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4 髪切り屋敷の謎【恐怖指数 ☆★★★★】
髪切り屋敷の謎【恐怖指数 ☆★★★★】 2
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しばらくすると、立派な建物が見えてきた。まるでお城のような建物で、バルコニーは広く、玄関ポーチはドッシリとした円柱になっている。
しかし、建てられたころは美しかっただろう白い壁はくすんで汚れ、朽ちて崩れている。広い窓も割れている部分が多く、玄関を開けなくても、どこからでも入れてしまう。
「森の中に一軒だけ建物があるなんて、おかしくね?」
「そうだね。お金持ちの別荘だと言われているよ」
翔陽の疑問に答えながら、京四郎はいつものように、カバンから機材を出したりして、待機するための場所づくりをしている。よくもこの量を一人で運んだものだ。
「こんな場所に遊びに来るのか。金持ちは変わってるよな」
「遊びならいいんだけどね」
京四郎のふくみのある言い方に、建物を見ていた翔陽が振り返った。
「身内が罪を犯したり、世間に隠したい奇病にかかった人を隔離するための、いわば豪華な牢獄だったという説もあるよ」
京四郎はニヤリと笑う。
(出た、怖いエピソード!)
心霊スポットなのだから当然なのだが、アカリは知りたくないと思った。
「ここで目撃される霊は、全身火傷をした女性だという」
「火傷って……、火事でもあったのか? この建物、朽ちてはいるけど、焦げていないっぽいけどな」
翔陽が周囲を見回しながら言うと、「火事じゃない」と京四郎は否定した。
「その女性は、日光を浴びると火傷をしてしまう病気だったようだ。だから家から出られなかった。しかも全身の毛が生えない症状もあったらしい」
「全身の毛って、髪の毛とか?」
アカリがたずねると京四郎はうなずいて、「眉毛も、睫毛も」と答える。
「死んでもいいから晴れた日に外に出たいと家から飛び出して、全身の皮膚が火傷をしたように焼けてとけ落ち、死んでしまったと言われている」
アカリは胸を押さえた。
(怖いけど、かわいそう……)
「その女性は赤が好きで、彼女の部屋だけ、壁や床が真っ赤らしい。そこに女性の霊が出る。そして、部屋に来た髪の長い女性に『髪をちょうだい』と頼むんだ」
京四郎は冴子を脅かすように言った。四人の中で唯一、髪の長い女性である冴子は表情を変えない。アカリはごくりとつばを飲み込む。
「頼まれたら、どうすればいいの?」
「いい質問だね、アカリくん。『いいよ』と了承すると髪を切られ、『いやだ』と断ると首を切られるそうだ。だからここは通称『髪切り屋敷』と呼ばれている」
京四郎はニコニコとしている。
(オカルト話をする京四郎くんは、いつも楽しそうだな)
アカリはゲンナリとする。
「そういえば冴子くん、なぜそんなに髪を伸ばしているんだ?」
冴子のストレートの黒髪は腰まである。ツヤツヤしていて、手入れが大変そうだ。ちなみに、冴子は今日も学校のジャージ姿だった。
「これは、願掛け。なりたい自分になれたら切る」
「なりたい自分って、なに?」
アカリがたずねると、冴子にぽんぽんと頭に手をのせられて、ごまかされてしまった。
(冴子ちゃんは大人っぽくて、美人で、頭もいいのに。なにが足りないんだろう?)
アカリは首をかしげた。
「さて、みんなに配るものがいくつかある。ひとつは『ワイヤレス・ヘッドセット』だ」
片耳用で、耳穴に差し込むスピーカーと、棒状の小さなマイクがついている、コンパクトなものだ。
「今まではモニターで見ているぼくは音声を確認できたけど、ぼくからみんなに呼びかける時には、スマホを使わなければいけなかった。今日からはスマホアプリでグループ通話をオンにしていれば、どこにいてもみんなで会話ができる」
「おおっ、SPみたいでカッケーな!」
「彼らが使っているのは無線だけどね」
いつものように出演する翔陽と冴子には自撮り用のカメラを渡し、それとは別に、もう一台のカメラを二人に渡した。
「カメラ二台持ち?」
「そう、カメラマンのアカリくんとは別行動をしてもらうからね」
(あれ、私は今日、待機かな?)
だったらいいなあと思いながら、説明の続きを待つ。
「これだけ広い洋館だから、三人で手分けをして『赤い部屋』を探してほしい。そうだな、二階建てだから、東側を翔陽、西側の一階をアカリくん、二階を冴子くんに探索してもらおうか」
「なるほど、部屋を撮るのと自撮り用で、カメラが二台なんだ」
「別行動をするから、ヘッドセットを配ったのね」
京四郎は、翔陽と冴子に向かって「ご名答」とニコリと笑う。
「待って待って、わたしも一人で探索するの?」
「アカリくんは顔出しNGだから、自撮りはしなくていいよ」
「そうじゃなくて、京四郎くんはわたしを、暗い場所で一人にしないって、約束してくれたよね?」
それが動画撮影に協力する前提だったはずだ。前回はアカリが神隠しにあってしまったので、仕方がないが……。
「アカリくんは、暗闇を克服できたんだろ? じゃあ、もういいじゃないか」
京四郎はニッコリとほほ笑む。
ギギギッと、アカリは涙目で京四郎をにらんだ。
(京四郎くんのウソツキ! キチク! 今だって暗いところは、普通に怖いよ!)
しかし、建てられたころは美しかっただろう白い壁はくすんで汚れ、朽ちて崩れている。広い窓も割れている部分が多く、玄関を開けなくても、どこからでも入れてしまう。
「森の中に一軒だけ建物があるなんて、おかしくね?」
「そうだね。お金持ちの別荘だと言われているよ」
翔陽の疑問に答えながら、京四郎はいつものように、カバンから機材を出したりして、待機するための場所づくりをしている。よくもこの量を一人で運んだものだ。
「こんな場所に遊びに来るのか。金持ちは変わってるよな」
「遊びならいいんだけどね」
京四郎のふくみのある言い方に、建物を見ていた翔陽が振り返った。
「身内が罪を犯したり、世間に隠したい奇病にかかった人を隔離するための、いわば豪華な牢獄だったという説もあるよ」
京四郎はニヤリと笑う。
(出た、怖いエピソード!)
心霊スポットなのだから当然なのだが、アカリは知りたくないと思った。
「ここで目撃される霊は、全身火傷をした女性だという」
「火傷って……、火事でもあったのか? この建物、朽ちてはいるけど、焦げていないっぽいけどな」
翔陽が周囲を見回しながら言うと、「火事じゃない」と京四郎は否定した。
「その女性は、日光を浴びると火傷をしてしまう病気だったようだ。だから家から出られなかった。しかも全身の毛が生えない症状もあったらしい」
「全身の毛って、髪の毛とか?」
アカリがたずねると京四郎はうなずいて、「眉毛も、睫毛も」と答える。
「死んでもいいから晴れた日に外に出たいと家から飛び出して、全身の皮膚が火傷をしたように焼けてとけ落ち、死んでしまったと言われている」
アカリは胸を押さえた。
(怖いけど、かわいそう……)
「その女性は赤が好きで、彼女の部屋だけ、壁や床が真っ赤らしい。そこに女性の霊が出る。そして、部屋に来た髪の長い女性に『髪をちょうだい』と頼むんだ」
京四郎は冴子を脅かすように言った。四人の中で唯一、髪の長い女性である冴子は表情を変えない。アカリはごくりとつばを飲み込む。
「頼まれたら、どうすればいいの?」
「いい質問だね、アカリくん。『いいよ』と了承すると髪を切られ、『いやだ』と断ると首を切られるそうだ。だからここは通称『髪切り屋敷』と呼ばれている」
京四郎はニコニコとしている。
(オカルト話をする京四郎くんは、いつも楽しそうだな)
アカリはゲンナリとする。
「そういえば冴子くん、なぜそんなに髪を伸ばしているんだ?」
冴子のストレートの黒髪は腰まである。ツヤツヤしていて、手入れが大変そうだ。ちなみに、冴子は今日も学校のジャージ姿だった。
「これは、願掛け。なりたい自分になれたら切る」
「なりたい自分って、なに?」
アカリがたずねると、冴子にぽんぽんと頭に手をのせられて、ごまかされてしまった。
(冴子ちゃんは大人っぽくて、美人で、頭もいいのに。なにが足りないんだろう?)
アカリは首をかしげた。
「さて、みんなに配るものがいくつかある。ひとつは『ワイヤレス・ヘッドセット』だ」
片耳用で、耳穴に差し込むスピーカーと、棒状の小さなマイクがついている、コンパクトなものだ。
「今まではモニターで見ているぼくは音声を確認できたけど、ぼくからみんなに呼びかける時には、スマホを使わなければいけなかった。今日からはスマホアプリでグループ通話をオンにしていれば、どこにいてもみんなで会話ができる」
「おおっ、SPみたいでカッケーな!」
「彼らが使っているのは無線だけどね」
いつものように出演する翔陽と冴子には自撮り用のカメラを渡し、それとは別に、もう一台のカメラを二人に渡した。
「カメラ二台持ち?」
「そう、カメラマンのアカリくんとは別行動をしてもらうからね」
(あれ、私は今日、待機かな?)
だったらいいなあと思いながら、説明の続きを待つ。
「これだけ広い洋館だから、三人で手分けをして『赤い部屋』を探してほしい。そうだな、二階建てだから、東側を翔陽、西側の一階をアカリくん、二階を冴子くんに探索してもらおうか」
「なるほど、部屋を撮るのと自撮り用で、カメラが二台なんだ」
「別行動をするから、ヘッドセットを配ったのね」
京四郎は、翔陽と冴子に向かって「ご名答」とニコリと笑う。
「待って待って、わたしも一人で探索するの?」
「アカリくんは顔出しNGだから、自撮りはしなくていいよ」
「そうじゃなくて、京四郎くんはわたしを、暗い場所で一人にしないって、約束してくれたよね?」
それが動画撮影に協力する前提だったはずだ。前回はアカリが神隠しにあってしまったので、仕方がないが……。
「アカリくんは、暗闇を克服できたんだろ? じゃあ、もういいじゃないか」
京四郎はニッコリとほほ笑む。
ギギギッと、アカリは涙目で京四郎をにらんだ。
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