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元治元年

幕間:陽気な妖狐(壱)

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 元治元年、5月下旬。

 京の夏がますます深まってきたある日の夜。




 カサササ。

 カサ、スササ。

 ドサッ。

 ………なんの音?

 夜の部屋に響いた謎の物音で、私は目を覚ました。

 夜に眠ることができないほむろは、私が寝ているうちはその辺近所を散歩しているから、今ここにはいないはず。

 じゃあ誰がたててる音なのか。

 まさかGだとは言わないよね?

 あれ、江戸時代にゴキブリっていたっけ?

 カサカサ。

 まただ。どうも外から聞こえてるような気がするんだが………?

 ちょっと気になったので覗いてみることにした。

 私は、なるたけ音を出さないようにふすまに近づき、小さく開けて部屋正面にある中庭を覗いた。




 え?




 中庭では実に面白いというか微笑ましいというか、そんな感じの光景が展開されていた。

 なんと、黒猫と狐が中庭奥の茂みで取っ組み合いながら毛玉になっている。

 何、その見てて癒される光景は。

 狐の方は濃い金色の毛並みで、赤い目をしているようだ。九尾ほむろよりちょっと小さくて丸い。

 いや、待てよ?よくよく見てみたら、あの狐……尻尾が7本あるぞ………?

 えええええええええええ!!!!




『なははははー!驚かせて、悪かったな!』
(どーも……お騒がせしました………)

 今、私は自室で七尾と膝を付き合わせている。正確には膝ではないけど、まあ良しとしよう。さっきの絶叫で気づかれました。

 どうも、ほむろ以外の妖狐にも私の心の声ってのは聞こえてしまうらしい。

『あの黒猫は、この辺でよく見かけるやつでさ、こうしてしょっちゅう遊んでるのさ!ひゃっはー!』
(はぁ………)

 しかしとても陽気な狐だ。言葉の最後に"ひゃっはー!"を付けるとかどんだけテンション高いんだよ。

『お前、この時間はいつもぐーすか寝てるのに、今日はどういう風の吹きさらしだ?』
(え………?)
『間違えた、吹きこぼしか』
(………)
『あ、違うな。吹きはなしだっけ?』
(…………吹きまわしだよ)
『あそうそう!それそれ』

 なんだろう?このものすごく不毛な会話は。

(えっと、ほむろから聞いたんだけど、私にいつも薬草を持ってきてるのって、あなたなんだよね?)
『なるほど、それが九尾様の御名か。まいっか。おお、そうだぜ。九尾様の頼みで薬草を定期的に届けにきてる』
(いつもありがとうございます。それで、九尾様って?)

 ほむろってそんな偉い存在なの?

『あれ?九尾様から何も聞いてないのか?』
(基本的なことしか聞かされてないけど)
『ふぅーん。じゃあさ、どうせ暇だから俺が教えてあげるよ!』

 こうしてこの日の夜、私は七尾から妖狐について詳しく勉強することになった。
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