上 下
42 / 45
3章 掴み取った真実、そして――

掴み取った真実、そして―― 14

しおりを挟む
「……あれ?」
 しかし、「Readme」のファイル内は、取扱説明書のPDFファイルが一つ入っているだけだった。中を開いても、よくあるコンパクトデジタルカメラの説明書きだ。
「おかしいな、絶対にこれだと思ったのに」
 興奮が急激にしぼんでいく。
(違ったか)
 因みに、「CLIPINF」の中は空だが、撮影日時、記録時間などが記録されるファイルだ。「DCIM」には撮影した画像が格納される。
「隠しファイルかな」
 俺はもう少し粘ってみる。
 探してみたが隠しファイルも見つからない。音声ファイルなら数秒のデータでも、それなりの重さになる。あるならば見つからないはずがない。
「どうかした?」
 紫子さんがパソコン画面を覗き込んできた。
「それがですね……」
 俺は「閃き」を説明した。外した推理を話すのは恥ずかしい。
「Readmeは、普通はないの?」
「俺が見たことがなかっただけで、あるんでしょうね。こういう説明書は通常、公式サイトからダウンロードするものなんです」
「ちょっと、つめて」
「わわっ」
 紫子さんが椅子に座ってきた。言ってくれたら椅子を譲るのに、壁際に追いやられて立つこともできず、尻が半分浮いた状態で、椅子をシェエアするかたちになってしまった。
 身体の右半分が完全に紫子さんと密着していた。柔らかくて温かくていい匂いがして、ドギマギする。
 紫子さんはPDFファイルを開いた。マウスのホイールを回して説明書をスクロールしていく。
「……っ!」
 紫子さんの瞳が見開かれた。なにか見つけたのだろうか。
 そのまま黙ってホイールを回し、食い入るように画面を見つめている。説明書の半分くらいまできたとき、紫子さんは俺を見上げた。びっくりしたような表情のままだ。
「ボヤオッ」
「はい」
「お手柄!」
「なにかありました?」
 俺も一緒に同じ画面を見ていたのだけど、気になるものはなかった。
「ここを見て」
「……h、ですね」
 文章の始めに、さりげなく「h」が配置されている。見逃しそうになるが、このアルファベットは文章と脈絡がなかった。他にも、「t」や「p」など、あまり不自然すぎないところにアルファベットが散らばっている。タイピングミスだろうか。いや、大手メーカーの説明書に、こんなミスはないだろう。
「ここまでのアルファベット、つなげてみて」
「えっと、h、t、もうひとつtがあって、p。そのあとはコロンですか、え、スラッシュ……」

 http://

 さらにアルファベットを拾っていく。
「これは、URLですね」
 URLとは、ホームページの場所を示す、ウェブ上の住所のようなものだ。
「入力してみる」
 紫子さんは、ブラウザーのアドレスバーにURLを打ち込んだ。
 サイトが表示される。
 そこは、オンラインストレージのサイトだった。インターネット上で、データを保管しているスペースだ。
「……これ」
 拡張子は、WMA。
 音声ファイルだ。
「あった……」
 瞬きを忘れたかのように、紫子さんは画面をみつめている。
「ボヤオ、あった」
「はい」
「あった!」
 紫子さんが抱きついてきた。
「あったよ、ボヤオ!」
「はい、やりましたね!」
 華奢な身体を抱き返すと、俺のシャツの胸の部分が、温かく濡れた。
 俺たちは興奮が冷めるまで、同じ言葉を繰り返していた。
 
 そして気持ちを落ち着けたあと。
 俺たちは覚悟を決めて、音声を流した――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

【R15】メイド・イン・ヘブン

あおみなみ
ライト文芸
「私はここしか知らないけれど、多分ここは天国だと思う」 ミステリアスな美青年「ナル」と、恋人の「ベル」。 年の差カップルには、大きな秘密があった。

【完結】夢追い人のシェアハウス ~あなたに捧げるチアソング~

じゅん
キャラ文芸
 国際ピアノコンクールの優勝候補・拓斗(19歳)は、頭に衝撃を受けてから指が思うように動かなくなり、絶望して部屋に引きこもっていた。  そこにかつての親友・雄一郎(19歳)が訪ねてきて、「夢がある者」しか住めないシェアハウスに連れて行く――。  拓斗はそのシェアハウスで漫画家、声優などを夢見る者たちに触れ合うことで、自分を見つめ直し、本来の夢を取り戻していく。  その過程で、拓斗を導いていた雄一郎の夢や葛藤も浮き彫りになり、拓斗は雄一郎のためにピアノのコンクールの入賞を目指すようになり……。  夢を追う者たちを連作短編形式で描きながら、拓斗が成長していく、友情の青春ヒューマンストーリー。  諦めず夢に向かって頑張っている人への応援歌です。

大人になりたい少女と、大人になれなかった僕 〜レトロな喫茶店は甘くほろ苦い〜

ノウミ
ライト文芸
周りの話が合わないと悩み、大人になれば周りと同じ価値観でいられる様になると思い、少しでも大人になりたいと願う女子高校生[本城 百合] 学生時代から、無関心で生き、そのまま大人になってしまった社会人[真田 誠] 2人が出会った喫茶店から物語は動き始める。 あなたは、大人に対する幻想的なイメージを学生時代に描いた事は無いだろうか。 自由でどこへでも行ける、好きにお金が使えるなど。 大人になるとは何なのか、大人と子供の違い。 何も分からないまま社会に出た少年と、学生時代に大人に憧れた少女の、1つの出会いを書き描いた物語。 何も考えずに、ただただ“生きるため”という行為を無駄に過ごしていた日々に、一つの華が添えられる。 それは、美しくもあり、儚くもあった。 何もない日常に彩りを与え、誰かを想う事を知る。 相手を想い、考え、悩む。 それは単純な様で難しい。 出逢ってしまった二人の物語は、加速していく。 止まることのない想いを乗せ、走り出す。 行き先の見えぬままに。 一人一人に色々な物語があるかと思います。 その中の一つとして、甘くて苦い物語を読みたいなと。 そんなあなたにも向けた、切なくも暖かい物語です。

舞葬のアラン

浅瀬あずき
ファンタジー
17歳の青年アランは死後冥界の神と契約し、千年後の世界に再生することとなる。それは、「やつ」とともに千年もの間封印されることになったルシアを救うためであった...。 目覚めた場所は森の中で、何と記憶を失っていた。アランは壮絶な過去によって冷酷で皮肉な性格が形成されるが、記憶を失ったことで本来の純粋さを取り戻すこととなる。しかし、心の奥底には記憶があった時の人格が眠っており…?! 自身の境遇や秘められた戦士としての力に戸惑いながらも、彼は様々な出会いを経験して成長し、記憶を探す旅に出ることを決意する。 謎に満ちた彼の素性は徐々に旅の中で明らかになっていく。彼は記憶を取り戻し、ルシアを救うことができるのだろうか。これは、1人の青年が運命に挑む物語ー。 伝統的な英雄譚や冒険活劇を現代の視点で”描く”、本格ダークファンタジー! ※只今書き直し中のため前後で繋がってないとこあります。 ※残酷描写もあるので、苦手な方はご注意を。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...