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合宿三日目 深夜
合宿三日目 深夜 ーstop and think ー
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「今夜も一人、殺される」
――今夜は おまえの番だ
あのメッセージは、間違いなく自分宛てだろう。
一晩、身を隠さなければならない。
それに、「あれ」があそこにあるのかも確かめなければ。
ある程度、みんなが寝静まるのを待った。しかし遅すぎては逃げ遅れてしまうかもしれない。時計を見ながら、時間を見計らっていた。
内開きのドアを慎重に開けて、自室を出た。ここで不意を打たれてしまえば一巻の終わりだ。
廊下に誰もいないことを確認すると、あとは不自然にならないように堂々と歩く。こそこそ歩く方が不自然だ。ただし、襲われないように慎重に行動する。
ただでさえ長い廊下が更に長く感じた。
警戒をしながら食堂に入る。
廊下までは電気がついていたが、食堂は真っ暗だ。迷ったが、電気をつけずにスマートフォンの明かりを頼りに歩いた。
厨房に入ってから、念のために周囲を見回した。人の気配はない。
今誰かに見つかるだけならば「食料を取りに来た」という言い訳もできるが、これからはそうはいかない。
一番右端の壁際にある、膝丈の食器棚の前にしゃがんで、木造の観音開きの扉を開けた。二段になっている棚の仕切りを両手で握り、力いっぱい手前に引くと、数センチ動いて小さな音を立てた。レールに乗った証拠だ。
壁になっているはずの右側に、収納された鍋やざるごと棚をスライドさせると、人がしゃがんで通れるくらいのトンネルができる。スマートフォンのライトを向けると、奥に階段が現れていた。
四つん這いで一メートルほど進み、スイッチを押すと上に続く階段が照らされた。少し戻って、観音開きの扉を閉めておく。
狭い階段をゆっくりと上った。普段使っている場所と違って、築年数に見合った痛み方をしている。板を踏み抜いてしまわないように注意が必要だ。
クリスやキャロルが消えたことが謎のように言われてきたが、この隠し部屋を知っている自分にとっては、不思議でもなんでもなかった。むしろ、ここにしか隠す場所がない。
ただ、この場所を知る人物がいる焦りを感じた。
あの秘密を知られてしまったことになるからだ。
すぐに自分に直結することにはならないだろうが、いつ公になるか気が気でなかった。何度も確かめに来ようと考えては自分を抑えていた。むしろ、この場所に来ることで関係者だと気づかれては困る。
しかし、白い影の人物の存在を知ることで、その焦りは消えた。死んだと思っていたその人物が生きていて、自分に復讐しようとしていたのだ。恨まれて当然のことをした。
生きていてホッとしている気持ちと、ならばなぜ名乗り出てこなかったのかという憤りがある。
しかも、そのために二人の命を奪ったことはいただけない。狙うのなら自分一人でよかったではないか。
合宿メンバーの命を条件にするのなら、大人しくこの命を差し出してもよかった。
……そろそろ、階段が終わる。
上の部屋で待ち構えているのだろうか。電気をつけたのだから、自分が上がってくることはわかっているはずだ。
部屋に出た途端に狙われるのも困るので、気配を伺いながら慎重に顔をのぞかせた。近くには誰もいないようだ。
中二階の部屋に到着した。
見える範囲に人はいない。
乾いた口の中に埃が入り、むせた。
階段もこの部屋もかなり埃っぽかった。まるで前回自分が来てから誰も使っていないようではないか。
全身が埃だらけになっていて、手で服をはたいた。薄明かりに白い埃が舞いあがった。汗ばんだ肌に付着した埃は泥のようにこびりついてしまったが、それは仕方がないと諦める。髪も埃で真っ白になっているだろう。
階段を上りきった場所は、パーティションのような短い木の壁があり、部屋全体を見渡せない。
数歩進むと、やっと八畳ほどの部屋が姿を現す。
「……っ!」
その部屋を見て、思わず息をのんだ。
思い描いていたシナリオと違った。
ここには、キャロルとクリスの遺体があるはずだった。
――なぜ、白骨死体がそこにあるのだ。
生きているのではなかったのか。
生きてこの隠し部屋を拠点とし、自分に復讐していたのではないのか。
ならば、あの白い影はいったい――
「こんなところに、隠し部屋があったのですね」
その声に振り返る。
「クリス、キャロル……!」
クリスは悲しそうな表情を浮かべ、キャロルは非難するような瞳でこちらを見ていた。
生きていたのか。
二人は最後に見た姿とは別の、ラフな服装に着替えていた。
死んだように見えたのは、すべて芝居だったようだ。
しかしそれは、二人だけで出来ることではないはずだ。
二人の奥から、もう一人の人影が前に出た。
その人物は――
――――――――――――――――――――――
※次回から解決編が始まります。
誰が、どんな役割だったのか、よろしければ考えてみてください。
犯人をロジカルに推理するのは難しいかもしれませんが、今までの布石を回収し、この段階で「物語の構造」を理解しているあなたは「勝利」です。
答え合わせをお楽しみください。
――今夜は おまえの番だ
あのメッセージは、間違いなく自分宛てだろう。
一晩、身を隠さなければならない。
それに、「あれ」があそこにあるのかも確かめなければ。
ある程度、みんなが寝静まるのを待った。しかし遅すぎては逃げ遅れてしまうかもしれない。時計を見ながら、時間を見計らっていた。
内開きのドアを慎重に開けて、自室を出た。ここで不意を打たれてしまえば一巻の終わりだ。
廊下に誰もいないことを確認すると、あとは不自然にならないように堂々と歩く。こそこそ歩く方が不自然だ。ただし、襲われないように慎重に行動する。
ただでさえ長い廊下が更に長く感じた。
警戒をしながら食堂に入る。
廊下までは電気がついていたが、食堂は真っ暗だ。迷ったが、電気をつけずにスマートフォンの明かりを頼りに歩いた。
厨房に入ってから、念のために周囲を見回した。人の気配はない。
今誰かに見つかるだけならば「食料を取りに来た」という言い訳もできるが、これからはそうはいかない。
一番右端の壁際にある、膝丈の食器棚の前にしゃがんで、木造の観音開きの扉を開けた。二段になっている棚の仕切りを両手で握り、力いっぱい手前に引くと、数センチ動いて小さな音を立てた。レールに乗った証拠だ。
壁になっているはずの右側に、収納された鍋やざるごと棚をスライドさせると、人がしゃがんで通れるくらいのトンネルができる。スマートフォンのライトを向けると、奥に階段が現れていた。
四つん這いで一メートルほど進み、スイッチを押すと上に続く階段が照らされた。少し戻って、観音開きの扉を閉めておく。
狭い階段をゆっくりと上った。普段使っている場所と違って、築年数に見合った痛み方をしている。板を踏み抜いてしまわないように注意が必要だ。
クリスやキャロルが消えたことが謎のように言われてきたが、この隠し部屋を知っている自分にとっては、不思議でもなんでもなかった。むしろ、ここにしか隠す場所がない。
ただ、この場所を知る人物がいる焦りを感じた。
あの秘密を知られてしまったことになるからだ。
すぐに自分に直結することにはならないだろうが、いつ公になるか気が気でなかった。何度も確かめに来ようと考えては自分を抑えていた。むしろ、この場所に来ることで関係者だと気づかれては困る。
しかし、白い影の人物の存在を知ることで、その焦りは消えた。死んだと思っていたその人物が生きていて、自分に復讐しようとしていたのだ。恨まれて当然のことをした。
生きていてホッとしている気持ちと、ならばなぜ名乗り出てこなかったのかという憤りがある。
しかも、そのために二人の命を奪ったことはいただけない。狙うのなら自分一人でよかったではないか。
合宿メンバーの命を条件にするのなら、大人しくこの命を差し出してもよかった。
……そろそろ、階段が終わる。
上の部屋で待ち構えているのだろうか。電気をつけたのだから、自分が上がってくることはわかっているはずだ。
部屋に出た途端に狙われるのも困るので、気配を伺いながら慎重に顔をのぞかせた。近くには誰もいないようだ。
中二階の部屋に到着した。
見える範囲に人はいない。
乾いた口の中に埃が入り、むせた。
階段もこの部屋もかなり埃っぽかった。まるで前回自分が来てから誰も使っていないようではないか。
全身が埃だらけになっていて、手で服をはたいた。薄明かりに白い埃が舞いあがった。汗ばんだ肌に付着した埃は泥のようにこびりついてしまったが、それは仕方がないと諦める。髪も埃で真っ白になっているだろう。
階段を上りきった場所は、パーティションのような短い木の壁があり、部屋全体を見渡せない。
数歩進むと、やっと八畳ほどの部屋が姿を現す。
「……っ!」
その部屋を見て、思わず息をのんだ。
思い描いていたシナリオと違った。
ここには、キャロルとクリスの遺体があるはずだった。
――なぜ、白骨死体がそこにあるのだ。
生きているのではなかったのか。
生きてこの隠し部屋を拠点とし、自分に復讐していたのではないのか。
ならば、あの白い影はいったい――
「こんなところに、隠し部屋があったのですね」
その声に振り返る。
「クリス、キャロル……!」
クリスは悲しそうな表情を浮かべ、キャロルは非難するような瞳でこちらを見ていた。
生きていたのか。
二人は最後に見た姿とは別の、ラフな服装に着替えていた。
死んだように見えたのは、すべて芝居だったようだ。
しかしそれは、二人だけで出来ることではないはずだ。
二人の奥から、もう一人の人影が前に出た。
その人物は――
――――――――――――――――――――――
※次回から解決編が始まります。
誰が、どんな役割だったのか、よろしければ考えてみてください。
犯人をロジカルに推理するのは難しいかもしれませんが、今までの布石を回収し、この段階で「物語の構造」を理解しているあなたは「勝利」です。
答え合わせをお楽しみください。
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