31 / 31
エピローグ
エピローグ
しおりを挟む
龍司に送られて家に帰ったわたしは、おジイちゃんとおバアちゃんに、おばけトンネルで起こったことを伝えた。
「あのこたちは、まだあそこに縛られていたのか。気づかなくて、悪いことをしたな」
そう言ったおジイちゃんは「よくやってくれた」とわたしをほめてくれた。
「あそこは事故が多いトンネルだったが、五年前のあの事故が決定打となって、閉鎖が決まったんだ。もっと早く、閉鎖されていればな……」
おジイちゃんが重い口を開いた。
「わたし、事故のことも含めて、もっとお父さんとお母さんのことが知りたい」
わたしは、しっかりとおジイちゃんの目を見つめながら言った。
「そうか。スズ香も、そういう話ができる年齢になったんだな」
「来年は中学生ですしねえ」
その日は久しぶりに、わたしはおジイちゃんたちと同じ部屋で寝て、眠るまでお父さんとお母さんの話をいっぱい聞かせてもらった。
お盆にお父さんたちと会えたら、おジイちゃんやおバアちゃんに、こんな話を聞いたんだよって、教えてあげよう。
ほかにはどんな話をしようかな。お盆が待ち遠しいよ。
そして翌日。
わたしはいつもどおりに、早めに学校についた。
教室に入ると、なんだかクラスのようすが違った。
ランドセルをロッカーにしまいながら、なんでだろうって考える。
そうか、こんなに早い時間なのに、教室に人が多いんだ。それに見慣れない顔があるから、クラスメイト以外の人もいるみたい。
「ねえねえ冬月さん、幽霊が見えるって、本当だったんだね!」
「えっと、うん……」
席に戻ると、一度も話したことがないコから話しかけられた。
「見えるどころじゃないわよ、スズ香ってば、空を飛んでたんだから!」
麗子ちゃんが言うと、
「そうそう、それ見てたよ!」
「びっくりしたよね」
「それホントなの? すごい!」
とクラスメイトが口々に言いだした。
そうか、おばけトンネルのことが、一晩で広がっちゃったんだ。
「どうやって空を飛ぶの? 魔法なの? やりかた教えて!」
「ねえねえ、わたし新聞部なんだけど、インタビューさせてもらえない? どうして幽霊が見えるのかとか」
「それはちょっと……」
わたしは逃げるように立ち上がると、悠一郎くんと目が合った。悠一郎くんはにっこりと笑う。
「よかったね、スズ香ちゃん、人気者で」
なんか悠一郎くん、ずれてる。急にいろんな人に話しかけられて、わたし困ってるんだよ。ちょっとしたパニックだからね!
「あの、ごめんねっ」
わたしは謝りながら教室を飛び出した。
すると廊下にカヲルがいた。
「おはよう、カヲル」
わたしはほっとして近づいた。
「スズ香、ちょうどよかった。このコの祖父がさ、最近、調子が悪いんだって。幽霊の仕業なんじゃないかって心配しているようだから、一度見てやってよ」
「すみません、よかったら……」
カヲルのとなりにいる女の子が、ペコリと頭を下げた。
わたしは、ウッと言葉が詰まる。
いつもならぜんぜんオーケーなんだけど、今は、そっとしておいてほしい気分なの。
「いいよ。でも、話は改めて聞くから、今度ね!」
「あっ、スズ香」
わたしは逃げ出した。
授業が始まるまでは、誰も話しかけてこない静かなところに行きたい。図書室かな。
そう思って階段を降りていたら、龍司とはち合わせした。
「おっ、見つけた。おまえ、登校するのハエーよ。今日から送り迎えしてやるから、ちゃんと待ってろよ」
「えっ、いいよ、一人で学校に行けるよ」
「エンリョすんなって。スズ香が一人にならないようにしないとな」
違う、違うんだよ。そういう意味で言ったんじゃないんだってば!
《一晩で、ずいぶんと人気者になったな、スズ香》
肩にいるコンゴウは、おもしろがっている。
友達がいないのはさみしいけど、こんなにいっぱい話しかけられたら、おちつかないよう!
「そうだスズ香、昨日のことオヤジに言ったらさ、悪い幽霊の噂がある場所があるから、様子見に行ってほしいって頼まれたんだよ。一緒に行こうぜ」
「もう、龍司まで!」
みんなわたしの顔を見ると、幽霊、幽霊、幽霊って!
「おれまでって、なんだよ」
「知らない! 龍司一人で行って」
「おい、スズ香!」
わたしは龍司に背を向けて走り出した。
もう、あんなに怖い思いはこりごりだよ!
おしまい
「あのこたちは、まだあそこに縛られていたのか。気づかなくて、悪いことをしたな」
そう言ったおジイちゃんは「よくやってくれた」とわたしをほめてくれた。
「あそこは事故が多いトンネルだったが、五年前のあの事故が決定打となって、閉鎖が決まったんだ。もっと早く、閉鎖されていればな……」
おジイちゃんが重い口を開いた。
「わたし、事故のことも含めて、もっとお父さんとお母さんのことが知りたい」
わたしは、しっかりとおジイちゃんの目を見つめながら言った。
「そうか。スズ香も、そういう話ができる年齢になったんだな」
「来年は中学生ですしねえ」
その日は久しぶりに、わたしはおジイちゃんたちと同じ部屋で寝て、眠るまでお父さんとお母さんの話をいっぱい聞かせてもらった。
お盆にお父さんたちと会えたら、おジイちゃんやおバアちゃんに、こんな話を聞いたんだよって、教えてあげよう。
ほかにはどんな話をしようかな。お盆が待ち遠しいよ。
そして翌日。
わたしはいつもどおりに、早めに学校についた。
教室に入ると、なんだかクラスのようすが違った。
ランドセルをロッカーにしまいながら、なんでだろうって考える。
そうか、こんなに早い時間なのに、教室に人が多いんだ。それに見慣れない顔があるから、クラスメイト以外の人もいるみたい。
「ねえねえ冬月さん、幽霊が見えるって、本当だったんだね!」
「えっと、うん……」
席に戻ると、一度も話したことがないコから話しかけられた。
「見えるどころじゃないわよ、スズ香ってば、空を飛んでたんだから!」
麗子ちゃんが言うと、
「そうそう、それ見てたよ!」
「びっくりしたよね」
「それホントなの? すごい!」
とクラスメイトが口々に言いだした。
そうか、おばけトンネルのことが、一晩で広がっちゃったんだ。
「どうやって空を飛ぶの? 魔法なの? やりかた教えて!」
「ねえねえ、わたし新聞部なんだけど、インタビューさせてもらえない? どうして幽霊が見えるのかとか」
「それはちょっと……」
わたしは逃げるように立ち上がると、悠一郎くんと目が合った。悠一郎くんはにっこりと笑う。
「よかったね、スズ香ちゃん、人気者で」
なんか悠一郎くん、ずれてる。急にいろんな人に話しかけられて、わたし困ってるんだよ。ちょっとしたパニックだからね!
「あの、ごめんねっ」
わたしは謝りながら教室を飛び出した。
すると廊下にカヲルがいた。
「おはよう、カヲル」
わたしはほっとして近づいた。
「スズ香、ちょうどよかった。このコの祖父がさ、最近、調子が悪いんだって。幽霊の仕業なんじゃないかって心配しているようだから、一度見てやってよ」
「すみません、よかったら……」
カヲルのとなりにいる女の子が、ペコリと頭を下げた。
わたしは、ウッと言葉が詰まる。
いつもならぜんぜんオーケーなんだけど、今は、そっとしておいてほしい気分なの。
「いいよ。でも、話は改めて聞くから、今度ね!」
「あっ、スズ香」
わたしは逃げ出した。
授業が始まるまでは、誰も話しかけてこない静かなところに行きたい。図書室かな。
そう思って階段を降りていたら、龍司とはち合わせした。
「おっ、見つけた。おまえ、登校するのハエーよ。今日から送り迎えしてやるから、ちゃんと待ってろよ」
「えっ、いいよ、一人で学校に行けるよ」
「エンリョすんなって。スズ香が一人にならないようにしないとな」
違う、違うんだよ。そういう意味で言ったんじゃないんだってば!
《一晩で、ずいぶんと人気者になったな、スズ香》
肩にいるコンゴウは、おもしろがっている。
友達がいないのはさみしいけど、こんなにいっぱい話しかけられたら、おちつかないよう!
「そうだスズ香、昨日のことオヤジに言ったらさ、悪い幽霊の噂がある場所があるから、様子見に行ってほしいって頼まれたんだよ。一緒に行こうぜ」
「もう、龍司まで!」
みんなわたしの顔を見ると、幽霊、幽霊、幽霊って!
「おれまでって、なんだよ」
「知らない! 龍司一人で行って」
「おい、スズ香!」
わたしは龍司に背を向けて走り出した。
もう、あんなに怖い思いはこりごりだよ!
おしまい
0
お気に入りに追加
9
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP
じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】
悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。
「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。
いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――
クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ちいさな哲学者
雨宮大智
児童書・童話
ユリはシングルマザー。十才の娘「マイ」と共に、ふたりの世界を組み上げていく。ある時はブランコに乗って。またある時は車の助手席で。ユリには「ちいさな哲学者」のマイが話す言葉が、この世界を生み出してゆくような気さえしてくるのだった⎯⎯。
【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】
湖の民
影燈
児童書・童話
沼無国(ぬまぬこ)の統治下にある、儺楼湖(なろこ)の里。
そこに暮らす令は寺子屋に通う12歳の男の子。
優しい先生や友だちに囲まれ、楽しい日々を送っていた。
だがそんなある日。
里に、伝染病が発生、里は封鎖されてしまい、母も病にかかってしまう。
母を助けるため、幻の薬草を探しにいく令だったが――
おねしょゆうれい
ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。
※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。
【完結】アシュリンと魔法の絵本
秋月一花
児童書・童話
田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。
地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
ポストとハトと流星群
澄田こころ(伊勢村朱音)
児童書・童話
中学1年生のアスは、夏休みなのに退屈していた。
勉強ばっかりで、九州のおじいちゃんのところへ遊びにいけない。
どこにもいけなくて、本当につまらない夏休み。
おじいちゃんに書いた手紙を、ポストへ入れた瞬間、変なおじさんの声が聞こえた。
「そなたの願い、かなえてやろう」
瞬間、アスは緑に覆われた世界へ。
いったいここはどこ?
異世界で、不思議な友だちや動物たちと、星のかけらをさがし始めたアス。
つまらない夏休みが、大冒険の夏休みにかわった。
アスの行きて帰りし物語がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる