じの声が頭上から聞こえてきた。

 ………ん?頭上?

 振り向くと、なんと屯所の屋根の上に誰かいた!ちょうど逆光になっていて姿は全然見えない。

 その人は軽やかに屋根を蹴り、私の前にスタッと着地した。私はちょうど、彼の背中に隠されている形になった。




 あら?この見覚えのある後ろ姿、確か半月ぐらい前に見たような…………。

(あーー!あの時の!)

 唯一外出したあの日に会った優男さん!白川さんじゃないですか!

 私が驚いて見上げていると、白川さんはちょっとだけこっちに顔を向け、あの日にも見た優雅な笑みを浮かべた。

「さっきの心の声、なかなか面白かったですよ」
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