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3章 掴み取った真実、そして――
掴み取った真実、そして―― 10
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通常なら一分で到着するところを二十分もかけて、紫子さんのマンションの前に到着した。
予感は当たっており、火災は紫子さんのマンションだった。六階辺りの三部屋ほどが燃えたようだ。
紫子さんが、うんざりしたような顔をして戻ってきた。
「火元、私の部屋だった」
予想していたとはいえ、氷柱に貫かれたような衝撃を受けた。身体が凍る。
「どうするんですか」
「部屋が全焼してるんだから、どうにもならないわよ。両隣はとばっちりね。パソコンとか、仕事に必要なものは持ち歩いてるから、仕事にそこまで支障はないけど」
全焼したというのに淡々としている。俺だったら取り乱して、大騒ぎしているだろう。
「織田がやったんでしょうか」
「このタイミングじゃ、そうとしか考えられないわね」
織田の家を出てまっすぐにここに来た。名乗ったとはいえ、こんなに早く家を特定して、放火できてしまうなんて。
いや、ここまで早いとなると、元々紫子さんのことをチェックしていたのかもしれない。自分の周囲を嗅ぎまわっている記者が、殺害した秘書の娘であるなら当然か。
やはり、織田龍太郎は黒なのだ。
「佐藤明の娘である私の住居は、あらかじめ調べられていたのね。わかりやすい行動をしてくれてありがたいわ。織田の家に行った甲斐があるわね」
紫子さんは細い肩をすくめた。
「まだ紫子さんが部屋に戻っていないことは、相手も承知していたはずです。紫子さんの命を狙ったというより、家ごと音声データを消失させるつもりだったのでしょうか」
「それもあるかもしれないし、織田の宣戦布告かもしれない。それとも、これ以上関わるなという牽制かも」
やれやれといわんばかりに紫子さんはシートを後ろに下げて、足を組んだ。
「警察に同じことばかり聞かれるから面倒で、私の連絡先とか保険会社とかの情報を渡して逃げて来ちゃった。手際が悪すぎ。質問をまとめてから後日連絡しろって言っておいた」
俺はまばたきをしながら紫子さんをみつめた。
(警察にも、それをやっちゃうんだ)
「ってことで、ボヤオ、泊めて」
(えっ)
俺はおどろいて、紫子さんに顔を向けた。
「俺んち、狭いですよ」
「知ってる」
そうだろうけど。
「社長の家の方がいいんじゃないですか? 一緒に暮らしてたんですよね」
「イヤよ。あの夫婦はいつもラブラブで、私は邪魔者になるんだもの。それで高校卒業と同時に飛び出したんだから」
「社長がラブラブ、ですか」
ベリーショートで男勝りな雰囲気を持つ社長を思い浮かべる。どっちかというと、クールとか、淡泊という言葉が似合いそうなのに。意外だ。
「そういえば愛さんの旦那さん、ボヤオに雰囲気が似てるよ」
「へえ」
どんな人だろう。自分に似ていると言われると、会ってみたくなる。
「じゃ、泊まるから」
社長の話をしていたのに、宿泊が決定してしまった。
「そうしたら買い物行かなきゃ。六本木行こう」
「六本木でなにを買うんですか?」
「服。次の部屋が決まるまで泊まるから、数着は必要でしょ」
「次の部屋って……」
心底びっくりした。一泊じゃないんだ。
部屋はいつ決まるんですか? と訊きたかったが、住居が全焼したばかりの人に言うのも申し訳ない気がして、俺は黙った。
(紫子さんなら、数日ホテル暮らしをする資金くらい持っていそうなのに。さすがの紫子さんも一人じゃ怖いのかな? とか、確認したら殴られるだろうなあ)
仕方がない。乗りかかった船だ、とことん付き合いますか。
地下駐車場に車を停めて、東京ミッドタウンで買い物をする。閉店時間が近いので急ぎ足だ。俺は当然のごとく荷物持ちに使われた。
「もう九時すぎましたね。さすがに腹が減りました。どこかで食ってから帰りましょう」
「そうねえ。六本木だとつい仕事のセンサーが入っちゃうから、著名人がいないような田舎町の方が落ち着けるかも。ボヤオが住んでるところのような」
はいはい、どうせ田舎町のおんぼろアパートですよ。
エレベーターで地下駐車場に降りると、焦げたような独特の香りが鼻を突いた。
この流れは、まさかだよな。
「マジか」
俺の愛車が燃えていた。
予感は当たっており、火災は紫子さんのマンションだった。六階辺りの三部屋ほどが燃えたようだ。
紫子さんが、うんざりしたような顔をして戻ってきた。
「火元、私の部屋だった」
予想していたとはいえ、氷柱に貫かれたような衝撃を受けた。身体が凍る。
「どうするんですか」
「部屋が全焼してるんだから、どうにもならないわよ。両隣はとばっちりね。パソコンとか、仕事に必要なものは持ち歩いてるから、仕事にそこまで支障はないけど」
全焼したというのに淡々としている。俺だったら取り乱して、大騒ぎしているだろう。
「織田がやったんでしょうか」
「このタイミングじゃ、そうとしか考えられないわね」
織田の家を出てまっすぐにここに来た。名乗ったとはいえ、こんなに早く家を特定して、放火できてしまうなんて。
いや、ここまで早いとなると、元々紫子さんのことをチェックしていたのかもしれない。自分の周囲を嗅ぎまわっている記者が、殺害した秘書の娘であるなら当然か。
やはり、織田龍太郎は黒なのだ。
「佐藤明の娘である私の住居は、あらかじめ調べられていたのね。わかりやすい行動をしてくれてありがたいわ。織田の家に行った甲斐があるわね」
紫子さんは細い肩をすくめた。
「まだ紫子さんが部屋に戻っていないことは、相手も承知していたはずです。紫子さんの命を狙ったというより、家ごと音声データを消失させるつもりだったのでしょうか」
「それもあるかもしれないし、織田の宣戦布告かもしれない。それとも、これ以上関わるなという牽制かも」
やれやれといわんばかりに紫子さんはシートを後ろに下げて、足を組んだ。
「警察に同じことばかり聞かれるから面倒で、私の連絡先とか保険会社とかの情報を渡して逃げて来ちゃった。手際が悪すぎ。質問をまとめてから後日連絡しろって言っておいた」
俺はまばたきをしながら紫子さんをみつめた。
(警察にも、それをやっちゃうんだ)
「ってことで、ボヤオ、泊めて」
(えっ)
俺はおどろいて、紫子さんに顔を向けた。
「俺んち、狭いですよ」
「知ってる」
そうだろうけど。
「社長の家の方がいいんじゃないですか? 一緒に暮らしてたんですよね」
「イヤよ。あの夫婦はいつもラブラブで、私は邪魔者になるんだもの。それで高校卒業と同時に飛び出したんだから」
「社長がラブラブ、ですか」
ベリーショートで男勝りな雰囲気を持つ社長を思い浮かべる。どっちかというと、クールとか、淡泊という言葉が似合いそうなのに。意外だ。
「そういえば愛さんの旦那さん、ボヤオに雰囲気が似てるよ」
「へえ」
どんな人だろう。自分に似ていると言われると、会ってみたくなる。
「じゃ、泊まるから」
社長の話をしていたのに、宿泊が決定してしまった。
「そうしたら買い物行かなきゃ。六本木行こう」
「六本木でなにを買うんですか?」
「服。次の部屋が決まるまで泊まるから、数着は必要でしょ」
「次の部屋って……」
心底びっくりした。一泊じゃないんだ。
部屋はいつ決まるんですか? と訊きたかったが、住居が全焼したばかりの人に言うのも申し訳ない気がして、俺は黙った。
(紫子さんなら、数日ホテル暮らしをする資金くらい持っていそうなのに。さすがの紫子さんも一人じゃ怖いのかな? とか、確認したら殴られるだろうなあ)
仕方がない。乗りかかった船だ、とことん付き合いますか。
地下駐車場に車を停めて、東京ミッドタウンで買い物をする。閉店時間が近いので急ぎ足だ。俺は当然のごとく荷物持ちに使われた。
「もう九時すぎましたね。さすがに腹が減りました。どこかで食ってから帰りましょう」
「そうねえ。六本木だとつい仕事のセンサーが入っちゃうから、著名人がいないような田舎町の方が落ち着けるかも。ボヤオが住んでるところのような」
はいはい、どうせ田舎町のおんぼろアパートですよ。
エレベーターで地下駐車場に降りると、焦げたような独特の香りが鼻を突いた。
この流れは、まさかだよな。
「マジか」
俺の愛車が燃えていた。
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