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7 巨大な霊との戦い!
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歩き出そうとしたら、足が動かずに転んでしまった。
「イタタ、草がからまったのかな?」
そう思ってよく見ると、わたしの足首を、誰かが掴んでいた。
そう気づいた時には、いくつもの手が伸びてきて、地面に押さえ込まれて動けなくなってしまった。
「きゃあっ、離してっ」
わたしを押さえているのは、クラスメイトたちだった。
「ごめんね、冬月さん」
「なぜか、体が勝手に動くんだよ」
なんとか抜け出そうとするけれど、抑え込む力が強すぎて、どうにもならない。
こうしている間にも、誰かが崖から落ちちゃうかもしれないのに!
「スズ香!」
龍司が走りながら、両手をパンと合わせて、中指を高く組んだ印をつくった。
「おん あぼきゃ べいろしゃのう まかぼだら まにはんどま じんばら はらばりたや うん!」
一瞬、印のかたちの指が光ったかと思ったら、わたしを押さえつけている力がゆるんだ。
「だいじょうぶか、スズ香」
龍司に手を引かれて起こされた。龍司が心配そうな表情でみつめてくる。
「うん、ありがとう。助かったよ」
なんだか最近、龍司に助けられてばかりだね。
「おまえら、もう体を動かせるんだろ?」
「おう、ありがとな龍司。今のスゲーな!」
「動けるなら、悠一郎のところに避難しとけよ。……って、そろそろ悠一郎も定員オーバーかな」
崖から一番離れた斜面の端で待機している悠一郎くんは、みんなに囲まれて姿が見えない。
「数が多すぎてキリがねえぜ。やっぱり、あいつをどうにかしないとな」
龍司が空に目を向ける。そこには巨大な黒いカタマリが、うごめきながら浮いている。
「スズ香、コンゴウかシロガネを貸してくれよ。おれが行って消してくる」
「わたしが行きたい。龍司じゃ消滅させちゃうでしょ? わたし、浄化させたいの」
わたしも空を見上げた。
「あれはきっと、トンネルで事故死した人たちの魂だよ」
どす黒い怨念の裏では。
本来あるべき場所に、戻りたい。帰りたい。
そう叫んで、悲しんでいるようにも感じる。
「あんなデカいのに、力の加減なんてできるのかよ。危ねえぞ」
「やってみる。これがあるから、きっとだいじょうぶだよ」
お祓いの力を増幅してくれる、オオヌサ。
「わかった、任せる。気をつけろよ、スズ香」
「うん。龍司も、こっちをお願いね。まだ霊に体を乗っ取られている人が、何人もいるみたいだから」
「こんなことなら、少人数制にすればよかったよな。じゃあな!」
冗談めかした龍司は、わたしの腕をぽんと叩いて走り出した。
よし、わたしも行かなきゃ。
「シロガネ!」
呼ぶと、悪霊を蹴散らしていたシロガネが颯爽とやってきた。
「シロガネ、わたしをあそこに連れて行って」
わたしは空に浮かぶ黒いカタマリを指さした。
《わかったわ。しっかりつかまって》
乗りやすく伏せてくれたシロガネの背中にまたがった。わたしを乗せたシロガネは、空高く舞い上がる。
龍司にはああ言ったけど……。
さすがに、家みたいに大きな霊を相手にするのは初めてだよ。
やっぱり、怖い。
わたしはシロガネの銀色の毛を、ぎゅっと握った。
《だいじょうぶよ。スズ香なら、きっとうまくいくわ》
「ありがとう、シロガネ」
この山の頂上よりも高い位置で、黒いカタマリと並ぶ。
近くに来ると、蠢いている体の部位がはっきりと見えた。やっぱり、ブキミだ。
声もよく聞こえる。
甲高い笑い声。大人の男性の低い声。赤ちゃんみたいな声。たくさんの声が重なっている。
《食ってやる》
《取り込んでやる》
《おまえもこちらへ来い》
そんな表面の怨念のこもった声の隙間から、
《淋しいよ……》
《痛いよ……》
《怖いよ……》
そんな、男の子のかぼそい声が聞こえる。
その男の子だけが、異質に感じた。
「この集合体の核にいるのは、この男の子なんじゃないかな」
《そうかもしれないわね》
男の子はおびえて、淋しがっている。
やっぱり、わたしが来て正解だった。あの男の子を救いたい。
わたしはオオヌサを構えた。
「祓えたま……あっ」
唱えている途中で、カタマリから腕が伸びてきた。長く長く伸びて、わたしの首を掴む。
「苦しい……!」
《スズ香ッ》
シロガネがシッポでその腕を払う。
すぐにまた、いくつもの手が襲いかかってきた。
シロガネが逃げ回ってくれる代わりに、わたしはシロガネにしがみつくことしかできなくなった。
どうしよう、これじゃあ、浄化するどころじゃないよ。
「イタタ、草がからまったのかな?」
そう思ってよく見ると、わたしの足首を、誰かが掴んでいた。
そう気づいた時には、いくつもの手が伸びてきて、地面に押さえ込まれて動けなくなってしまった。
「きゃあっ、離してっ」
わたしを押さえているのは、クラスメイトたちだった。
「ごめんね、冬月さん」
「なぜか、体が勝手に動くんだよ」
なんとか抜け出そうとするけれど、抑え込む力が強すぎて、どうにもならない。
こうしている間にも、誰かが崖から落ちちゃうかもしれないのに!
「スズ香!」
龍司が走りながら、両手をパンと合わせて、中指を高く組んだ印をつくった。
「おん あぼきゃ べいろしゃのう まかぼだら まにはんどま じんばら はらばりたや うん!」
一瞬、印のかたちの指が光ったかと思ったら、わたしを押さえつけている力がゆるんだ。
「だいじょうぶか、スズ香」
龍司に手を引かれて起こされた。龍司が心配そうな表情でみつめてくる。
「うん、ありがとう。助かったよ」
なんだか最近、龍司に助けられてばかりだね。
「おまえら、もう体を動かせるんだろ?」
「おう、ありがとな龍司。今のスゲーな!」
「動けるなら、悠一郎のところに避難しとけよ。……って、そろそろ悠一郎も定員オーバーかな」
崖から一番離れた斜面の端で待機している悠一郎くんは、みんなに囲まれて姿が見えない。
「数が多すぎてキリがねえぜ。やっぱり、あいつをどうにかしないとな」
龍司が空に目を向ける。そこには巨大な黒いカタマリが、うごめきながら浮いている。
「スズ香、コンゴウかシロガネを貸してくれよ。おれが行って消してくる」
「わたしが行きたい。龍司じゃ消滅させちゃうでしょ? わたし、浄化させたいの」
わたしも空を見上げた。
「あれはきっと、トンネルで事故死した人たちの魂だよ」
どす黒い怨念の裏では。
本来あるべき場所に、戻りたい。帰りたい。
そう叫んで、悲しんでいるようにも感じる。
「あんなデカいのに、力の加減なんてできるのかよ。危ねえぞ」
「やってみる。これがあるから、きっとだいじょうぶだよ」
お祓いの力を増幅してくれる、オオヌサ。
「わかった、任せる。気をつけろよ、スズ香」
「うん。龍司も、こっちをお願いね。まだ霊に体を乗っ取られている人が、何人もいるみたいだから」
「こんなことなら、少人数制にすればよかったよな。じゃあな!」
冗談めかした龍司は、わたしの腕をぽんと叩いて走り出した。
よし、わたしも行かなきゃ。
「シロガネ!」
呼ぶと、悪霊を蹴散らしていたシロガネが颯爽とやってきた。
「シロガネ、わたしをあそこに連れて行って」
わたしは空に浮かぶ黒いカタマリを指さした。
《わかったわ。しっかりつかまって》
乗りやすく伏せてくれたシロガネの背中にまたがった。わたしを乗せたシロガネは、空高く舞い上がる。
龍司にはああ言ったけど……。
さすがに、家みたいに大きな霊を相手にするのは初めてだよ。
やっぱり、怖い。
わたしはシロガネの銀色の毛を、ぎゅっと握った。
《だいじょうぶよ。スズ香なら、きっとうまくいくわ》
「ありがとう、シロガネ」
この山の頂上よりも高い位置で、黒いカタマリと並ぶ。
近くに来ると、蠢いている体の部位がはっきりと見えた。やっぱり、ブキミだ。
声もよく聞こえる。
甲高い笑い声。大人の男性の低い声。赤ちゃんみたいな声。たくさんの声が重なっている。
《食ってやる》
《取り込んでやる》
《おまえもこちらへ来い》
そんな表面の怨念のこもった声の隙間から、
《淋しいよ……》
《痛いよ……》
《怖いよ……》
そんな、男の子のかぼそい声が聞こえる。
その男の子だけが、異質に感じた。
「この集合体の核にいるのは、この男の子なんじゃないかな」
《そうかもしれないわね》
男の子はおびえて、淋しがっている。
やっぱり、わたしが来て正解だった。あの男の子を救いたい。
わたしはオオヌサを構えた。
「祓えたま……あっ」
唱えている途中で、カタマリから腕が伸びてきた。長く長く伸びて、わたしの首を掴む。
「苦しい……!」
《スズ香ッ》
シロガネがシッポでその腕を払う。
すぐにまた、いくつもの手が襲いかかってきた。
シロガネが逃げ回ってくれる代わりに、わたしはシロガネにしがみつくことしかできなくなった。
どうしよう、これじゃあ、浄化するどころじゃないよ。
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