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2 ひとりかくれんぼ【恐怖指数 ☆☆☆★★】
ひとりかくれんぼ【恐怖指数 ☆☆☆★★】 3
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「冴子ちゃんからもらったお札、渡したでしょ。翔ちゃん一人になるから、もしもの時のためにって」
翔陽は「あっ」と声をもらして、バツの悪そうな顔になった。
「悪い、家に置いてきたっぽい」
「なにやってるのよ、もうっ」
そのとき突然、大きな音がして二人は肩を跳ね上げた。
「おおっ、びびった。京四郎からだ」
翔陽がリュックからスマートフォンを取り出す。
(やだ、脅かさないでよ!)
アカリはドキドキしている胸を押さえた。
翔陽は音声をスピーカーにして、アカリにも聞こえるようにする。
《聞いていたよ、お札を忘れたんだな》
「なくても、なんとかなるだろ」
《万が一のことがあれば、ユーチューブどころじゃない。アカリくんに描いてもらって》
「描くって?」
《札の模様を、翔陽の額に直接描くんだ》
「顔かよ! イヤだよ」
《翔陽の安全のためだ》
「うそつけ、単なるバツゲームだろ!」
《そうとも言う》
「認めやがった……」
翔陽はスマートフォンをにらみながら顔をしかめた。
札の画像が「刀印護符」という言葉と共に、アカリのスマートフォンに送られてきた。
(なにかの地図みたいな、複雑そうな模様だなあ。左右対称でもないし)
《アカリくん、できるかぎり正確に描くようにね》
「うん、やってみる」
京四郎の電話が切れた。
アカリは翔陽が映るようにカメラを三脚に設置し、ライトスタンドを立てて部屋を照らした。どれもそれほど重くはないとはいえ、大変だ。
(わたしったら、なかなか役に立ってる)
それからカバンからペンを取り出した。
「あっ、黒の油性ペンしかない」
「……いいよ、それで」
翔陽は観念したように、うなだれた。
「はい、顔を上げて」
アカリはカメラに映らないように翔陽の前に座った。近くから見ると、改めて翔陽は整った顔をしているなと思う。
(翔ちゃん、ちょっと顔が変わったな。男の子っぽくなった。前はもっとかわいい感じだったのに。身長も、いつの間にか抜かされてたし……)
アカリの胸がトクンとした。
「どうした、アカリ」
翔陽に声をかけられて我に返る。
「ごめん、すぐに描くね」
縦長の札なので、そこに描かれた符形も縦に長い。額だけにおさまらなかった。
「翔ちゃん、目をつむって」
「うあ……やっぱ顔までくるよな。くすぐってえ!」
額から始まり、目の上や頬を通って、鼻の下あたりで描き終わった。
「よし、お札の模様とそっくり! ……ぷっ、翔ちゃん変な顔」
「笑うなよ、サイアク」
翔陽は短い眉をつり上げた。アカリはパンツのお尻のポケットにスマートフォンをしまった。
「わたしの役目は終わりだね。翔ちゃん、『ひとりかくれんぼ』がんばって!」
「はいよ」
ひらひらと手を振る翔陽に見送られて、アカリはライトを持って退出した。
外に出ると寒気が去っていった。ほっと息をつく。
(やっぱり、あの部屋には幽霊がいるんだな。翔ちゃん一人でだいじょうぶかな)
「アカリくん、どうしてドアの前に突っ立っているの?」
京四郎に声をかけられた。
「ほら、わたしが部屋の近くにいたほうが、幽霊が出やすいでしょ」
「アカリくんが心霊現象を引き起こす有効距離を知りたいよね。そんなに離れてないし、とりあえず、こっちにおいで。翔陽が『ひとりかくれんぼ』を始めてるよ」
京四郎に手招きをされる。
翔陽は「あっ」と声をもらして、バツの悪そうな顔になった。
「悪い、家に置いてきたっぽい」
「なにやってるのよ、もうっ」
そのとき突然、大きな音がして二人は肩を跳ね上げた。
「おおっ、びびった。京四郎からだ」
翔陽がリュックからスマートフォンを取り出す。
(やだ、脅かさないでよ!)
アカリはドキドキしている胸を押さえた。
翔陽は音声をスピーカーにして、アカリにも聞こえるようにする。
《聞いていたよ、お札を忘れたんだな》
「なくても、なんとかなるだろ」
《万が一のことがあれば、ユーチューブどころじゃない。アカリくんに描いてもらって》
「描くって?」
《札の模様を、翔陽の額に直接描くんだ》
「顔かよ! イヤだよ」
《翔陽の安全のためだ》
「うそつけ、単なるバツゲームだろ!」
《そうとも言う》
「認めやがった……」
翔陽はスマートフォンをにらみながら顔をしかめた。
札の画像が「刀印護符」という言葉と共に、アカリのスマートフォンに送られてきた。
(なにかの地図みたいな、複雑そうな模様だなあ。左右対称でもないし)
《アカリくん、できるかぎり正確に描くようにね》
「うん、やってみる」
京四郎の電話が切れた。
アカリは翔陽が映るようにカメラを三脚に設置し、ライトスタンドを立てて部屋を照らした。どれもそれほど重くはないとはいえ、大変だ。
(わたしったら、なかなか役に立ってる)
それからカバンからペンを取り出した。
「あっ、黒の油性ペンしかない」
「……いいよ、それで」
翔陽は観念したように、うなだれた。
「はい、顔を上げて」
アカリはカメラに映らないように翔陽の前に座った。近くから見ると、改めて翔陽は整った顔をしているなと思う。
(翔ちゃん、ちょっと顔が変わったな。男の子っぽくなった。前はもっとかわいい感じだったのに。身長も、いつの間にか抜かされてたし……)
アカリの胸がトクンとした。
「どうした、アカリ」
翔陽に声をかけられて我に返る。
「ごめん、すぐに描くね」
縦長の札なので、そこに描かれた符形も縦に長い。額だけにおさまらなかった。
「翔ちゃん、目をつむって」
「うあ……やっぱ顔までくるよな。くすぐってえ!」
額から始まり、目の上や頬を通って、鼻の下あたりで描き終わった。
「よし、お札の模様とそっくり! ……ぷっ、翔ちゃん変な顔」
「笑うなよ、サイアク」
翔陽は短い眉をつり上げた。アカリはパンツのお尻のポケットにスマートフォンをしまった。
「わたしの役目は終わりだね。翔ちゃん、『ひとりかくれんぼ』がんばって!」
「はいよ」
ひらひらと手を振る翔陽に見送られて、アカリはライトを持って退出した。
外に出ると寒気が去っていった。ほっと息をつく。
(やっぱり、あの部屋には幽霊がいるんだな。翔ちゃん一人でだいじょうぶかな)
「アカリくん、どうしてドアの前に突っ立っているの?」
京四郎に声をかけられた。
「ほら、わたしが部屋の近くにいたほうが、幽霊が出やすいでしょ」
「アカリくんが心霊現象を引き起こす有効距離を知りたいよね。そんなに離れてないし、とりあえず、こっちにおいで。翔陽が『ひとりかくれんぼ』を始めてるよ」
京四郎に手招きをされる。
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