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4 髪切り屋敷の謎【恐怖指数 ☆★★★★】
髪切り屋敷の謎【恐怖指数 ☆★★★★】 3
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「京四郎くんはわたしを、暗い場所で一人にしないって、約束してくれたよね?」
「アカリくんは、暗闇を克服できたんだろ? じゃあ、もういいじゃないか」
京四郎はニッコリとほほ笑む。
(京四郎くんのウソツキ! キチク! 今だって暗いところは、普通に怖いよ!)
京四郎は柔和な笑顔を見せておいて、一度言い出したことは曲げない性格であることはよく知っている。今はこらえようとアカリは思った。
(だって、次はないもの。今回で、心霊スポット探索は終わりにするんだから!)
京四郎は他に、タブレットを翔陽に渡し、冴子からもらったお札を全員一枚ずつ持っていることを確認した。
それから京四郎と別れ、三人で玄関ポーチの先に進んだ。両開きだったらしいドアは倒れて粉々になっていて、ドア枠だけ残っている。毛足の長いじゅうたんが敷かれていたようだが、土に埋もれてボロボロだ。それに、壁のがれきなども混ざっていて、慎重に歩かなければ転んでケガをしてしまいそうだった。
「このドアの下、なにかはみ出してるな」
太い板の下に、糸の束ようなものがある。
「髪の毛のようね」
「なんだ、髪か」
そう言いながら翔陽は「念のため」というように板を持ち上げた。
「うあっ」
翔陽は手放す。
板の下には、尋常ではない長い髪の毛のカタマリが、びっしりと隠れていた。
「きもっ。床屋でもないのに、なんで髪がこんなにあるんだよ」
《髪を欲しがる霊のうわさ、本当かもな》
イヤホンから京四郎の声が聞こえてきた。
《荒廃した建物の心霊スポットは、ラクガキをされることが多いけれど、ここはないようだ》
「ここまでたどり着いたヤツが少ないってことか?」
翔陽がたずねる。
《それもあるかもしれないけど、傾向として、危険な場所ほどラクガキがない》
(だから、おどかさないでよね!)
アカリは心の中で抗議した。
中央の奥に大きな階段があり、途中から西と東に分かれた、らせん階段になっている。
「じゃ、おれは西側の一階から調べるわ」
「私は東の二階ね」
アカリを残して、二人は行ってしまう。
(二人ともすごいな。よく怖くないな)
アカリも行かないわけにはいかない。ハンディカメラを回しながら、幽霊が出てきたら突きつけられるように、ライトを持った手でお札も持った。
(うう、幽霊の気配がビンビンにするよう)
腰が引けて前かがみになりながら、一つ目の部屋に入ると、食堂のようだった。
(広いなあ。家具はだいたい片付けられてるけど、残されていたテーブルや棚とかが古くなって、くずれてる)
アカリは感想を口には出さないけれど、翔陽はしゃべりながら探索しているようで、ずっと声が聞こえている。かなり早いペースで部屋を見回っているようだ。
冴子もあまりしゃべっていないが、どんな部屋に入ったのかは、かんたんに説明していた。
(わたしもしゃべったほうがいいかな。でも恥ずかしいし。京四郎くんが編集でなんとかしてくれるよね)
だいたい、動画のクオリティの心配などしている余裕はない。担当エリアを見て回るだけで精一杯だ。
「うわっ……」
懐中電灯で注意深く照らしていくと、所々、髪の毛の束が落ちていた。
(さすが『髪切り屋敷』だ。これ、みんな幽霊に切られた髪なのかなあ)
「ここも、ひどい……」
半開きになっていた曇りガラスのドアを開くと、大きなバスルームがあり、腐ったような異臭がした。窓ガラスが割れていて、壁も一部崩れているので、野外と一体化している。
臭いを放っているのは浴槽で、雨水がたまったところに微生物や動物が入り込んで、水が腐ったようだ。
(しかも、髪がたくさん浮いてるよ。なにこれ……)
気持ち悪くて、直視できなかった。
とにかく目的の赤い部屋はなさそうだと思っていると、翔陽の声が聞こえてきた。
《赤い部屋、あったぞ! 東側二階、一番奥の部屋だ》
アカリは言われた部屋にかけつけた。すでに冴子は来ていた。
「ホントに、赤い……」
鮮やかな赤だ。他の部屋とあまりにも違う。
「アカリくんは、暗闇を克服できたんだろ? じゃあ、もういいじゃないか」
京四郎はニッコリとほほ笑む。
(京四郎くんのウソツキ! キチク! 今だって暗いところは、普通に怖いよ!)
京四郎は柔和な笑顔を見せておいて、一度言い出したことは曲げない性格であることはよく知っている。今はこらえようとアカリは思った。
(だって、次はないもの。今回で、心霊スポット探索は終わりにするんだから!)
京四郎は他に、タブレットを翔陽に渡し、冴子からもらったお札を全員一枚ずつ持っていることを確認した。
それから京四郎と別れ、三人で玄関ポーチの先に進んだ。両開きだったらしいドアは倒れて粉々になっていて、ドア枠だけ残っている。毛足の長いじゅうたんが敷かれていたようだが、土に埋もれてボロボロだ。それに、壁のがれきなども混ざっていて、慎重に歩かなければ転んでケガをしてしまいそうだった。
「このドアの下、なにかはみ出してるな」
太い板の下に、糸の束ようなものがある。
「髪の毛のようね」
「なんだ、髪か」
そう言いながら翔陽は「念のため」というように板を持ち上げた。
「うあっ」
翔陽は手放す。
板の下には、尋常ではない長い髪の毛のカタマリが、びっしりと隠れていた。
「きもっ。床屋でもないのに、なんで髪がこんなにあるんだよ」
《髪を欲しがる霊のうわさ、本当かもな》
イヤホンから京四郎の声が聞こえてきた。
《荒廃した建物の心霊スポットは、ラクガキをされることが多いけれど、ここはないようだ》
「ここまでたどり着いたヤツが少ないってことか?」
翔陽がたずねる。
《それもあるかもしれないけど、傾向として、危険な場所ほどラクガキがない》
(だから、おどかさないでよね!)
アカリは心の中で抗議した。
中央の奥に大きな階段があり、途中から西と東に分かれた、らせん階段になっている。
「じゃ、おれは西側の一階から調べるわ」
「私は東の二階ね」
アカリを残して、二人は行ってしまう。
(二人ともすごいな。よく怖くないな)
アカリも行かないわけにはいかない。ハンディカメラを回しながら、幽霊が出てきたら突きつけられるように、ライトを持った手でお札も持った。
(うう、幽霊の気配がビンビンにするよう)
腰が引けて前かがみになりながら、一つ目の部屋に入ると、食堂のようだった。
(広いなあ。家具はだいたい片付けられてるけど、残されていたテーブルや棚とかが古くなって、くずれてる)
アカリは感想を口には出さないけれど、翔陽はしゃべりながら探索しているようで、ずっと声が聞こえている。かなり早いペースで部屋を見回っているようだ。
冴子もあまりしゃべっていないが、どんな部屋に入ったのかは、かんたんに説明していた。
(わたしもしゃべったほうがいいかな。でも恥ずかしいし。京四郎くんが編集でなんとかしてくれるよね)
だいたい、動画のクオリティの心配などしている余裕はない。担当エリアを見て回るだけで精一杯だ。
「うわっ……」
懐中電灯で注意深く照らしていくと、所々、髪の毛の束が落ちていた。
(さすが『髪切り屋敷』だ。これ、みんな幽霊に切られた髪なのかなあ)
「ここも、ひどい……」
半開きになっていた曇りガラスのドアを開くと、大きなバスルームがあり、腐ったような異臭がした。窓ガラスが割れていて、壁も一部崩れているので、野外と一体化している。
臭いを放っているのは浴槽で、雨水がたまったところに微生物や動物が入り込んで、水が腐ったようだ。
(しかも、髪がたくさん浮いてるよ。なにこれ……)
気持ち悪くて、直視できなかった。
とにかく目的の赤い部屋はなさそうだと思っていると、翔陽の声が聞こえてきた。
《赤い部屋、あったぞ! 東側二階、一番奥の部屋だ》
アカリは言われた部屋にかけつけた。すでに冴子は来ていた。
「ホントに、赤い……」
鮮やかな赤だ。他の部屋とあまりにも違う。
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