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~領地改革~

チート都市発見

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 ブラズニルを旅立った翌日、ユールたちは街道の上を進んでいた。街道といっても、使われなさすぎて、かろうじて道として認識できる程度だが。

「ヴァルハラって、豊かなのか不毛なのかよくわからない」

 ノルンと同じ馬に乗り、エインの上から目の前の光景を眺めながらユールはつぶやく。

「確かにこの辺はブラズニル周辺より緑が多いですよね」
「場所によるのかな?」
「多分そうだと思いますよ。ブラズニルの近くにはこの辺以外で植物がよく育つ場所はないんでね」

 ユールの疑問に、フレイが答える。彼の話を聞く限り、ブラズニルの住人も食料を探しにここまでくるらしい。

「ここの魔力は食い違ってないのね……。部分的に同調できた?」
「……またユール様がよくわからないことをおっしゃり始めた」

 これはいよいよ早くこの地方の魔力の源に行かないと。

 ふと横に目を向けると、馬車の御者台で仲良く並んで座り、テオとフレイが実に楽しそうに話している。見た目が原因で虐げられてきたテオは、ずっと自分の黒髪黒目を快く思ってなかったから、同じ黒仲間に出会えて嬉しいのだろう。

「テオ、嬉しそう」
「そりゃそうですよ。同じ見た目の同士に巡り合えたんですもの。黒の色素なんて珍しいですから」
「そうね」

 フレイとフレイヤの兄妹に心を開いている自分が、テオのことを言えた義理じゃないけど。

「ユール様?なに笑ってるんです?」
「ふふ……。いや?私って、心を開いてる人間のタイプが全部一緒だなって思っただけ」
「?」

 ノルンはキョトンとしていたが、わかって欲しいわけではないのでそのまま沈黙に流す。

 フレイとフレイヤを受け入れた時に、ユールは気づいた。自分が心を開く人間は、決まって同じような目をしている、と。

 ノルンを始め、今自分の周りにいる信頼できる人たちは、みんな共通点がある。彼らはみんな、過酷な環境にさらされながらも、その瞳の奥に光を失わなかった人だ。

 その光が眩しかったから惹かれるかもしれない。だってそれは、幼少時に世を達観したユールにはなかった光だから。

 その光の意味は様々だった。憎悪、願望、反抗、警戒、尊敬。ユール以上にひどい環境におかれていた人たちばかりなのに、誰一人、"自分"という存在を見失ってはいなかった。

 彼らは、よくユールのことを強いと評するけど、案外自分の心が一番弱いのかもね、と他人事のように思い、ユールは小さく笑った。





 その日の夕方ごろ、視線の先に新たな街が見えてきた。こんなこと言ったら失礼だが、ヴァルハラは寂れているから移動が手っ取り早かった。だって閉門時間とか開門時間とか一切気にする必要がないから。

「あの街はなんだろう?看板とかないかな?」
「フィヨルギンですって」
「知ってたの?」
「いや、そこの朽ちかけの看板に書いてありますよ」
「あら、本当だわ」

 おや、こんなところに看板があったのね。気づきませんでしたよ。

「タイムリミットまで6日。あまりのんびりはできないね」
「だったらサクッと見に行きましょう。ブラズニルの外は、あの草原しか知りませんからね」

 フレイは外の世界を見れて嬉しそうだ。

 一行はそのままフィヨルギンの街に入っていく。しかし街の様子にちょっと驚かされた。

「あれ?ブラズニルより……マシ?」

 そう。フィヨルギンの通りにはわずかだが人通りがあった。そして通って行く人たちも、確かにガリガリではあるが、ブラズニルの人たちのように死人のような顔色をしていない。

「食べるものがある、のかな?」
「どうなんでしょうね。ブラズニルほど食料に飢えてるわけでもないようですが」

 テオと二人でそんなことを言い合う。

「またウルズたちの力を借りよう……」
「ユー様呼んだ!?」
「わっ!ス、スクルド?いつの間に」

 正確にはウルズとヴェルザンディを呼んだんだが、あとからスクルドも呼ぶつもりだったから問題もないか。

「呼びました?」
「あ、ウルズ。ブラズニルでやったのと同じことを頼みたいんだけど」
「わかりました。ちょっとお待ちください」
「ヴェルザンディも頼める?」
「わかりました!」
「……フレイヤは彼女たちの力のこと、知ってる?」
「あ、大丈夫です。馬車の中で聞きました」

 ちょっと話を聞いてみると、フレイヤはどうやらヴェルザンディと意気投合したらしい。トラブルメーカー(フレイヤ曰く)の兄を持つフレイヤと、お転婆な妹を持つヴェルザンディ。世話の焼ける兄妹がいる者同士、通じ合う何かがあったようだ。

 しかし姉妹なのに、意気投合した人が見事に全員違うとは。ウルズはノルンと仲が良いし、ヴェルザンディはフレイヤと意気投合したし、スクルドはユールに懐いてるし。見事にバラバラだね。

「………どう?」
「ここは田園都市だったようですね。この辺り一帯は、昔非常に豊かな土壌に恵まれていたようですから」
「公爵領でいうギャロルビルグの立ち位置だったのね。ヴェルザンディの方は?」
「変な実を見つけました」
「は?」
「多分これが、ここの人の食料になってるんだと思います」
「変な実………」

 どんな実だろう?

「どこにあるかわかる?」
「街の郊外の……東…ですね。そこに何本か生えているようです」
「ちょっとそこに行ってみよう」

 ということで、その謎の実を見るために街の東に向かうことになった。

「ブラズニルより土地は豊かのようですが、それでも不毛と呼べる程度には痩せていますね。その中で育つ実ですか」

 テオがうんうん唸っている。これは……謎の実の調理法でも考えているのだろうか?

「あ!見えた!あれです!」

 突然声をあげたヴェルザンディの指差す先を見ると、そこには小高い丘と、その上に生えている7・8本の木。

「あの木が、ヴェルザンディが言ってた?」
「はい、そうです」
「なんの木だろう?」
「あ。あれってカカの木じゃない?」

 ん?フレイ今なんて言った?

「カカの木?」
「ええ。10年ぐらい前までは、ブラズニルの近くの丘にも生えてましたぜ」
「そんな木あったかしら?」
「だから10年前まではあったんだって。今はもう枯れた」
「そう………」

 この不毛の大地でも育つ植物ね。興味深いけど、現状この木はここの街の人の命綱。勝手に持っていけない。

「カカの実はまた今度にするわ」
「了解です。このあとどうします?」
「田園都市だったっていうから、ちょっと郊外を回ってみるわ。復興する時に役立つかもしれない」

 ユールの決断で、一行はフィヨルギンの郊外を回ることになった。……だがその前に時間が遅いので野営の準備をしなければなりません。

 翌朝。昨日決めた予定通り、ユールたちはフィヨルギンの郊外をぐるっと一周した。道中はいつものように政策の案を出してはスクルドに成功率を占ってもらう。

 一周見て回ってわかったのだが、このフィヨルギンという街は恐ろしく農業に適している。これなら田園都市であったことも納得いく。

 街の郊外を回っただけで、いろんな環境があった。川が多くて水が豊かな場所とか、障害物がなくて真っ平らな場所とかetc。

「北が小麦、東から南までがトウモロコシとか米、西は普通の土地だから割となんでもオッケー。何これ最強じゃん」
「ギャロルビルグも顔負けですね」
「この土壌はどこまで続いてるんでしょう?」
「見た感じすんげえ続いてるように見えるけどな」
「ちょっとこの環境がどこまで続いてるのか調べてくるわ」
「魔法ですか?」
「遠視と鑑定の魔法」

 ユールは宣言通り遠視と鑑定の魔法を使って、この最強の布陣(農業用)がどこまで続いているのかを調べた。

「…………」
「ユール様?」
「やばい」
「え?何がですか?」
「なんかもう、やばい」
「いや、だから何がですか?」

 待て待て。この布陣がフィヨルギンの街の面積の5倍はあるってどういうことだ?え、何これ?農業やれって言ってるようなものじゃない。

「フィヨルギンには田園都市の座に返り咲いてもらわないと」
「ユール様……?」
「じゃなきゃなんてもったいないの」

 周りへの説明を一切かっ飛ばして一人の世界に入り込んでしまったユールを、仲間たちは不思議そうな怪訝そうな表情を浮かべていた。
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