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元治元年

それぞれの困惑(壱)

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 山崎 丞やまざき すすむは、新選組で諸士取調役兼監察方の任についている。小難しい単語だが、ようするに内外の情報収集が仕事だ。

 まあ、今夜のように新選組が斬り殺してしまった者の死体の処理をすることもあるが。

 一番組と十番組の夜の巡察に同行していた山崎は、4人の浪士のうちの一人を沖田が討ち取るところを見た。

「沖田さん、また何をやっているんですか。いい加減俺の仕事を増やすのはやめてくださいよ」
「わ。山崎くんにも怒られちゃいましたよ」
「おめえはもう少し真剣に反省しやがれ。悪いな、山崎。俺たちはこっちの3人を屯所に連れてくから、ここは任せてもいいか?」
「承知しました」

 山崎が承諾すると、原田は頷き、他の隊士たちを連れて去って行った。

 暗がりから姿を見せ、さきほど沖田が斬り殺した辻斬り浪士に近づく。

 新選組は、よほどの大捕物じゃない限り人を斬らない。辻斬り集団と囁かれないためだ。

 治安が悪いこの京の都で、街を守るために存在する新選組が辻斬りをしている、などという噂が出回っては、ただでさえ立場の弱い新選組は京にいられなくなる可能性もある。

 そうしたら京の治安はますます悪化してしまう。副長はそう考えているようだ。

(まったく。沖田さんは相変わらず大雑把すぎる)

 テキパキと作業をしながら、山崎は心からそう思う。斬り合いの手加減にしろ料理の味付けにしろ、もう少し丁寧にはならないのだろうか?

 ひとまずやるべきことを終え、山崎は路地の横に目を向ける。

 そこにはこちらに背を向けて倒れている少年がいた。

 原田と沖田から聞いた話では、あの少年は辻斬りの被害者だ。沖田に斬られた浪士を含む四人組によって殺されたのだという。

 まだ若いのに、かわいそうなことだ。

 昼間にはそこそこ人通りがあるこの通りに放置するのは良くないな。山崎はそっちに向かって足を踏み出す。




 次の瞬間、少年の体がぐるりとこちらを向き、黒真珠のように綺麗な瞳と目があった。

 思わず足を止めてしまったほど驚愕した。少年の周辺を三毛猫がうろついていることも、少年が恐ろしいほどの美貌だということも全てが吹っ飛ぶほどの衝撃だった。

 どういうことだ?彼は死んだのではなかったのか?

 自分は確かに原田と沖田からそう聞いた。それは間違いだったのか?実は仮死状態で、今さっき蘇生されたとか?

 いや、だが彼女の死亡を確認したのは沖田だ。

 彼は新選組一の剣客である。人を一撃で屠れる彼は、同時に人の生死を的確に判断することができる。

 その彼が、この人間は辻斬り浪士に斬られて命を落とした、と明言した。間違っているはずがない。

 死んでいると知らされた人間が、今現在自分と確かに視線を交わしている。




(こういう場合どうすればいいんだ!)

 山崎は頭を抱えたくなった。
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