白銀の超越者 ~彼女が伝説になるまで~

カホ

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~領地改革~

学業都市計画始動

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~領地改革~
学業都市計画始動
 霊山を訪れた数日後、ユールは執務室にトールを呼び出した。

 余談だがこの2年間で、ペンドラゴンの街はずいぶんと立て直されて、城壁もなかなか立派になっている。この役所も整備され、ユールには専用の執務室が与えられた。

「失礼します。ユール様、何か用っすか?」

 机にかじりついて書類を処理していると、ドアがノックされ、返事をするとトールが入ってきた。

「ああ、トール。ちょっと座って。長くなるから」
「…?はい」

 ユールが着席を促すと、トールは大人しく従った。

「今日トールの呼んだのは、あなたにしか頼めない案件があったからなの」
「俺にしか……?」
「そう。あなたが一番適任よ。私が前々から学園を作ろうと計画していたのは知ってるよね?」
「ええ、知ってます。すでにお試しで初等学園が建設中ですが?」
「知ってる。その話じゃない」

 軽く首を横に振り、ユールは腕を組んで言う。

「私、学業都市を作ろうと考えてるの」

 改革2年目、現在地方の主要都市の復興はすでに型がついている。今までのように全精力をそっちに向ける必要性はもうないだろう。生活面の安定は確立しつつあるだろう。

 だからユールは、次に教育面に力を入れようと考えていた。

 この地方の復興は順調に進んでいるが、もっと多くの人材が必要だ。政治に携わる役人だけじゃない、経済を回す商人、人の健康を守る医療人、より良い発展のための研究をする研究者、地方の治安を守る武人、なくてはならない人材は山ほどある。

 そしてその人材を増やすには、それを育成する場所が必要だろう。

「学業都市ですか?」
「ええ」
「地方のために人材を増やして育成するのが目的ですね」
「そうよ。医療人の育成に関してはこっちで続けてるけど、それ以外の人材の育成には手を付けてないから」
「医療関係以外に何を教えるつもりで?」
「まずは経済と政治、それから農業ね。少しずつお金が出回りつつあるこの地方に、経済をわかる人がいないのは感心しないもの。先行きが不安よ」
「農業はなぜ?」
「品種改良を早く進めたいの。いくらこの地が魔力豊かだとしても、不作や自然災害が起こらない保証はないわ。もしもの時のためにも、農業の技術は発展させておきたい」
「なるほど」

 トールが吟味するようにうんうんと頷いている。

「ちなみにどこに建設するつもりで?」
「候補地なら見つけてあるわ。この地方の北、閑静な平原にグルトップという村があるわ。そこを考えている」
「北……ですか?あそこはあまり土壌が豊かじゃなかったと思うが……」
「だからよ。確かにあの場所は農林業、工業にも向いてない。だからこそ北方には学業で栄えてもらうわ。幸い北部は建物を建てやすい地形だし、ペンドラゴンからも遠くないし、危険な場所でもないわ」
「確かにそうっすね。なんの特徴もない北部には、これしか発展の道がないっすよね」
「どうかしら?スクルドは大丈夫だと言ってくれたけど」
「その前に、教師はどうするんだ?誰に教えさせるつもり?」
「わかってて聞いてるでしょうに」
「念のための確認ですよ」
「トールの家族には総出で働いてもらうことになるわ。それからあなたが保護していた子供達、彼らはずっとあなたの講義を受けてきたから、下手したら大人より博識よ」
「そうだろうと思いましたよ」
「利用してることを怒るの?」
「怒りませんよ。なんで俺が怒るんだ?そんな必要はねえ。俺だってユール様と同じことを考えていた。あいつらともよく話していたよ。いつか俺たちがみんなに知識を教えるんだって」

 ニカッと笑って、トールが席を立つ。

「定期報告とかはどうするんです?」
「あ、それならこっちの計画書にやって欲しいこととか、報告して欲しいこととか全部まとめたわ。この通りにやってくれればいい」
「わかった。あ、それから、馬車の件はどうなりました?」
「学業都市を北部郊外に作ろうとした時点で問答無用で採用でしょ。馬車の方は私が作っておくわ」
「こっちで時刻表の予定案を作っておきましょうか?」
「ええ、お願い」

 今話しているこの内容は、先日トールから提案された、主要都市の間を乗合馬車でつないだらどうか、という提案についてのものだ。

 今、全ての都市は今いる人間だけで復興を回している。そして最近、新興のホズとスカディで人手が足りなくなりつつある。

 そっちに人手を回すためにも、各都市を随時移動できる手段は必要だろう。そのために都市の間を乗合馬車でつないで、人の流動を生み出そうと思案していた。

 当然許可を与えたとも。

「そういえばトール、病院の経営報告は上がってきてるの?」
「まだ来てませんね。ニョルズさんとネルトゥスさんがうまく回してるみたいだけど」
「そう、まあ急かさないわ。フリッグの調子はどう?」
「飲み込みが早くて助かる。あれはあと1年もあれば最高の医療人になれますよ」
「それは来年が楽しみだわ」

 去年に始動した病院計画は、ようやく土台を敷き終えた状態にある。病棟の建設が終わり、今では病気の治療と出産をメインの仕事にして稼働している。

 学者貴族だったアレックスさんに推薦された、医療人に的確で優秀な住民たちに医療知識の講義を施し続けた結果、病院の人手はなんとか足りている。これからもっと人は増えるだろうから病院はうまく回れるだろう。

 ニョルズと妻のネルトゥスも今現在勉強中だが、この夫婦はともに光属性の魔力を持ち、治癒魔法を使えるから、知識に不足があってもそこそこカバーできている。

 その娘である、今年ユールと同い年のフリッグも、現在トールの教えの元、医療人になるための勉強をしている。トールが褒めるのだから相当優秀なのだろう。

「トール、退出後にフレイヤを見つけたら呼んでくてくれる?」
「フレイヤですね。わかりやした」

 計画書を片手にトールが執務室を出ていく。それを見送って、ユールは再び書類に目を落とす。

 そのまま書類と格闘していると、本日二度目のノックがされた。

「フレイヤなの?」
「はい。お呼びですか?」
「ええ。フレイヤは料理が得意なのよね?」
「…?ええ、得意ですけど」
「じゃああなたに頼むわ」

 ユールは書類の山に手を伸ばし、一番上の紙を取ってフレイヤに渡す。

「カカの実を使って、このレシピを再現できない?」

 そこにはヴィクトリア水郷でスレイプニルのスイに教えてもらった大昔のレシピが書かれてあった。

「これは、なんですか?」
「わからないけど、スイが教えてくれたわ。カカの実を使った甘味ですって」
「カカの実が甘味ですって!?あのものっそい苦い果実が!?」
「らしいよ。引き受けてもらえる?」
「受けて立ちます!ところでユール様、この時期になぜこれを?」
「ちょっと、お金稼ぎの手段でも考えようかと思って」
「お金稼ぎですか?」
「ええ。この地方に税金制度を作るのはまだ厳しいからね」
「復興作業の合間でいいですよね?」
「もちろん。急いでる案件じゃないし、余興として楽しんでもらえればいいよ」

 ヴィクトリア水郷を訪れた時、去り際にスイから面白いレシピを聞いたのだ。フィヨルギンの周辺に自生しているカカの実を素材に使った、濃厚な甘味らしく、スイもえらくお気に入りらしい。

『ユールちゃん、早くこれを作ってねぇん?あたし、楽しみにしてるんだから!うふ』

 去り際にオネエ聖獣にキラキラした目で期待されつつ、ユールもちょっとその甘味が気になったから、戻ってきてそのレシピを紙に残したのだ。

「…………まあ、それはおいといて」
「?」
「なんでもないわ。それじゃあ頼んだよ」
「はい!頼まれました!」

 ユールが言うと、フレイヤが力強くガッツポーズを取り、スキップしながら部屋を出て行った。

「ふふふふふ……あの不味いカカの実が濃厚な甘味……。何それ今すぐ研究したいわ……ふふふ」

 どんだけ楽しみなんだ。それからその笑い方やめい、不気味だから。

 フレイヤの予想よりはるかにすごいノリノリっぷりに苦笑しながら、ユールは再度書類とのにらめっこに戻る。

 さあ、仕事は山ほどあるぞ。
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感想 15

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みんなの感想(15件)

うぉーたーめろん

スイさんもこの手のキャラのお約束でお怒りになると「おんどりゃー!!」になってしまいそう、聖獣様を怒らせてはいけませんね。

カホ
2017.02.09 カホ

うぉーたーめろん様、ありがとうございます。
そうですね、スイさん、怒らせるとかなり怖いです。いつかスイさんのお怒りモードを書きたいと思っています、はい。

解除
少女ハイジ
2016.12.21 少女ハイジ

今日の更新は、前回の改定版なのかな

カホ
2016.12.26 カホ

はい、投稿ミスです。直すので少々お待ちを

解除
あん
2016.12.21 あん

30話と31話同じ内容ですよ・

カホ
2016.12.26 カホ

投稿ミスです。すいません!

解除

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