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2 ひとりかくれんぼ【恐怖指数 ☆☆☆★★】

ひとりかくれんぼ【恐怖指数 ☆☆☆★★】 1

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 それから一週間後。
 アカリは翔陽といっしょに、京四郎との待ち合わせ場所に向かっていた。
 時間は夜の六時五十分。あたりはすっかり暗くなっている。
「どんな心霊スポットに行くの?」
 アカリがたずねる。二人とも動きやすいラフな格好をしていた。翔陽は大きなリュックを背負っている。
「京四郎からは、住所しか教えてもらってない。言われた荷物は持って来たけど、なにをするのかも知らない。動画的に、そのほうがおもしろいから、だってさ」
 翔陽はスマートフォンの地図アプリを見ながらアカリに答えた。
「アカリ、懐中電灯、両手持ちなんだな」
「少しでも明るい方がいいでしょ?」
 アカリは二本の懐中電灯を持っている。住宅街の外灯は間隔が広くて心もとない。とはいえ、この辺りはマシなほうだ。更に外灯が少ない場所は、もう一つ懐中電灯を点けて、ヘッドライトまで装着する。
 闇が濃い場所からは、幽霊が出てくる気がして怖い。
「そこっぽい」
 翔陽は少し先の二階建てアパートを指さした。建物が道と接している部分は側面で、奥行きがある。一階に三部屋、二階に三部屋の、あまり大きくはない古いアパートのようだ。
 近づくと、マンションの前が明るかった。
「やあ、来たね。ちょうど準備が終わったところだよ」
 京四郎は折り畳みのパイプイスから立ち上がった。白いYシャツと黒いスラックスで、学校の制服とあまり変わらない。
「なんだ、それ」
 机には大きなモニターやパソコン、カメラ、そのほかにも機材が置いてあって、大きなライトもセッティングされている。野外なのに、仕事部屋を丸ごと移動してきたような装備だった。
「はい、カメラマンのアカリくんはこのハンディカメラ。心霊スポットに突撃する翔陽は自撮り棒付きのスマホ。それ暗視モードになってるから、それで自分の顔を撮影して」
「おれもスマホくらい持ってるよ」
「各自のスマホは、連絡を取り合うために使うから」
 京四郎はアカリと翔陽にアイテムを手渡す。
「京四郎はなにすんの?」
「この機材を見ればわかるだろ。ぼくはプロデューサーだから、翔陽やアカリくんが撮影した映像をリアルタイムでモニタリングしながら、ここから指示を出す」
「来ないのかよ。おまえが一番、心霊現象に興味があるんだろ。まさかビビッてる?」
 翔陽はびっくりする。
「これは翔陽の番組なんだから、翔陽が目立たないと。それに、心霊現象には興味があるけど、現場の外から全体像を把握する司令塔をやってみたかったんだ」
「あっ、察し。おまえ、裏で暗躍するフィクサーとか好きだもんな。豊臣秀吉より、参謀軍師の黒田官兵衛派だもんな」
 翔陽が半眼になった。京四郎は肯定するようにニヤリと笑って、指先でメガネを押し上げた。メガネがライトでキラリと光る。
 アカリは歴史のことはあまり詳しくないので、小首をかしげた。要するに、京四郎は裏方役を買って出たということでいいのだろうか。
「それにしても、こんなに高そうなのばかり、どうしたんだよ」
「もちろん、今日のために買った」
「マジで?」
 翔陽と同じく、アカリも目を丸くした。
 京四郎の親はテレビに出るような有名な医者や弁護士で、兄や姉も一流大学に通っているエリート家族だ。お金持ちだと知っていたけれど、この機材はいくらかかったのだろうか。
「気にしなくていいよ。ぼくは九歳から投資をしていて、お金には余裕があるから」
(親のお金じゃないんだ。よくわからないけど、そのお金を翔ちゃんに渡してくれたら、怖いことをしなくてもすむんじゃ……)
 アカリは細い眉をひそめた。
「トップユーチューバーに追いつくためには、機材でブーストをかけないとね」
「京四郎、マジで頼もしい!」
 翔陽は感動したように京四郎に抱きついた。
「さ、あまり時間もかけられないし、撮影を始めよう。アカリくん、ぼくが建物の説明をするから、アパートを映して」
「京四郎くんの声は入っちゃっていいの?」
「声はいいんだ。あるだろ、プロデューサーの声だけ入っているバラエティ番組。いらないところは編集でカットするから、アカリくんもどんどんしゃべっていいからね。声くらい動画に入ってもいいだろ?」
 声ならいっか、とアカリはうなずく。
 三人で流れを軽く打ち合わせして、京四郎にカメラの使い方を教わってから、撮影をスタートした。
(すごいな。本当に三人で番組を作っちゃうんだ)
 アカリはカメラを構えながら、ドキドキしてきた。
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