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陽菜乃 合宿二日目 昼
陽菜乃 合宿二日目 昼 その11
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結局一睡もできないまま、外が明るくなってしまった。
昨夜は大したものを食べていないので空腹のはずだが、そう感じなかった。紗がかかったように、全ての感覚がぼんやりとしているようだ。
それは、あまりにも恐ろしすぎる状況から目をそらそうとする、自己防衛機能なのかもしれない。
陽菜乃は以前にも、この感覚を経験していた。
コンコンとドアがノックされる音がした。時計を見ると六時を過ぎていた。
「はい」
ドアの近くで返事をすると、「あたし、奈月」と声がした。
ドアを開けると、昨日よりも更に憔悴したような顔の奈月が立っていた。スッピンを見るのは初めてかもしれない。眉が薄いくらいで、普段とそれほど印象は変わらなかった。
「よかった、無事だったんだね」
陽菜乃の顔を見ると奈月はほっとした顔をした。
「結局昨夜は……あの紙に書いてあったことは、起こったの?」
奈月がおずおずと尋ねる。
「怖くてあたし、イヤホンして布団にくるまっていたから」
それならば、なにも聞こえなくて当然だ。
「クリスが自室で首を吊ってた」
陽菜乃は簡潔に伝えた。奈月は目を見開いた。
「……死んじゃったの?」
陽菜乃はうなずく。
「自殺?」
「わからない」
あの状態で自殺をするわけがないと思うが、陽菜乃には判断できないことだ。
「あたしがみんなと合流しなかったせい?」
「おそらく、私が奈月に声をかけに行ったときには、クリスは亡くなってたと思う」
奈月はうつむいた。
「クリスのこと好きだったな。王子様みたいに格好良かったし、あたしたちの風紀委員長的な存在で」
「そうだね」
「キャロルも大好きだった。明るくてポジティブで、蒼一に嫌がらせされたら、いつもキャロルに励ましてもらってた」
奈月は両手で顔を覆った。
「どうして二人が死ななきゃならないの……!」
「本当にね」
泣きやむまで、陽菜乃は奈月の背中をさすっていた。
「クリスに手を合わせに行きたい。一緒に来てもらっていい?」
しばらくして、奈月がポツリと呟いた。
二人は階段をあがってクリスの部屋に向かう。その間は誰とも会わない。
「静かだし、この屋敷にあたしたちしかいないみたいだよね」
奈月の言葉に陽菜乃はうなずいた。
クリスの部屋の鍵は開いていた。中に入ると、かなり薄れてはいるが異臭が残っていた。このにおいを初めて嗅ぐ奈月は、眉をひそめて手で鼻を覆う。
「におうね」
「昨日はもっとすごかったよ」
奈月を先頭に部屋に入る。
「クリスはどこ?」
「降ろしたんだ。ベッドの上だよ」
奈月は足をとめた。
「……いないけど」
「えっ」
陽菜乃は奈月を抜いてベッドに近づいた。そこにはしわが寄って使用感のある白いシーツが広がっているだけだ。
クリスは、くるまっていた掛け布団ごと消えていた。
「また、遺体が消えた」
「陽菜乃、枕元に紙があるよ」
よく見ると、A4サイズのコピー用紙が置かれていた。
陽菜乃は近づいて文字を確認する。
今夜は おまえの番だ
「……っ」
喉の奥が詰まったように鳴った。
昨夜は大したものを食べていないので空腹のはずだが、そう感じなかった。紗がかかったように、全ての感覚がぼんやりとしているようだ。
それは、あまりにも恐ろしすぎる状況から目をそらそうとする、自己防衛機能なのかもしれない。
陽菜乃は以前にも、この感覚を経験していた。
コンコンとドアがノックされる音がした。時計を見ると六時を過ぎていた。
「はい」
ドアの近くで返事をすると、「あたし、奈月」と声がした。
ドアを開けると、昨日よりも更に憔悴したような顔の奈月が立っていた。スッピンを見るのは初めてかもしれない。眉が薄いくらいで、普段とそれほど印象は変わらなかった。
「よかった、無事だったんだね」
陽菜乃の顔を見ると奈月はほっとした顔をした。
「結局昨夜は……あの紙に書いてあったことは、起こったの?」
奈月がおずおずと尋ねる。
「怖くてあたし、イヤホンして布団にくるまっていたから」
それならば、なにも聞こえなくて当然だ。
「クリスが自室で首を吊ってた」
陽菜乃は簡潔に伝えた。奈月は目を見開いた。
「……死んじゃったの?」
陽菜乃はうなずく。
「自殺?」
「わからない」
あの状態で自殺をするわけがないと思うが、陽菜乃には判断できないことだ。
「あたしがみんなと合流しなかったせい?」
「おそらく、私が奈月に声をかけに行ったときには、クリスは亡くなってたと思う」
奈月はうつむいた。
「クリスのこと好きだったな。王子様みたいに格好良かったし、あたしたちの風紀委員長的な存在で」
「そうだね」
「キャロルも大好きだった。明るくてポジティブで、蒼一に嫌がらせされたら、いつもキャロルに励ましてもらってた」
奈月は両手で顔を覆った。
「どうして二人が死ななきゃならないの……!」
「本当にね」
泣きやむまで、陽菜乃は奈月の背中をさすっていた。
「クリスに手を合わせに行きたい。一緒に来てもらっていい?」
しばらくして、奈月がポツリと呟いた。
二人は階段をあがってクリスの部屋に向かう。その間は誰とも会わない。
「静かだし、この屋敷にあたしたちしかいないみたいだよね」
奈月の言葉に陽菜乃はうなずいた。
クリスの部屋の鍵は開いていた。中に入ると、かなり薄れてはいるが異臭が残っていた。このにおいを初めて嗅ぐ奈月は、眉をひそめて手で鼻を覆う。
「におうね」
「昨日はもっとすごかったよ」
奈月を先頭に部屋に入る。
「クリスはどこ?」
「降ろしたんだ。ベッドの上だよ」
奈月は足をとめた。
「……いないけど」
「えっ」
陽菜乃は奈月を抜いてベッドに近づいた。そこにはしわが寄って使用感のある白いシーツが広がっているだけだ。
クリスは、くるまっていた掛け布団ごと消えていた。
「また、遺体が消えた」
「陽菜乃、枕元に紙があるよ」
よく見ると、A4サイズのコピー用紙が置かれていた。
陽菜乃は近づいて文字を確認する。
今夜は おまえの番だ
「……っ」
喉の奥が詰まったように鳴った。
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