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7 巨大な霊との戦い!
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こんな大変なものを、解き放ってしまった……。
どうすればいいんだろう。
《スズ香、ぼうっとしている時間はないわよ》
シロガネの声にはっとすると、「動けない!」という声が、あちこちから聞こえてきた。
周囲を見回すと、みんな中途半端なポーズのまま、動きをとめていた。口は動かせるみたいで、それぞれ戸惑いの声をあげている。
「みんな、どうしたの?」
「わからない。急に金縛りにあったように動けなくなったんだ」
止まっているカヲルが、視線だけわたしに向けて答えた。
「おれは動ける。あのでっかいバケモノの仕業だろ。動きをとめて、どうしようってんだ」
「ぼくも動けるよ」
悠一郎くんが走ってきた。虹色のオーラを嫌っているようで、周辺を埋め尽くすほどたくさんいる黒い霊たちは、悠一郎くんを避けている。
「どうやら動けるのは、おれたち三人だけらしいな」
「あと、コンゴウとシロガネね」
わたしはつけたした。
「ヤダッ! なにこれっ。体が勝手に動くわ!」
そう叫んだのは麗子ちゃんだ。
「ぜんぜん、体がいうことをきかない」
止まっていたクラスメイトたちが、今度は同じ方向にゆっくりと歩きだした。ふらふらとしていて、なんだか映画のゾンビみたい。
向かっている先はトンネルの左側。
そっちにあるのは、崖だ!
「そのまま行ったら、みんな崖から落ちちゃうよ!」
「あのバケモノ、集団自殺でもさせようっていうのか」
龍司は舌打ちをした。
「くっ、どうなっているんだ、これは」
カヲルも動き出してしまった。
「カヲルちゃん」
近くにいた悠一郎くんが、カヲルの腕を掴んだ。
「あっ」
カクンと、カヲルはひざをついた。
カヲルの体から、黒い霊が抜けていく。
「……体が、自由に動かせるようになった」
カヲルは不思議そうに、手を握ったり開いたりしている。
「そうか、霊に体を乗っ取られていたんだよ! 今、霊が抜けていくのが見えた」
わたしは手を打った。
「霊は悠一郎くんの近くにはいられない。その悠一郎くんがカヲルの腕をつかんだから、霊が嫌がって体から出て行ったんだ」
「じゃあ、ぼくはみんなにタッチしていけばいいんだね」
「そう簡単じゃねえだろ。一度出て行っても、悠一郎から離れたら、また霊が入ってくるはずだ」
龍司の言葉に、「なるほど」と悠一郎くんはうなずいた。
「じゃあぼくは、できるだけ多く人と接したまま待機する。それでいいかな?」
「ああ、頼む。いま、崖に一番近いやつらから連れ出してくれよ」
「了解」
悠一郎くんはカヲルの腕を掴んだまま走り出した。カヲルがこちらを振り向いた。
「スズ香、頑張れ! 力になれなくてごめん!」
「そんなことない、ありがとうカヲル!」
わたしは手を振ってから、鞄からコンパクトオオヌサを取り出した。シャキンッと、サカキでできた棒を伸ばす。
「わたしたちは、除霊タイムだね」
「ああ、一人も崖から落ちないようにしないとな」
《オレたちも手伝おう》
《そのために来たんだものね》
コンゴウたちは、本来の大きなキツネの姿になった。
《こんなに暗くては、動きづらいだろう。まずは、光をやろう》
コンゴウの体が金色に輝きだした。この辺り一帯が、コンゴウの光で照らされる。突然、周囲が明るくなったので、みんなは「おおっ」と驚きの声を上げながら、まぶしそうに目を細めている。
《じゃあワタシは、この無数にいる悪霊の数を減らしていこうかしらね》
シロガネが跳躍すると、その軌道の霊が一掃された。
「やっぱ、おまえんところの神使はすげえな」
「へへ、でしょ」
コンゴウとシロガネを褒められると、自分のことのように嬉しい。
「っと、のんびりしている場合じゃないよね。みんなの体から、霊を消し去らないと!」
わたしは、崖に向かってふらふらと歩く麗子ちゃんに向けて、オオヌサを振った。
「祓えたまえ、清めたまえ。悪い霊よ、麗子ちゃんの体から出て行って!」
すると、歩いていた麗子ちゃんの足が止まって、カクリとひざをついた。
「動く。やっと自分で体を動かせるわ。怖かった……!」
麗子ちゃんは半泣きになっている。
「麗子ちゃん、悠一郎くんの傍なら安全だよ」
「わかった」
麗子ちゃんは返事をしたものの、動かなかった。
「また動けなくなっちゃった?」
「ううん。……スズ香」
「どうしたの? あらたまって」
麗子ちゃん眉を上げて目の下を赤く染めながら、スカートを強く握った。
「このまえは、ウソつきって言ってごめんなさい。……あと、助けてくれてありがとう。それだけよ!」
麗子ちゃんは悠一郎くんのいるほうに走っていった。
「麗子ちゃんに、謝られた」
初めてかもしれない。よほど、体を乗っ取られたのが怖かったんだろうな。
「よし、じゃあ次も……あっ」
歩き出そうとしたら、足が動かずに転んでしまった。
「イタタ、草がからまったのかな?」
そう思ってよく見ると、わたしの足首を、誰かが掴んでいた。
そう気づいた時には、いくつもの手が伸びてきて、地面に押さえ込まれて動けなくなってしまった。
どうすればいいんだろう。
《スズ香、ぼうっとしている時間はないわよ》
シロガネの声にはっとすると、「動けない!」という声が、あちこちから聞こえてきた。
周囲を見回すと、みんな中途半端なポーズのまま、動きをとめていた。口は動かせるみたいで、それぞれ戸惑いの声をあげている。
「みんな、どうしたの?」
「わからない。急に金縛りにあったように動けなくなったんだ」
止まっているカヲルが、視線だけわたしに向けて答えた。
「おれは動ける。あのでっかいバケモノの仕業だろ。動きをとめて、どうしようってんだ」
「ぼくも動けるよ」
悠一郎くんが走ってきた。虹色のオーラを嫌っているようで、周辺を埋め尽くすほどたくさんいる黒い霊たちは、悠一郎くんを避けている。
「どうやら動けるのは、おれたち三人だけらしいな」
「あと、コンゴウとシロガネね」
わたしはつけたした。
「ヤダッ! なにこれっ。体が勝手に動くわ!」
そう叫んだのは麗子ちゃんだ。
「ぜんぜん、体がいうことをきかない」
止まっていたクラスメイトたちが、今度は同じ方向にゆっくりと歩きだした。ふらふらとしていて、なんだか映画のゾンビみたい。
向かっている先はトンネルの左側。
そっちにあるのは、崖だ!
「そのまま行ったら、みんな崖から落ちちゃうよ!」
「あのバケモノ、集団自殺でもさせようっていうのか」
龍司は舌打ちをした。
「くっ、どうなっているんだ、これは」
カヲルも動き出してしまった。
「カヲルちゃん」
近くにいた悠一郎くんが、カヲルの腕を掴んだ。
「あっ」
カクンと、カヲルはひざをついた。
カヲルの体から、黒い霊が抜けていく。
「……体が、自由に動かせるようになった」
カヲルは不思議そうに、手を握ったり開いたりしている。
「そうか、霊に体を乗っ取られていたんだよ! 今、霊が抜けていくのが見えた」
わたしは手を打った。
「霊は悠一郎くんの近くにはいられない。その悠一郎くんがカヲルの腕をつかんだから、霊が嫌がって体から出て行ったんだ」
「じゃあ、ぼくはみんなにタッチしていけばいいんだね」
「そう簡単じゃねえだろ。一度出て行っても、悠一郎から離れたら、また霊が入ってくるはずだ」
龍司の言葉に、「なるほど」と悠一郎くんはうなずいた。
「じゃあぼくは、できるだけ多く人と接したまま待機する。それでいいかな?」
「ああ、頼む。いま、崖に一番近いやつらから連れ出してくれよ」
「了解」
悠一郎くんはカヲルの腕を掴んだまま走り出した。カヲルがこちらを振り向いた。
「スズ香、頑張れ! 力になれなくてごめん!」
「そんなことない、ありがとうカヲル!」
わたしは手を振ってから、鞄からコンパクトオオヌサを取り出した。シャキンッと、サカキでできた棒を伸ばす。
「わたしたちは、除霊タイムだね」
「ああ、一人も崖から落ちないようにしないとな」
《オレたちも手伝おう》
《そのために来たんだものね》
コンゴウたちは、本来の大きなキツネの姿になった。
《こんなに暗くては、動きづらいだろう。まずは、光をやろう》
コンゴウの体が金色に輝きだした。この辺り一帯が、コンゴウの光で照らされる。突然、周囲が明るくなったので、みんなは「おおっ」と驚きの声を上げながら、まぶしそうに目を細めている。
《じゃあワタシは、この無数にいる悪霊の数を減らしていこうかしらね》
シロガネが跳躍すると、その軌道の霊が一掃された。
「やっぱ、おまえんところの神使はすげえな」
「へへ、でしょ」
コンゴウとシロガネを褒められると、自分のことのように嬉しい。
「っと、のんびりしている場合じゃないよね。みんなの体から、霊を消し去らないと!」
わたしは、崖に向かってふらふらと歩く麗子ちゃんに向けて、オオヌサを振った。
「祓えたまえ、清めたまえ。悪い霊よ、麗子ちゃんの体から出て行って!」
すると、歩いていた麗子ちゃんの足が止まって、カクリとひざをついた。
「動く。やっと自分で体を動かせるわ。怖かった……!」
麗子ちゃんは半泣きになっている。
「麗子ちゃん、悠一郎くんの傍なら安全だよ」
「わかった」
麗子ちゃんは返事をしたものの、動かなかった。
「また動けなくなっちゃった?」
「ううん。……スズ香」
「どうしたの? あらたまって」
麗子ちゃん眉を上げて目の下を赤く染めながら、スカートを強く握った。
「このまえは、ウソつきって言ってごめんなさい。……あと、助けてくれてありがとう。それだけよ!」
麗子ちゃんは悠一郎くんのいるほうに走っていった。
「麗子ちゃんに、謝られた」
初めてかもしれない。よほど、体を乗っ取られたのが怖かったんだろうな。
「よし、じゃあ次も……あっ」
歩き出そうとしたら、足が動かずに転んでしまった。
「イタタ、草がからまったのかな?」
そう思ってよく見ると、わたしの足首を、誰かが掴んでいた。
そう気づいた時には、いくつもの手が伸びてきて、地面に押さえ込まれて動けなくなってしまった。
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