18 / 55
陽菜乃 合宿一日目 夜
陽菜乃 合宿一日目 夜 その1
しおりを挟む
予想外のことやトラブルもあった合宿一日目が終わろうとしている。
みんな楽しそうにしているが、あのことは気にならないのだろうか。それとも陽菜乃のように、顏に出さないようにしているだけなのか。
「どうしてこんなことになっちゃったんだろう」
今日、何度目かの呟きだ。
とにかく疲れた。身体を休めたい。
しかし、こんな気持ちで眠れるのだろうか。
そんな心配をしながら、寝間着代わりに持ってきたTシャツとチノパンに着替えた陽菜乃がベッドにもぐりこんで目を閉じた時、女性の悲鳴が聞こえた。
陽菜乃は目を開いて耳を澄ませた。しかし、もう何も聞こえない。
ふざけてあげる声ではなかった。
恐怖にかられたような、切迫した女性の叫びだ。
陽菜乃は布団を跳ねあげて部屋を飛び出した。
一階の廊下に異変はない。
声はどこから聞こえたのか分からなかったが、二階の様子を見に行くことにする。無駄に広い階段は、二階までの距離でも息が切れた。
二階の廊下までたどり着くと、陽菜乃と同じように何人かが廊下に出ていた。
やっぱり、声は気のせいではなかったようだ。
「今、悲鳴が聞こえたよね」
陽菜乃はドアから恐々と半身を出している奈月に声をかけた。奈月の表情は強張っている。
「たぶん、隣り……」
奈月は左隣りの部屋をさした。屋敷の二階西端の部屋だ。
「キャロルの部屋?」
陽菜乃の問いに、奈月がうなずく。
「キャロル、なにかあった?」
陽菜乃はドアを叩きながら呼びかけた。そのとき、ドアに隙間があることに気がついた。部屋には電気がついている。
陽菜乃はもう一度ノックをした。部屋の中からはなにも反応がない。
ただ眠っているだけならよいのだが、電気をつけたまま、しかも不用心にドアを開けて寝るだろうか。
「キャロル、入るよ」
声をかけて、そのままそっとドアを開ける。
「……っ!」
陽菜乃は口をおさえた。
部屋の中央で、キャロルがうつぶせで倒れていた。
キャロルを中心に血だまりができていて、薄紫のワンピース型のナイトウェアは血を吸いこんで身体に張り付いている。
紅茶色の巻き髪が床に広がり、顔は見えない。しかし、そのスタイルや日焼けでは真似のできない艶のある小麦色の肌は、キャロルに間違いないだろう。
血液特有の鉄のような匂いと生臭さとが鼻をついて、陽菜乃は気分が悪くなる。
「きゃあっ」
陽菜乃の後ろから部屋を覗きこんだ奈月が、悲鳴を上げて後退った。
「キャロルが血を流して倒れてる! なにがあったの? どうしよう!」
奈月がすぐ傍にいたクリスにしがみつくのが、陽菜乃の視界の端に映った。
陽菜乃はドアの入り口から先に入れず、立ち尽くしていた。
奈月の声に我に返った陽菜乃が振り向くと、廊下にはサークルメンバーが全員集まっていた。
みんな楽しそうにしているが、あのことは気にならないのだろうか。それとも陽菜乃のように、顏に出さないようにしているだけなのか。
「どうしてこんなことになっちゃったんだろう」
今日、何度目かの呟きだ。
とにかく疲れた。身体を休めたい。
しかし、こんな気持ちで眠れるのだろうか。
そんな心配をしながら、寝間着代わりに持ってきたTシャツとチノパンに着替えた陽菜乃がベッドにもぐりこんで目を閉じた時、女性の悲鳴が聞こえた。
陽菜乃は目を開いて耳を澄ませた。しかし、もう何も聞こえない。
ふざけてあげる声ではなかった。
恐怖にかられたような、切迫した女性の叫びだ。
陽菜乃は布団を跳ねあげて部屋を飛び出した。
一階の廊下に異変はない。
声はどこから聞こえたのか分からなかったが、二階の様子を見に行くことにする。無駄に広い階段は、二階までの距離でも息が切れた。
二階の廊下までたどり着くと、陽菜乃と同じように何人かが廊下に出ていた。
やっぱり、声は気のせいではなかったようだ。
「今、悲鳴が聞こえたよね」
陽菜乃はドアから恐々と半身を出している奈月に声をかけた。奈月の表情は強張っている。
「たぶん、隣り……」
奈月は左隣りの部屋をさした。屋敷の二階西端の部屋だ。
「キャロルの部屋?」
陽菜乃の問いに、奈月がうなずく。
「キャロル、なにかあった?」
陽菜乃はドアを叩きながら呼びかけた。そのとき、ドアに隙間があることに気がついた。部屋には電気がついている。
陽菜乃はもう一度ノックをした。部屋の中からはなにも反応がない。
ただ眠っているだけならよいのだが、電気をつけたまま、しかも不用心にドアを開けて寝るだろうか。
「キャロル、入るよ」
声をかけて、そのままそっとドアを開ける。
「……っ!」
陽菜乃は口をおさえた。
部屋の中央で、キャロルがうつぶせで倒れていた。
キャロルを中心に血だまりができていて、薄紫のワンピース型のナイトウェアは血を吸いこんで身体に張り付いている。
紅茶色の巻き髪が床に広がり、顔は見えない。しかし、そのスタイルや日焼けでは真似のできない艶のある小麦色の肌は、キャロルに間違いないだろう。
血液特有の鉄のような匂いと生臭さとが鼻をついて、陽菜乃は気分が悪くなる。
「きゃあっ」
陽菜乃の後ろから部屋を覗きこんだ奈月が、悲鳴を上げて後退った。
「キャロルが血を流して倒れてる! なにがあったの? どうしよう!」
奈月がすぐ傍にいたクリスにしがみつくのが、陽菜乃の視界の端に映った。
陽菜乃はドアの入り口から先に入れず、立ち尽くしていた。
奈月の声に我に返った陽菜乃が振り向くと、廊下にはサークルメンバーが全員集まっていた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

【完結】共生
ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。
ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。
隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?
この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。
二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。
彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。
信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。
歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。
幻想、幻影、エンケージ。
魂魄、領域、人類の進化。
802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。
さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。
私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。
授業
高木解緒 (たかぎ ときお)
ミステリー
2020年に投稿した折、すべて投稿して完結したつもりでおりましたが、最終章とその前の章を投稿し忘れていたことに2024年10月になってやっと気が付きました。覗いてくださった皆様、誠に申し訳ありませんでした。
中学校に入学したその日〝私〟は最高の先生に出会った――、はずだった。学校を舞台に綴る小編ミステリ。
※ この物語はAmazonKDPで販売している作品を投稿用に改稿したものです。
※ この作品はセンシティブなテーマを扱っています。これは作品の主題が実社会における問題に即しているためです。作品内の事象は全て実際の人物、組織、国家等になんら関りはなく、また断じて非法行為、反倫理、人権侵害を推奨するものではありません。
彼女が愛した彼は
朝飛
ミステリー
美しく妖艶な妻の朱海(あけみ)と幸せな結婚生活を送るはずだった真也(しんや)だが、ある時を堺に朱海が精神を病んでしまい、苦痛に満ちた結婚生活へと変わってしまった。
朱海が病んでしまった理由は何なのか。真相に迫ろうとする度に謎が深まり、、、。

後宮生活困窮中
真魚
ミステリー
一、二年前に「祥雪華」名義でこちらのサイトに投降したものの、完結後に削除した『後宮生活絶賛困窮中 ―めざせ媽祖大祭』のリライト版です。ちなみに前回はジャンル「キャラ文芸」で投稿していました。
このリライト版は、「真魚」名義で「小説家になろう」にもすでに投稿してあります。
以下あらすじ
19世紀江南~ベトナムあたりをイメージした架空の王国「双樹下国」の後宮に、あるとき突然金髪の「法狼機人」の正后ジュヌヴィエーヴが嫁いできます。
一夫一妻制の文化圏からきたジュヌヴィエーヴは一夫多妻制の後宮になじめず、結局、後宮を出て新宮殿に映ってしまいます。
結果、困窮した旧後宮は、年末の祭の費用の捻出のため、経理を担う高位女官である主計判官の趙雪衣と、護衛の女性武官、武芸妓官の蕎月牙を、海辺の交易都市、海都へと派遣します。しかし、その最中に、新宮殿で正后ジュヌヴィエーヴが毒殺されかけ、月牙と雪衣に、身に覚えのない冤罪が着せられてしまいます。
逃亡女官コンビが冤罪を晴らすべく身を隠して奔走します。
【毎日更新】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】
めんつゆ
ミステリー
ーー「それ」がわかった時、物語はひっくり返る……。
真実に近づく為の伏線が張り巡らされています。
あなたは何章で気づけますか?ーー
舞台はとある田舎町の中学校。
平和だったはずのクラスは
裏サイトの「なりすまし」によって支配されていた。
容疑者はたった7人のクラスメイト。
いじめを生み出す黒幕は誰なのか?
その目的は……?
「2人で犯人を見つけましょう」
そんな提案を持ちかけて来たのは
よりによって1番怪しい転校生。
黒幕を追う中で明らかになる、クラスメイトの過去と罪。
それぞれのトラウマは交差し、思いもよらぬ「真相」に繋がっていく……。
中学生たちの繊細で歪な人間関係を描く青春ミステリー。
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる