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~東への旅~

冒険者の箱庭

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 グラムとグズルーンも交えて食事を終え、ユールたちは開店前の店に戻る。道中で二人ともだいぶ打ち解けてきて、同い年のグズルーンと仲良くなった。立ち寄った店などで彼らの服も買った。

  看板もすでにつけてある店内で、二人に店の制度について話し、商品の値段なども教える。特にグラムの物覚えが良くて、教えたことは片っ端から覚えてくれた。旅道具は現在の在庫がなくなったら一時休業とし、回復薬は全種類一日100個販売の形を取る。

  回復薬に関しては在庫の半分の量を渡しておくので800日ほどは持つでしょう。全種類80000個ほどあるのだから笑えない。しかも半分でこれ、だ。なぜこんなにあるのかというと、もちろんクリステル渓谷で作りすぎたせいである。

  在庫がなくなったら、後日取り付けるゲートを通じて知らせるよう言いつけた。給料もとりあえず1ヶ月分渡しておく。次の月からはゲートを通じて渡す予定でいる。

  ちなみにゲートとは、離れたところにある二つの場所の距離を0にして、瞬間移動のような現象を発生させる移動魔法です。

 「それと、これは私から」
 「これは?」
 「私に仕える人の証。信頼する人にしか渡してないわ」

  ユールが二人に渡したのは、二つのクリスタルだ。グラムに渡したのがオレンジ色のガルムクリスタル、グズルーンに渡したのが薄い水色のヘルクリスタルだ。

  効力は一言で言えばガルムが昼、へルが夜のセキュリティシステムである。ちなみに二人が店の敷地外にいても効果は発動する。これがあればいつ・どこにいても店のセキュリティは万全である。

 「ありがとうございます、ユール様!私、一生懸命働きますね!」
 「ありがとうございます。精一杯尽くさせてもらいます」

  そう言ってくれる二人に心が暖かくなった。出会う人みんなが優しくて、嫌っていた人間との交流が楽しく思えてしまう。

  そのあと二人に住居の方を案内し、その広さと清潔さに驚かれた。あと二人に大金貨を5枚ずつ渡しておいた。これは彼らを買った時の金額と同じだった。偽善かもしれないが、二人を奴隷の身分のままにしておくのはユールが許せなかったので。

  その日はテオとグラムが一緒にご飯を作った。意外にもグラムの生活能力が高かった。これなら明日からのお店も安心して任せられそう。




  翌朝。

 「いらっしゃいませー」
 「かわいい回復薬ね。いくらなの?」
 「600エッダになります」

  青い空の元、ヴァルグリンドは開店した。

  新しい店だから閑古鳥が鳴くのではないかと心配したが、この通りは冒険者のための店が多く、朝のこの時間帯には多くの冒険者が行き来している。

 「高いわね」
 「ですが質は保証いたしますよ?」
 「どのくらいなの?」
 「お体についた古傷まで治せます」
 「本当に!?すごいわね」
 「本日は開店記念で4割引なんでお得なんです。この機会を逃したら値上がりしますよ?」
 「確かにお得ね。一つ買わせてもらうわ」

  値段が相場よりも高いので購入を渋っている女戦士を、グズルーンが巧みな話術で丸め込んでいる。昨日生活能力が壊滅的だと発覚したグズルーンだったが、接客に関してはプロ級のようだ。

  ちなみに回復薬の相場は平均500。最上級で10000。ここは一個1000エッダで販売する。回復効果が高ければ値段はさらに上がる。しかしその回復効果を考えたら安いぐらいだ。

 「これ一つください」
 「それでは金貨1枚から銀貨4枚のお釣りです」

  レジでは暗算だけでパパッと金額の計算をするグラム。兄は生活能力抜群で、妹は接客のプロ。この二人に店を任せたのは正解だったようだ。

 「問題ないみたいね。いい店員を雇えてよかったわ」

  三人ほどお客を迎えて一息ついたあと、ユールはグラムに話しかけた。

 「ええ。これなら俺たちでもうまく回せそうです」
 「できるだけ早くこことの連絡通路をつなぐよ」
 「もう行ってしまうのですか?」

  接客していたグズルーンが悲しそうな表情を浮かべた。

 「なるべく早くヴァルハラに行きたいの。魔物と戦える」
 「魔物との戦闘が楽しみとか………」

  お店のことはこの二人に任せておけば安泰だろう。グラムが遠い目になってることは気にしないようにしている。だって楽しみなのです。

 「じゃあ私たちはもう出発するね」
 「はい。店のことは俺たちに任せてください」
 「ユール様、もう行っちゃうの?」
 「うん。一回バイバイだね。でもゲートができればいつでも会えるよ」
 「グズルーンは待ってますから!」
 「ん」

  こうして店は落ち着き、ユールたち三人は引き続き、旅を続けるのだった。
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