上 下
25 / 31
7 巨大な霊との戦い!

2

しおりを挟む
 こんな大変なものを、解き放ってしまった……。
 どうすればいいんだろう。
《スズ香、ぼうっとしている時間はないわよ》
 シロガネの声にはっとすると、「動けない!」という声が、あちこちから聞こえてきた。
 周囲を見回すと、みんな中途半端なポーズのまま、動きをとめていた。口は動かせるみたいで、それぞれ戸惑いの声をあげている。
「みんな、どうしたの?」
「わからない。急に金縛りにあったように動けなくなったんだ」
 止まっているカヲルが、視線だけわたしに向けて答えた。
「おれは動ける。あのでっかいバケモノの仕業だろ。動きをとめて、どうしようってんだ」
「ぼくも動けるよ」
 悠一郎くんが走ってきた。虹色のオーラを嫌っているようで、周辺を埋め尽くすほどたくさんいる黒い霊たちは、悠一郎くんを避けている。
「どうやら動けるのは、おれたち三人だけらしいな」
「あと、コンゴウとシロガネね」
 わたしはつけたした。
「ヤダッ! なにこれっ。体が勝手に動くわ!」
 そう叫んだのは麗子ちゃんだ。
「ぜんぜん、体がいうことをきかない」
 止まっていたクラスメイトたちが、今度は同じ方向にゆっくりと歩きだした。ふらふらとしていて、なんだか映画のゾンビみたい。
 向かっている先はトンネルの左側。
 そっちにあるのは、崖だ!
「そのまま行ったら、みんな崖から落ちちゃうよ!」
「あのバケモノ、集団自殺でもさせようっていうのか」
 龍司は舌打ちをした。
「くっ、どうなっているんだ、これは」
 カヲルも動き出してしまった。
「カヲルちゃん」
 近くにいた悠一郎くんが、カヲルの腕を掴んだ。
「あっ」
 カクンと、カヲルはひざをついた。
 カヲルの体から、黒い霊が抜けていく。
「……体が、自由に動かせるようになった」
 カヲルは不思議そうに、手を握ったり開いたりしている。
「そうか、霊に体を乗っ取られていたんだよ! 今、霊が抜けていくのが見えた」
 わたしは手を打った。
「霊は悠一郎くんの近くにはいられない。その悠一郎くんがカヲルの腕をつかんだから、霊が嫌がって体から出て行ったんだ」
「じゃあ、ぼくはみんなにタッチしていけばいいんだね」
「そう簡単じゃねえだろ。一度出て行っても、悠一郎から離れたら、また霊が入ってくるはずだ」
 龍司の言葉に、「なるほど」と悠一郎くんはうなずいた。
「じゃあぼくは、できるだけ多く人と接したまま待機する。それでいいかな?」
「ああ、頼む。いま、崖に一番近いやつらから連れ出してくれよ」
「了解」
 悠一郎くんはカヲルの腕を掴んだまま走り出した。カヲルがこちらを振り向いた。
「スズ香、頑張れ! 力になれなくてごめん!」
「そんなことない、ありがとうカヲル!」
 わたしは手を振ってから、鞄からコンパクトオオヌサを取り出した。シャキンッと、サカキでできた棒を伸ばす。
「わたしたちは、除霊タイムだね」
「ああ、一人も崖から落ちないようにしないとな」
《オレたちも手伝おう》
《そのために来たんだものね》
 コンゴウたちは、本来の大きなキツネの姿になった。
《こんなに暗くては、動きづらいだろう。まずは、光をやろう》
 コンゴウの体が金色に輝きだした。この辺り一帯が、コンゴウの光で照らされる。突然、周囲が明るくなったので、みんなは「おおっ」と驚きの声を上げながら、まぶしそうに目を細めている。
《じゃあワタシは、この無数にいる悪霊の数を減らしていこうかしらね》
 シロガネが跳躍すると、その軌道の霊が一掃された。
「やっぱ、おまえんところの神使はすげえな」
「へへ、でしょ」
 コンゴウとシロガネを褒められると、自分のことのように嬉しい。
「っと、のんびりしている場合じゃないよね。みんなの体から、霊を消し去らないと!」
 わたしは、崖に向かってふらふらと歩く麗子ちゃんに向けて、オオヌサを振った。
「祓えたまえ、清めたまえ。悪い霊よ、麗子ちゃんの体から出て行って!」
 すると、歩いていた麗子ちゃんの足が止まって、カクリとひざをついた。
「動く。やっと自分で体を動かせるわ。怖かった……!」
 麗子ちゃんは半泣きになっている。
「麗子ちゃん、悠一郎くんの傍なら安全だよ」
「わかった」
 麗子ちゃんは返事をしたものの、動かなかった。
「また動けなくなっちゃった?」
「ううん。……スズ香」
「どうしたの? あらたまって」
 麗子ちゃん眉を上げて目の下を赤く染めながら、スカートを強く握った。
「このまえは、ウソつきって言ってごめんなさい。……あと、助けてくれてありがとう。それだけよ!」
 麗子ちゃんは悠一郎くんのいるほうに走っていった。
「麗子ちゃんに、謝られた」
 初めてかもしれない。よほど、体を乗っ取られたのが怖かったんだろうな。
「よし、じゃあ次も……あっ」
 歩き出そうとしたら、足が動かずに転んでしまった。
「イタタ、草がからまったのかな?」
 そう思ってよく見ると、わたしの足首を、誰かが掴んでいた。
 そう気づいた時には、いくつもの手が伸びてきて、地面に押さえ込まれて動けなくなってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花
児童書・童話
 田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。  地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。  ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。 「ほ、本がかってにうごいてるー!」 『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』  と、アシュリンを旅に誘う。  どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。  魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。  アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる! ※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。 ※この小説は7万字完結予定の中編です。 ※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

子猫マムと雲の都

杉 孝子
児童書・童話
 マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。  マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。

ハッピーエンドをとりもどせ!

cheeery
児童書・童話
本が大好きな小学5年生の加奈は、図書室でいつも学校に来ていない不良の陽太と出会う。 陽太に「どっか行け」と言われ、そそくさと本を手にとり去ろうとするが、その本を落としてしまうとビックリ!大好きなシンデレラがハッピーエンドじゃない!? 王子様と幸せに暮らすのが意地悪なお姉様たちなんてありえない! そう思っていると、本が光り出し、陽太が手に持っていたネコが廊下をすり抜ける。 興味本位で近づいてみた瞬間、ふたりは『シンデレラ』の世界に入りこんでしまった……! 「シンデレラのハッピーエンドをとりもどさない限り、元来た場所には帰れない!?」 ふたりは無事、シンデレラのハッピーエンドをとりもどし元の世界に戻れるのか!?

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

ヴァンパイアハーフにまもられて

クナリ
児童書・童話
中学二年の凛は、文芸部に所属している。 ある日、夜道を歩いていた凛は、この世ならぬ領域に踏み込んでしまい、化け物に襲われてしまう。 そこを助けてくれたのは、ツクヨミと名乗る少年だった。 ツクヨミに従うカラス、ツクヨミの「妹」だという幽霊、そして凛たちに危害を加えようとする敵の怪異たち。 ある日突然少女が非日常の世界に入り込んだ、ホラーファンタジーです。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-
児童書・童話
 日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。  氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。  これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。  二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。  それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。  そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。  狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。  過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。  一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!

処理中です...