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4 髪切り屋敷の謎【恐怖指数 ☆★★★★】
髪切り屋敷の謎【恐怖指数 ☆★★★★】 5
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乱れた画面は、白いもやがかかり始めていた。心霊現象がおきるときには、いつもこうなる。
《冴子くん、霊現象が起こり始めているようだ。部屋に変化はあるか?》
《足音が、聞こえる気がする》
冴子は耳をすましているようだ。
もやが濃い部分がある。その奥から、足が見える。赤いヒールをはいた女性の足。
一歩、一歩、ゆっくりと近づいてくる。
《冴子くん、後ろだ》
《わかって……けど、うごけ……》
冴子は座ったまま、金縛り状態になったようだ。
女性が近づき、ひざ下の赤いワンピースも見え始める。揺れるように、後ろから冴子に近づいていく。
――髪を……
しわがれた女性の、心にズンと沈むような声。
――髪を、ちょうだい。
一歩、また一歩近づいて、ワンピースの胸が見え、顔が見えた。
焼きただれて顔の凹凸がなくなり、ひふが垂れて揺れている。目や口が穴のように開き、人相も分からない。
――髪をちょうだい。
その霊の腕も骨が見えるほど肉が流れていて、その手に大ぶりなナイフがにぎられている。
霊は冴子の前に回り込み、ぬっと顔を近づけた。
《ひっ》
冴子は息を飲む。恐怖に表情が強張った。
焼けた指で、冴子の頬をなでる。肉片が頬に残った。
――きれいな顔。その顔も、ちょうだい。
「ヤベーやつだ。アカリ、札を持って行くぞ!」
「うん!」
タブレットを置いて、アカリと翔陽は駆け出した。赤い部屋に飛び込む。
「冴子!」
「……ぐっ……」
冴子の首には自分の髪が巻き付きついて締め上げられていた。上を向かされた冴子の顔を霊は至近距離で見つめ、無防備にさらされた白い首に、ナイフを突き立てようとしているところだった。
「答えられなくしておいて、首切ろうとしてんじゃねえよ」
翔陽が霊に札を張ろうとする前に、動きがとまった。後ろから追いかけていたアカリも同じだ。
「くそっ、札を持ってるのに……、なんで」
翔陽も金縛りになったようだ。
第一回のアパートの中で、札の模様を顔に描かれていた翔陽は動けた。スマートフォンに札を表示させたアカリも金縛りが解けた。
しかし今、翔陽もアカリも動けなくなってしまった。
――そんなもの、意味がない。
霊は舌のない口でニタリと笑う。
(前よりも、力の強い霊ってこと?)
――めざわりだ。
霊が手をかざすと、翔陽は吹き飛び、壁にたたきつけられた。大きな音がして、翔陽はぐったりと倒れる。額から血が流れた。
「イヤッ、翔ちゃん!」
(まさか翔ちゃん、死んじゃったんじゃ……)
霊は、入り口付近で固まっていたアカリを振り返る。
――髪の短い女はいらない。殺す。
霊がアカリに近づいてきた。ナイフを振り上げる。
「アカ……、……!」
冴子がもがいているが、体が動かない。
(ああ、来る……)
全身が焼けただれている霊が。
腐臭を放ち、肉をしたたらせながら。
アカリの目の前に。
今度は、指先すら動かなかった。
(もう、ダメ……!)
アカリは強く目をつむった。
《冴子くん、霊現象が起こり始めているようだ。部屋に変化はあるか?》
《足音が、聞こえる気がする》
冴子は耳をすましているようだ。
もやが濃い部分がある。その奥から、足が見える。赤いヒールをはいた女性の足。
一歩、一歩、ゆっくりと近づいてくる。
《冴子くん、後ろだ》
《わかって……けど、うごけ……》
冴子は座ったまま、金縛り状態になったようだ。
女性が近づき、ひざ下の赤いワンピースも見え始める。揺れるように、後ろから冴子に近づいていく。
――髪を……
しわがれた女性の、心にズンと沈むような声。
――髪を、ちょうだい。
一歩、また一歩近づいて、ワンピースの胸が見え、顔が見えた。
焼きただれて顔の凹凸がなくなり、ひふが垂れて揺れている。目や口が穴のように開き、人相も分からない。
――髪をちょうだい。
その霊の腕も骨が見えるほど肉が流れていて、その手に大ぶりなナイフがにぎられている。
霊は冴子の前に回り込み、ぬっと顔を近づけた。
《ひっ》
冴子は息を飲む。恐怖に表情が強張った。
焼けた指で、冴子の頬をなでる。肉片が頬に残った。
――きれいな顔。その顔も、ちょうだい。
「ヤベーやつだ。アカリ、札を持って行くぞ!」
「うん!」
タブレットを置いて、アカリと翔陽は駆け出した。赤い部屋に飛び込む。
「冴子!」
「……ぐっ……」
冴子の首には自分の髪が巻き付きついて締め上げられていた。上を向かされた冴子の顔を霊は至近距離で見つめ、無防備にさらされた白い首に、ナイフを突き立てようとしているところだった。
「答えられなくしておいて、首切ろうとしてんじゃねえよ」
翔陽が霊に札を張ろうとする前に、動きがとまった。後ろから追いかけていたアカリも同じだ。
「くそっ、札を持ってるのに……、なんで」
翔陽も金縛りになったようだ。
第一回のアパートの中で、札の模様を顔に描かれていた翔陽は動けた。スマートフォンに札を表示させたアカリも金縛りが解けた。
しかし今、翔陽もアカリも動けなくなってしまった。
――そんなもの、意味がない。
霊は舌のない口でニタリと笑う。
(前よりも、力の強い霊ってこと?)
――めざわりだ。
霊が手をかざすと、翔陽は吹き飛び、壁にたたきつけられた。大きな音がして、翔陽はぐったりと倒れる。額から血が流れた。
「イヤッ、翔ちゃん!」
(まさか翔ちゃん、死んじゃったんじゃ……)
霊は、入り口付近で固まっていたアカリを振り返る。
――髪の短い女はいらない。殺す。
霊がアカリに近づいてきた。ナイフを振り上げる。
「アカ……、……!」
冴子がもがいているが、体が動かない。
(ああ、来る……)
全身が焼けただれている霊が。
腐臭を放ち、肉をしたたらせながら。
アカリの目の前に。
今度は、指先すら動かなかった。
(もう、ダメ……!)
アカリは強く目をつむった。
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