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~東への旅~
オークの集落
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次の日。約束通りユールたちは早朝にギルドに来た。
クイーンアントの素材や魔石を受け取り、報酬金の白金貨8枚と大金貨6枚を受け取る。
「それと、ギルドカードを提出ください。ランクを書き換えますので」
いつの間にかランクアップした。また登録二日目だったが、職員曰く、これほどの戦力をランクFにしておくなどもったいなくてできないそうです。
ランクDになって青に変わったカードを受け取り、三人はいつものようにボード前で受ける依頼を検討する。
「私はこのオークのやつがいいと思う」
「いやいや、ユール様。そこはフォレストリザードですよ」
「俺としてはブラッドホーンがいいと思うけどな」
あーだこーだ。
最終的には街の南の森でオーク討伐依頼を受けることになった。
「これをお願いします」
「はい、オーク討伐ですね。世界樹の皆さんは期待の新星ですから頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
期待の新星かどうかは知らないのでとりあえず流す。
「最近南の森でオークが多数目撃されているんです。くれぐれも注意してくださいね」
ちなみにオークの討伐証明部位は尻尾である。
今度はスルトの南門から出たユールたちは、まっすぐ南の森に歩いていく。この辺りはきたことのない場所だから地道に歩く。この街道の先には港町があるらしい。
あっさり見つかった森に足を踏み入れる三人。ユールはオークを探すために探索魔法を発動する。
「ここから北東に三匹いる」
「これで10分の3ですね」
「行きましょう、ユール様」
「ええ」
……………。
…………。
………。
……。
「これで9体目です」
「ラストね。探すからちょっと待ってて」
「ノルン、また魔法の腕を上げたね」
「そう?でもいつかはテオに追い越されるって。私、属性持ちじゃないし」
「そうでもないと思うよ?無属性を極めた人なんていなんだから」
「それもそうね」
「「ハハハハッ」」
オークを探すユールの隣で楽しそうな会話をしている二人。しかしユールの方はとんでもない気配を察知していた。
「二人とも、ここより南でオークが集落を作ってる」
探索魔法で感じた大量の気配を、ユールはそのまま二人に伝えた。
「オークの集落?」
「うん」
「だから最近この森でもオーク目撃が多かったのか」
「規模は?」
「オークの数は50匹ぐらい。その中でアーチャーオークが5体、メイジオークも5体、ジェネラルオークが2体、あとキングオークが1体いる」
「本格的に集落を作るつもりですね。まだ初期段階か」
「私たちだけでなんとかなると思いません?」
「そうね。オークはDランクだし、上位種もC。キングオークだけBだけど、本気出せばどうにでもなるわ」
ただのオーク討伐だったパーティ世界樹の目的が、オーク集落壊滅に変わった。
気配を殺しつつ南に進んでいくと、やがて噂の集落が見えてきた。
「あれですね」
「確かにこれなら思いっきり初期段階ですね。ユール様、作戦は?」
「ちょっと待って。…………集落奥に人の反応が2つあるわ」
「あれですね。オークは繁殖に他種族のメスを使うっていう」
「その時一番よく使われるのが人間の女性でしたね」
「とりあえずオークは女の敵。役割分担していくね。まずノルンにはこの集落を結界の中に閉じ込めてほしい」
「この集落丸ごとですか?」
「うん。これは中にいるオークが逃げられないようにすると同時に、出て行っているオークが集落に入れなくなるようにするため。もし無理矢理通ろうとするモンスターがいたら問答無用で叩き潰してよし」
「了解です!」
「テオと私は集落に突入する。私はまず女性2人を助けにいく。テオは先に暴れてて。私は女性2人をノルンに預けてから参戦する」
「わかりました。ユール様に危険がないように、俺ができる限り処分します」
「ノルンもお願いね。回復薬は渡しておくよ」
「はい!女の人の介護はお任せください」
「よし、じゃあ作戦開始」
役割分担も終わり、いよいよオーク集落壊滅作戦開始。
ノルンが結界魔法を発動し、ゆっくりとオークの集落を包み込む。2分ぐらいで結界は張り終わった。
「ユール様とテオは通れるようにしておきましたから」
「ありがと。殲滅が終わるまで結界は張りっぱなしにしておいて。終了の合図は……そうね、あの集落中央にある大きな建物、あれに雷を落とすからそれが合図ね」
「相変わらず派手ですね。わかりました!お気をつけて!」
ノルンに見送られ、ユールとテオは集落に踏み込む。
「じゃあ、私はここで」
「わかりました。派手に暴れておきますので、ユール様は安心して女性たちを救出してください」
「うん、頼んだ」
そう言ってテオはズバババッとオーク集落に殴り込んで行った。ぎゃあぎゃあとオークたちの悲鳴が聞こえてくる。その音を背に聞きながら、ユールも人間の気配がした集落奥の小屋を目指す。
入り口に見張りが2体いたので首をチョンパしてやった。増援がくる様子はない。テオにつきっきりらしい。
オークを収納して小屋に入ると、薄暗い部屋の隅に女性が2人縛られてぐったりと横たわっていた。
ゆさゆさと揺さぶると、悲鳴をあげながら起き出した。
「落ち着いてください!」
珍しく大声を出す。そうでもしないとこの人たちは落ち着いてくれなさそうだったから。
「きゃぁ………え?人?」
「人です。助けにきました」
「助け?助け……あなた、女の子……?」
「女の子ですね」
「ダメだよ……逃げないと、あいつが、オークが………」
「大丈夫です。この集落は壊滅させますので」
「え……?壊滅……?」
「ええ。一緒に逃げましょう」
「逃げる………私たち、助かるの?」
「助かります。ていうか助けにきたんです。脱出しますよ」
感極まってポロポロ泣いている女性たちの手の縄を切り、立たせて小屋を出る。
外は大乱戦の一言だった。テオのウィンドカッターがオーク2体の首を吹っ飛ばしたかと思えば、別方向から飛んできたファントムブロウがオークの上半身を切り飛ばしたり。ノルンも暇なのだろう、結界の近くにいるオークをひたすら攻撃しているようだ。
おかげでノルンの位置が把握しやすかった。この乱戦の中を突っ切るのは厳しいので、ノルンのいるところまで地下を通っていく。
「ノルン」
「わっ!」
地下からぬっと出てきたユールに、ノルンは小さく悲鳴をあげたが、ノルンとわかるといつもの調子を取り戻した。
女性2人をノルンに預け、ユールは地獄となっているオーク集落へ突っ込んでいく。
棍棒を振り上げるオークの首を爆散させ、テオに背後から襲いかかろうとしていた2体の体を両断する。
「終わったんですか?」
「終わったよ。せっかく面白い状況なんだから、一人で楽しんでないで私にも分けてよ」
「では俺が右、ユール様が左のやつを処理しましょう」
「いいわよ」
互いに背中を任せながら、テオが右、ユールが左にいるオークを片付けていく。風がオークの首を落とし、火がオークの頭を焼き、土がオークを貫き、水がオークに風穴を開ける。いろんな属性の攻撃が飛び交い、どんどんオークの数を減らしていく。中にはジェネラルとかメイジとかアーチャーとか混ざってた気がするが、よくわかんないからまとめて始末する。
オークの軍団が一段落したあたりで、ユールはあたりを見渡す。キングオークの姿が見えないのだ。気配は確かにこの集落にあるのに、なぜかここに現れない。
「テオ、オークの残りは任せてもいい?」
「いいですよ。ユール様はどちらに?」
「キングオークを探しに」
「確かにまだ見てませんね」
「じゃあ、ここはお願い」
「はい」
テオにその場を任せ、ユールはキングオークの気配をたどって集落の中を移動する。だいぶ集落の外れにいるみたい。
気配をたどってユールがたどり着いた場所は、さっき女性たちがいた小屋だった。そこではキングオークが破壊活動をしていた。思わずため息をつく。集落の危機に女を抱こうとか、どんだけクズなんだ。
さっさとクズを処分すべく、ユールはキングオークに向かっていく。目ざとくユールを見つけたキングオークは、ブヒブヒいいながらこっちへ来た。クズはお呼びでないのよ。
キングオークに風の手(パーティ名ではない)を発動し、集落中央の建物に向けて投げ飛ばす。そして仕上げに特大の雷をキングオークの頭に落とした。
どがぁぁぁぁぁぁん!!!!
中央の建物が木っ端微塵に吹き飛んだ。キングオークも頭部をえぐられて即死した。
閃光が消えたあと飛行魔法で跡地に向かい、キングオークの死体を収納。テオの方も片付いたようだ。
「大丈夫ですか?」
「問題ない。集落のリーダーがこんなときに女を抱こうとしたんだから、クズに遠慮はいらない」
「確かにそれはクズですね」
集落跡に転がっているオーク33体、アーチャーとメイジ5体ずつ、ジェネラル2体を異次元収納に入れ、二人はノルンのところに戻る。
「お疲れ様です!片付きましたか?」
「片付いたよ。お姉ちゃんたちは?」
「救出されて安心したのかな、寝ちゃった。ガーネット飲ませたから怪我も治ってる」
「じゃあ早く移動しようか」
せっかく眠っているところ悪いが、女性たちは起こさせてもらった。服が非常に無残なことになっていたので、異次元収納から布を二枚取り出し、くるませた。テオは気を利かせてずっと背を向けていましたよ。
女性のうち片方は普通に歩けていたが、もう一人は歩くのもやっとなほど衰弱していたのでテオが抱えることになった。テオ曰く、大人の女性とは思えないほど軽いそうだ。忘れてはいけないけど、テオはまだ12歳です。
女性2人のことを考慮してゆっくり進む。本当は早くギルドに戻ってオークの解体を依頼したいが、やっぱり人命が最優先だ。
行きは3時間だった道のりを5時間かけて街に戻る。思えばずいぶん街の近くに集落ができたものだ。
「ん?今朝出て行った嬢ちゃんたちじゃないか……ってその人たちどうした?」
門番の兵隊さんが、この奇妙な一行に疑問に思って聞いてきた。三人で出て行ったはずなのに、戻ってきたら布にくるまってる女性が一人と、同じく布にくるまってテオに抱えられている女性が増えているのだ。兵隊さんが疑問に思うのも不思議ではない。
「オークの集落にとらわれていたので助けました」
「はぁ、なるほど……ってオークの集落!?」
「壊滅させたので問題ありません。とりあえずこの人たちの保護をお願いします」
「あ、ああ。もちろんだ。おいお前ら!!」
兵士さんが女性たちを保護してバタバタしている間に手早く入街する。そのまま大通りを北上して冒険者ギルドに向かう。
現在午後5時をすぎている。ギルドは依頼報告の冒険者でいっぱいだった。その人ごみをくぐり抜け、ユールはカウンターまで行く。
「Dランクパーティの世界樹です。オーク討伐の依頼報告と解体依頼をお願いしたい」
「では依頼の報告を……」
「その前に解体依頼の方を」
「……?わかりました。何を解体希望ですか?」
「えーと、オーク系統の魔物が57体です」
おや?周りがシーンってなった。
「5、57体ですか……?」
「はい。このうちの44体がオーク、メイジとアーチャーが5体ずつ、ジェネラルが2体、キングが1体………」
「ちょっと待ってください。いったいどこへ行ってきたんですか?」
「南の森です」
「なんで南の森にそんなに上位種がいるんですか?」
「なんか集落作ってたみたいなので」
「えぇぇ!?」
叫んだのは受付の人だけだった。周りの沈黙が痛い。誰か何か言ってくれないかな?みんな驚きすぎだと思う。
「集落?集落ですか?」
「集落です。女性の方を二人助けましたが、今はおそらく警備兵の詰め所にいると思います」
「え?どうやって助けたんですか?」
「普通にですけど……?」
「いえ、普通にって……オークはどうしたんですか?」
「倒した」
「は?倒した?」
「はい。オークに集落は壊滅させてきました」
……………………。
「え、えと……三人で?」
「三人で」
「「「…………」」」
なんでみんな一斉に沈黙するんだ?
「あの、とりあえず解体依頼をお願いします」
「…………はっ!はいっ!今すぐ!」
バタバタと奥に駆け込んで行く受付嬢。周りからはヒソヒソ聞こえてくる。
「壊滅?壊滅って、オーク集落を?」
「上位種って……あんなにたくさんどうやって」
「キングオークって、ランクBだよな?」
「ランクDがランクBを倒したのか!?」
「確かパーティ"世界樹"って、結成初日にランクDに飛んだパーティだよな?」
「パーティメンバーもだよな」
「うお!ギルド最新記録じゃねえか!」
「信じられねえ。うちの息子と同年代にしか見えねえ」
………やまかし。
やがて受付嬢が職員を連れてくると、ユールはスタコラと職員について行った。いい加減野次馬がうるさい。
倉庫はモンスター57体をギリギリ収納できた。今日は他に代理解体の依頼がないから、解体職員総出でやれば明日の午前中にはできるらしい。オークの討伐部位に関しては、9個持っていたものを売り、残り一個は解体対象のオークからもらうから依頼は成功したと扱ってくれるようだ。報酬金も明日渡すと。
時間はすでに6時をすぎていたが、ユールたちは一度警備隊詰め所に顔を出した。ユールたちが助けた女性二人はまだそこにいて、めちゃくちゃお礼を言われた。身元はすでにわかっていて、一人はスルトの町娘だったが、もう一人は港町の方の住人だった。迎えが来るのが遅くなるそうだ。
女性二人と一緒にお話ししていれば、気づけば7時を回っていた。宿の食事の時間は終わってしまったので、道端のレストランで食事をする。
明日は午前中にギルドで素材などを受け取って、それから次の街に行くことになるね。
クイーンアントの素材や魔石を受け取り、報酬金の白金貨8枚と大金貨6枚を受け取る。
「それと、ギルドカードを提出ください。ランクを書き換えますので」
いつの間にかランクアップした。また登録二日目だったが、職員曰く、これほどの戦力をランクFにしておくなどもったいなくてできないそうです。
ランクDになって青に変わったカードを受け取り、三人はいつものようにボード前で受ける依頼を検討する。
「私はこのオークのやつがいいと思う」
「いやいや、ユール様。そこはフォレストリザードですよ」
「俺としてはブラッドホーンがいいと思うけどな」
あーだこーだ。
最終的には街の南の森でオーク討伐依頼を受けることになった。
「これをお願いします」
「はい、オーク討伐ですね。世界樹の皆さんは期待の新星ですから頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
期待の新星かどうかは知らないのでとりあえず流す。
「最近南の森でオークが多数目撃されているんです。くれぐれも注意してくださいね」
ちなみにオークの討伐証明部位は尻尾である。
今度はスルトの南門から出たユールたちは、まっすぐ南の森に歩いていく。この辺りはきたことのない場所だから地道に歩く。この街道の先には港町があるらしい。
あっさり見つかった森に足を踏み入れる三人。ユールはオークを探すために探索魔法を発動する。
「ここから北東に三匹いる」
「これで10分の3ですね」
「行きましょう、ユール様」
「ええ」
……………。
…………。
………。
……。
「これで9体目です」
「ラストね。探すからちょっと待ってて」
「ノルン、また魔法の腕を上げたね」
「そう?でもいつかはテオに追い越されるって。私、属性持ちじゃないし」
「そうでもないと思うよ?無属性を極めた人なんていなんだから」
「それもそうね」
「「ハハハハッ」」
オークを探すユールの隣で楽しそうな会話をしている二人。しかしユールの方はとんでもない気配を察知していた。
「二人とも、ここより南でオークが集落を作ってる」
探索魔法で感じた大量の気配を、ユールはそのまま二人に伝えた。
「オークの集落?」
「うん」
「だから最近この森でもオーク目撃が多かったのか」
「規模は?」
「オークの数は50匹ぐらい。その中でアーチャーオークが5体、メイジオークも5体、ジェネラルオークが2体、あとキングオークが1体いる」
「本格的に集落を作るつもりですね。まだ初期段階か」
「私たちだけでなんとかなると思いません?」
「そうね。オークはDランクだし、上位種もC。キングオークだけBだけど、本気出せばどうにでもなるわ」
ただのオーク討伐だったパーティ世界樹の目的が、オーク集落壊滅に変わった。
気配を殺しつつ南に進んでいくと、やがて噂の集落が見えてきた。
「あれですね」
「確かにこれなら思いっきり初期段階ですね。ユール様、作戦は?」
「ちょっと待って。…………集落奥に人の反応が2つあるわ」
「あれですね。オークは繁殖に他種族のメスを使うっていう」
「その時一番よく使われるのが人間の女性でしたね」
「とりあえずオークは女の敵。役割分担していくね。まずノルンにはこの集落を結界の中に閉じ込めてほしい」
「この集落丸ごとですか?」
「うん。これは中にいるオークが逃げられないようにすると同時に、出て行っているオークが集落に入れなくなるようにするため。もし無理矢理通ろうとするモンスターがいたら問答無用で叩き潰してよし」
「了解です!」
「テオと私は集落に突入する。私はまず女性2人を助けにいく。テオは先に暴れてて。私は女性2人をノルンに預けてから参戦する」
「わかりました。ユール様に危険がないように、俺ができる限り処分します」
「ノルンもお願いね。回復薬は渡しておくよ」
「はい!女の人の介護はお任せください」
「よし、じゃあ作戦開始」
役割分担も終わり、いよいよオーク集落壊滅作戦開始。
ノルンが結界魔法を発動し、ゆっくりとオークの集落を包み込む。2分ぐらいで結界は張り終わった。
「ユール様とテオは通れるようにしておきましたから」
「ありがと。殲滅が終わるまで結界は張りっぱなしにしておいて。終了の合図は……そうね、あの集落中央にある大きな建物、あれに雷を落とすからそれが合図ね」
「相変わらず派手ですね。わかりました!お気をつけて!」
ノルンに見送られ、ユールとテオは集落に踏み込む。
「じゃあ、私はここで」
「わかりました。派手に暴れておきますので、ユール様は安心して女性たちを救出してください」
「うん、頼んだ」
そう言ってテオはズバババッとオーク集落に殴り込んで行った。ぎゃあぎゃあとオークたちの悲鳴が聞こえてくる。その音を背に聞きながら、ユールも人間の気配がした集落奥の小屋を目指す。
入り口に見張りが2体いたので首をチョンパしてやった。増援がくる様子はない。テオにつきっきりらしい。
オークを収納して小屋に入ると、薄暗い部屋の隅に女性が2人縛られてぐったりと横たわっていた。
ゆさゆさと揺さぶると、悲鳴をあげながら起き出した。
「落ち着いてください!」
珍しく大声を出す。そうでもしないとこの人たちは落ち着いてくれなさそうだったから。
「きゃぁ………え?人?」
「人です。助けにきました」
「助け?助け……あなた、女の子……?」
「女の子ですね」
「ダメだよ……逃げないと、あいつが、オークが………」
「大丈夫です。この集落は壊滅させますので」
「え……?壊滅……?」
「ええ。一緒に逃げましょう」
「逃げる………私たち、助かるの?」
「助かります。ていうか助けにきたんです。脱出しますよ」
感極まってポロポロ泣いている女性たちの手の縄を切り、立たせて小屋を出る。
外は大乱戦の一言だった。テオのウィンドカッターがオーク2体の首を吹っ飛ばしたかと思えば、別方向から飛んできたファントムブロウがオークの上半身を切り飛ばしたり。ノルンも暇なのだろう、結界の近くにいるオークをひたすら攻撃しているようだ。
おかげでノルンの位置が把握しやすかった。この乱戦の中を突っ切るのは厳しいので、ノルンのいるところまで地下を通っていく。
「ノルン」
「わっ!」
地下からぬっと出てきたユールに、ノルンは小さく悲鳴をあげたが、ノルンとわかるといつもの調子を取り戻した。
女性2人をノルンに預け、ユールは地獄となっているオーク集落へ突っ込んでいく。
棍棒を振り上げるオークの首を爆散させ、テオに背後から襲いかかろうとしていた2体の体を両断する。
「終わったんですか?」
「終わったよ。せっかく面白い状況なんだから、一人で楽しんでないで私にも分けてよ」
「では俺が右、ユール様が左のやつを処理しましょう」
「いいわよ」
互いに背中を任せながら、テオが右、ユールが左にいるオークを片付けていく。風がオークの首を落とし、火がオークの頭を焼き、土がオークを貫き、水がオークに風穴を開ける。いろんな属性の攻撃が飛び交い、どんどんオークの数を減らしていく。中にはジェネラルとかメイジとかアーチャーとか混ざってた気がするが、よくわかんないからまとめて始末する。
オークの軍団が一段落したあたりで、ユールはあたりを見渡す。キングオークの姿が見えないのだ。気配は確かにこの集落にあるのに、なぜかここに現れない。
「テオ、オークの残りは任せてもいい?」
「いいですよ。ユール様はどちらに?」
「キングオークを探しに」
「確かにまだ見てませんね」
「じゃあ、ここはお願い」
「はい」
テオにその場を任せ、ユールはキングオークの気配をたどって集落の中を移動する。だいぶ集落の外れにいるみたい。
気配をたどってユールがたどり着いた場所は、さっき女性たちがいた小屋だった。そこではキングオークが破壊活動をしていた。思わずため息をつく。集落の危機に女を抱こうとか、どんだけクズなんだ。
さっさとクズを処分すべく、ユールはキングオークに向かっていく。目ざとくユールを見つけたキングオークは、ブヒブヒいいながらこっちへ来た。クズはお呼びでないのよ。
キングオークに風の手(パーティ名ではない)を発動し、集落中央の建物に向けて投げ飛ばす。そして仕上げに特大の雷をキングオークの頭に落とした。
どがぁぁぁぁぁぁん!!!!
中央の建物が木っ端微塵に吹き飛んだ。キングオークも頭部をえぐられて即死した。
閃光が消えたあと飛行魔法で跡地に向かい、キングオークの死体を収納。テオの方も片付いたようだ。
「大丈夫ですか?」
「問題ない。集落のリーダーがこんなときに女を抱こうとしたんだから、クズに遠慮はいらない」
「確かにそれはクズですね」
集落跡に転がっているオーク33体、アーチャーとメイジ5体ずつ、ジェネラル2体を異次元収納に入れ、二人はノルンのところに戻る。
「お疲れ様です!片付きましたか?」
「片付いたよ。お姉ちゃんたちは?」
「救出されて安心したのかな、寝ちゃった。ガーネット飲ませたから怪我も治ってる」
「じゃあ早く移動しようか」
せっかく眠っているところ悪いが、女性たちは起こさせてもらった。服が非常に無残なことになっていたので、異次元収納から布を二枚取り出し、くるませた。テオは気を利かせてずっと背を向けていましたよ。
女性のうち片方は普通に歩けていたが、もう一人は歩くのもやっとなほど衰弱していたのでテオが抱えることになった。テオ曰く、大人の女性とは思えないほど軽いそうだ。忘れてはいけないけど、テオはまだ12歳です。
女性2人のことを考慮してゆっくり進む。本当は早くギルドに戻ってオークの解体を依頼したいが、やっぱり人命が最優先だ。
行きは3時間だった道のりを5時間かけて街に戻る。思えばずいぶん街の近くに集落ができたものだ。
「ん?今朝出て行った嬢ちゃんたちじゃないか……ってその人たちどうした?」
門番の兵隊さんが、この奇妙な一行に疑問に思って聞いてきた。三人で出て行ったはずなのに、戻ってきたら布にくるまってる女性が一人と、同じく布にくるまってテオに抱えられている女性が増えているのだ。兵隊さんが疑問に思うのも不思議ではない。
「オークの集落にとらわれていたので助けました」
「はぁ、なるほど……ってオークの集落!?」
「壊滅させたので問題ありません。とりあえずこの人たちの保護をお願いします」
「あ、ああ。もちろんだ。おいお前ら!!」
兵士さんが女性たちを保護してバタバタしている間に手早く入街する。そのまま大通りを北上して冒険者ギルドに向かう。
現在午後5時をすぎている。ギルドは依頼報告の冒険者でいっぱいだった。その人ごみをくぐり抜け、ユールはカウンターまで行く。
「Dランクパーティの世界樹です。オーク討伐の依頼報告と解体依頼をお願いしたい」
「では依頼の報告を……」
「その前に解体依頼の方を」
「……?わかりました。何を解体希望ですか?」
「えーと、オーク系統の魔物が57体です」
おや?周りがシーンってなった。
「5、57体ですか……?」
「はい。このうちの44体がオーク、メイジとアーチャーが5体ずつ、ジェネラルが2体、キングが1体………」
「ちょっと待ってください。いったいどこへ行ってきたんですか?」
「南の森です」
「なんで南の森にそんなに上位種がいるんですか?」
「なんか集落作ってたみたいなので」
「えぇぇ!?」
叫んだのは受付の人だけだった。周りの沈黙が痛い。誰か何か言ってくれないかな?みんな驚きすぎだと思う。
「集落?集落ですか?」
「集落です。女性の方を二人助けましたが、今はおそらく警備兵の詰め所にいると思います」
「え?どうやって助けたんですか?」
「普通にですけど……?」
「いえ、普通にって……オークはどうしたんですか?」
「倒した」
「は?倒した?」
「はい。オークに集落は壊滅させてきました」
……………………。
「え、えと……三人で?」
「三人で」
「「「…………」」」
なんでみんな一斉に沈黙するんだ?
「あの、とりあえず解体依頼をお願いします」
「…………はっ!はいっ!今すぐ!」
バタバタと奥に駆け込んで行く受付嬢。周りからはヒソヒソ聞こえてくる。
「壊滅?壊滅って、オーク集落を?」
「上位種って……あんなにたくさんどうやって」
「キングオークって、ランクBだよな?」
「ランクDがランクBを倒したのか!?」
「確かパーティ"世界樹"って、結成初日にランクDに飛んだパーティだよな?」
「パーティメンバーもだよな」
「うお!ギルド最新記録じゃねえか!」
「信じられねえ。うちの息子と同年代にしか見えねえ」
………やまかし。
やがて受付嬢が職員を連れてくると、ユールはスタコラと職員について行った。いい加減野次馬がうるさい。
倉庫はモンスター57体をギリギリ収納できた。今日は他に代理解体の依頼がないから、解体職員総出でやれば明日の午前中にはできるらしい。オークの討伐部位に関しては、9個持っていたものを売り、残り一個は解体対象のオークからもらうから依頼は成功したと扱ってくれるようだ。報酬金も明日渡すと。
時間はすでに6時をすぎていたが、ユールたちは一度警備隊詰め所に顔を出した。ユールたちが助けた女性二人はまだそこにいて、めちゃくちゃお礼を言われた。身元はすでにわかっていて、一人はスルトの町娘だったが、もう一人は港町の方の住人だった。迎えが来るのが遅くなるそうだ。
女性二人と一緒にお話ししていれば、気づけば7時を回っていた。宿の食事の時間は終わってしまったので、道端のレストランで食事をする。
明日は午前中にギルドで素材などを受け取って、それから次の街に行くことになるね。
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