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1 心霊スポットMAPのはじまり
心霊スポットMAPのはじまり 1
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給食が終わって、昼休み中。
一年B組の教室で、窓から入る九月の温かい日を浴びながら、アカリは机に頬をつけてのんびりとしていた。独特の机の木の香りが鼻をくすぐる。
軽くウェーブのかかった栗色のショートボブが、滑らかなカーブの輪郭にかかっていた。
(平和だなあ……)
「京四郎、おれ、ユーチューブやりたい!」
アカリのゆめごこちに、となりに座る翔陽が水を差した。
大声に目を開けると、見慣れた幼なじみの顔が見えた。好奇心旺盛さがにじみ出ているような二重の大きな瞳と短めの濃い眉毛。ベリーショートの黒髪は立たせている。スポーツ万能でカッコいいと、翔陽は女子に人気があった。
「やればいいだろ。中学生のユーチューバーなんて、いくらでもいる」
そう返事をしたのは、翔陽の前の席に座る京四郎だ。アカリは机に突っ伏したまま、視線を京四郎に向けた。
京四郎は「カッコいい」「イケメン」という言葉を超えた、端正な容姿をしていた。身長は百七十センチもあって、中学一年生とは思えないほど大人びている。メガネの奥には一重の切れ長の瞳があり、鼻はスッと高い。何度も芸能事務所にスカウトされている、といううわさがあった。
この二人は親友で、まだ一年生なのに「校内ツートップのイケメン」と呼ばれている。
(京四郎くん、顔はいいんだけどなあ)
ぼんやりとアカリは思う。
「すぐに稼ぎたいんだ。社会人になるまで待てない。どういう動画がウケると思う?」
翔陽はこぶしをにぎる。
(そっか。翔ちゃんは家族のために、早く働きたいんだね)
数年前に翔陽の両親は離婚して、母子家庭になった。アカリの家と翔陽の家は近所で、家族ぐるみで仲がいいため、当時はアカリの母親が心配していた。
「そんなに家計が苦しいのか?」
「わかんねえけど。うち、弟もいるしさ、自分の学費くらいは自分で用意したいじゃん。まだバイトはできねえけど、ユーチューバーなら稼げるだろ」
「そんなのごく一部だよ。それに、ぼくたちの年齢じゃ、まだ収益化できない」
「収益化できないって、金にならないってこと? マジか、どうにかなんない?」
翔陽はすがるような表情で京四郎を見る。
京四郎は全国模試で上位に入る秀才だ。中学受験日に事故にあって試験を受けられず、アカリと同じ公立の中学に入学したが、本来ならばここにいるはずのない頭脳だ。
「どうにか、ならなくもない」
京四郎はニッと口だけで笑顔を作った。
(あっ、また悪い顔してる)
アカリは眉をひそめるも、翔陽はぱあっと顔を輝かせた。
「もしかして、手伝ってくれんの? 百人力なんだけど!」
確かに京四郎は頭が良くて頼もしいかもしれないけれど、アカリには京四郎の笑顔がうさんくさく見える。なにを考えているのかわからない。
翔陽にそう伝えたこともあるのだが、「そこが京四郎のおもしろいところ」だと笑っていた。
「翔陽に協力してもいい。ただし、条件がある」
京四郎はビシリと人差し指を立てた。
「心霊スポット巡りのチャンネルにすること」
緊張しかけていた翔陽の頬がゆるんだ。
「ホラー系か。京四郎は最近、お化けに凝ってるもんな。おれも結構好き」
「これを見てほしい」
京四郎は自慢げに、カバンの中から自由研究で使うような大きな模造紙を取り出した。盗み聞きをするつもりはなかったものの、流れで話を聞いていたアカリも上半身を起こして模造紙を覗き込む。
一年B組の教室で、窓から入る九月の温かい日を浴びながら、アカリは机に頬をつけてのんびりとしていた。独特の机の木の香りが鼻をくすぐる。
軽くウェーブのかかった栗色のショートボブが、滑らかなカーブの輪郭にかかっていた。
(平和だなあ……)
「京四郎、おれ、ユーチューブやりたい!」
アカリのゆめごこちに、となりに座る翔陽が水を差した。
大声に目を開けると、見慣れた幼なじみの顔が見えた。好奇心旺盛さがにじみ出ているような二重の大きな瞳と短めの濃い眉毛。ベリーショートの黒髪は立たせている。スポーツ万能でカッコいいと、翔陽は女子に人気があった。
「やればいいだろ。中学生のユーチューバーなんて、いくらでもいる」
そう返事をしたのは、翔陽の前の席に座る京四郎だ。アカリは机に突っ伏したまま、視線を京四郎に向けた。
京四郎は「カッコいい」「イケメン」という言葉を超えた、端正な容姿をしていた。身長は百七十センチもあって、中学一年生とは思えないほど大人びている。メガネの奥には一重の切れ長の瞳があり、鼻はスッと高い。何度も芸能事務所にスカウトされている、といううわさがあった。
この二人は親友で、まだ一年生なのに「校内ツートップのイケメン」と呼ばれている。
(京四郎くん、顔はいいんだけどなあ)
ぼんやりとアカリは思う。
「すぐに稼ぎたいんだ。社会人になるまで待てない。どういう動画がウケると思う?」
翔陽はこぶしをにぎる。
(そっか。翔ちゃんは家族のために、早く働きたいんだね)
数年前に翔陽の両親は離婚して、母子家庭になった。アカリの家と翔陽の家は近所で、家族ぐるみで仲がいいため、当時はアカリの母親が心配していた。
「そんなに家計が苦しいのか?」
「わかんねえけど。うち、弟もいるしさ、自分の学費くらいは自分で用意したいじゃん。まだバイトはできねえけど、ユーチューバーなら稼げるだろ」
「そんなのごく一部だよ。それに、ぼくたちの年齢じゃ、まだ収益化できない」
「収益化できないって、金にならないってこと? マジか、どうにかなんない?」
翔陽はすがるような表情で京四郎を見る。
京四郎は全国模試で上位に入る秀才だ。中学受験日に事故にあって試験を受けられず、アカリと同じ公立の中学に入学したが、本来ならばここにいるはずのない頭脳だ。
「どうにか、ならなくもない」
京四郎はニッと口だけで笑顔を作った。
(あっ、また悪い顔してる)
アカリは眉をひそめるも、翔陽はぱあっと顔を輝かせた。
「もしかして、手伝ってくれんの? 百人力なんだけど!」
確かに京四郎は頭が良くて頼もしいかもしれないけれど、アカリには京四郎の笑顔がうさんくさく見える。なにを考えているのかわからない。
翔陽にそう伝えたこともあるのだが、「そこが京四郎のおもしろいところ」だと笑っていた。
「翔陽に協力してもいい。ただし、条件がある」
京四郎はビシリと人差し指を立てた。
「心霊スポット巡りのチャンネルにすること」
緊張しかけていた翔陽の頬がゆるんだ。
「ホラー系か。京四郎は最近、お化けに凝ってるもんな。おれも結構好き」
「これを見てほしい」
京四郎は自慢げに、カバンの中から自由研究で使うような大きな模造紙を取り出した。盗み聞きをするつもりはなかったものの、流れで話を聞いていたアカリも上半身を起こして模造紙を覗き込む。
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