24 / 31
7 巨大な霊との戦い!
1
しおりを挟む
「さっきと、幽霊の質が変わったね」
わたしたちは暗く狭い道を、警戒しながら進んだ。
柵を越えるまでは、どちらかといえばいたずらっ子の妖怪とか、ただ漂っている魂のようなものが多かった。
でも、今は違う。
明確に、悪意を向けられている。
こうして歩いているだけなのに、肌がヒリヒリするよ。
「あれ?」
どす黒い悪意が蔓延しているなかで、質の違う霊がいた。
ほのかに白く浮かび上がっている姿は、三十代後半くらいの男性と女性だった。寄り添っているから、夫婦なのかもしれない。
見ているうちに、ふっと姿を消してしまった。
なんだったんだろう。ちょっと気になるな。
懐中電灯のライトに浮かび上がる道は、相変わらずガタガタとしている。右側はのぼりの斜面になっていて、左側は崖だった。
「落ちたらひとたまりもねえだろうな」
「そうだね。注意しないと」
出遅れたので早歩きをしていたのだけれど、前方に、何人か座っている生徒がいた。
「どうしたの?」
「このコ、気分が悪くなっちゃって」
五年生の女の子は、真っ青になっている。
「これだけ霊がいりゃあな、霊に敏感なやつは、見えなくたって気分が悪くなって当然だ」
龍司は周囲を見回しながら、いまいましそうに言った。暗闇に黒い影が飛び交っている。
「歩ける? さっきの柵から出たら、だいぶ良くなると思うんだけど」
わたしが声をかけると、女の子はうなずいた。
「頑張ってみる」
友達二人が、気分の悪い女の子を支えるようにして戻っていった。
気分が悪くなっている何組かに同じように指導して進んでいると、歓声が聞こえてきた。
「先頭がトンネルにたどり着いたようだな」
「あたしたちも急ごう」
走り出した二人に、わたしも続いた。
霊が多すぎてむせそうになる。霊が体を通過するたびに、凍るように冷えた。
なんでみんな平気なんだろう。こんなところ、一秒だっていたくないよ。
「スズ香、だいじょうぶか?」
龍司が走りながらも、肩越しに振り返って声をかけてくれた。
「うん、平気」
わたしは強がった。今は怖がっている場合じゃないもんね。
「まず記念撮影だな。心霊写真、撮れるかな」
「トンネルの中に入ってみようぜ」
そんな声が聞こえてくる。うわさの心霊スポットにたどり着いたことで、みんな興奮しているようだった。
「あれって、しめ縄?」
わたしは龍司に確認する。
「そうみたいだな」
トンネルの入り口をさえぎっているものは、空からはただのロープに見えたけど、よく見ると二本の縄がねじりあって編まれていた。
「しめ縄なら、なんなの?」
カヲルは走り続けながら、わたしに聞いた。
「しめ縄には、不浄なものの侵入を防ぐ結界の役割があるの」
「つまり、トンネルの中に、ヤベーのがいるかもしれないってことだよ」
「まずいね。トンネルに入ろうとしているヤツらを止めないと!」
カヲルは走るスピードをあげた。うわっ、すごい速い!
「おい、入るな!」
カヲルの声は聞こえているはずだけど、トンネルに入ろうとする人たちの動きは止まらない。
「この縄、邪魔だな。取っちまおうぜ」
「それに触るな!」
カヲルが制止するのも聞かず、クラスメイトの一人が、しめ縄を外してしまった。
「なんてこと」
わたしはこぶしをにぎった。みんな、軽率すぎるよ!
ううん、わたしがもっと真剣にみんなを説得していればよかったんだ。それが見えるわたしの役割だったのに。
「きゃあっ」
「なんだ今の風は」
みんなが口々に驚きの声をあげる。
トンネルの内側から外に向かって、激しい風が吹き出した。
……ように、クラスメイトたちには感じたはず。
「これが見えないなんて、うらやましい……」
わたしはひざをついた。
トンネルの中から、家よりも大きな黒いカタマリが飛び出した。
月を隠すように浮かんだその表面は、ぼこり、ぼこりとうごめいて、よく見るとそれは、手や足、そして人の顔のかたちをしていた。
――これは、たくさんの人の集合体なんだ。
こんな大変なものを、解き放ってしまった……。
どうすればいいんだろう。
わたしたちは暗く狭い道を、警戒しながら進んだ。
柵を越えるまでは、どちらかといえばいたずらっ子の妖怪とか、ただ漂っている魂のようなものが多かった。
でも、今は違う。
明確に、悪意を向けられている。
こうして歩いているだけなのに、肌がヒリヒリするよ。
「あれ?」
どす黒い悪意が蔓延しているなかで、質の違う霊がいた。
ほのかに白く浮かび上がっている姿は、三十代後半くらいの男性と女性だった。寄り添っているから、夫婦なのかもしれない。
見ているうちに、ふっと姿を消してしまった。
なんだったんだろう。ちょっと気になるな。
懐中電灯のライトに浮かび上がる道は、相変わらずガタガタとしている。右側はのぼりの斜面になっていて、左側は崖だった。
「落ちたらひとたまりもねえだろうな」
「そうだね。注意しないと」
出遅れたので早歩きをしていたのだけれど、前方に、何人か座っている生徒がいた。
「どうしたの?」
「このコ、気分が悪くなっちゃって」
五年生の女の子は、真っ青になっている。
「これだけ霊がいりゃあな、霊に敏感なやつは、見えなくたって気分が悪くなって当然だ」
龍司は周囲を見回しながら、いまいましそうに言った。暗闇に黒い影が飛び交っている。
「歩ける? さっきの柵から出たら、だいぶ良くなると思うんだけど」
わたしが声をかけると、女の子はうなずいた。
「頑張ってみる」
友達二人が、気分の悪い女の子を支えるようにして戻っていった。
気分が悪くなっている何組かに同じように指導して進んでいると、歓声が聞こえてきた。
「先頭がトンネルにたどり着いたようだな」
「あたしたちも急ごう」
走り出した二人に、わたしも続いた。
霊が多すぎてむせそうになる。霊が体を通過するたびに、凍るように冷えた。
なんでみんな平気なんだろう。こんなところ、一秒だっていたくないよ。
「スズ香、だいじょうぶか?」
龍司が走りながらも、肩越しに振り返って声をかけてくれた。
「うん、平気」
わたしは強がった。今は怖がっている場合じゃないもんね。
「まず記念撮影だな。心霊写真、撮れるかな」
「トンネルの中に入ってみようぜ」
そんな声が聞こえてくる。うわさの心霊スポットにたどり着いたことで、みんな興奮しているようだった。
「あれって、しめ縄?」
わたしは龍司に確認する。
「そうみたいだな」
トンネルの入り口をさえぎっているものは、空からはただのロープに見えたけど、よく見ると二本の縄がねじりあって編まれていた。
「しめ縄なら、なんなの?」
カヲルは走り続けながら、わたしに聞いた。
「しめ縄には、不浄なものの侵入を防ぐ結界の役割があるの」
「つまり、トンネルの中に、ヤベーのがいるかもしれないってことだよ」
「まずいね。トンネルに入ろうとしているヤツらを止めないと!」
カヲルは走るスピードをあげた。うわっ、すごい速い!
「おい、入るな!」
カヲルの声は聞こえているはずだけど、トンネルに入ろうとする人たちの動きは止まらない。
「この縄、邪魔だな。取っちまおうぜ」
「それに触るな!」
カヲルが制止するのも聞かず、クラスメイトの一人が、しめ縄を外してしまった。
「なんてこと」
わたしはこぶしをにぎった。みんな、軽率すぎるよ!
ううん、わたしがもっと真剣にみんなを説得していればよかったんだ。それが見えるわたしの役割だったのに。
「きゃあっ」
「なんだ今の風は」
みんなが口々に驚きの声をあげる。
トンネルの内側から外に向かって、激しい風が吹き出した。
……ように、クラスメイトたちには感じたはず。
「これが見えないなんて、うらやましい……」
わたしはひざをついた。
トンネルの中から、家よりも大きな黒いカタマリが飛び出した。
月を隠すように浮かんだその表面は、ぼこり、ぼこりとうごめいて、よく見るとそれは、手や足、そして人の顔のかたちをしていた。
――これは、たくさんの人の集合体なんだ。
こんな大変なものを、解き放ってしまった……。
どうすればいいんだろう。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】アシュリンと魔法の絵本
秋月一花
児童書・童話
田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。
地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。
中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP
じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】
悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。
「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。
いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――
クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。
子猫マムと雲の都
杉 孝子
児童書・童話
マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。
マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。
ハッピーエンドをとりもどせ!
cheeery
児童書・童話
本が大好きな小学5年生の加奈は、図書室でいつも学校に来ていない不良の陽太と出会う。
陽太に「どっか行け」と言われ、そそくさと本を手にとり去ろうとするが、その本を落としてしまうとビックリ!大好きなシンデレラがハッピーエンドじゃない!?
王子様と幸せに暮らすのが意地悪なお姉様たちなんてありえない!
そう思っていると、本が光り出し、陽太が手に持っていたネコが廊下をすり抜ける。
興味本位で近づいてみた瞬間、ふたりは『シンデレラ』の世界に入りこんでしまった……!
「シンデレラのハッピーエンドをとりもどさない限り、元来た場所には帰れない!?」
ふたりは無事、シンデレラのハッピーエンドをとりもどし元の世界に戻れるのか!?
オオカミ少女と呼ばないで
柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。
空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように――
表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。
ヴァンパイアハーフにまもられて
クナリ
児童書・童話
中学二年の凛は、文芸部に所属している。
ある日、夜道を歩いていた凛は、この世ならぬ領域に踏み込んでしまい、化け物に襲われてしまう。
そこを助けてくれたのは、ツクヨミと名乗る少年だった。
ツクヨミに従うカラス、ツクヨミの「妹」だという幽霊、そして凛たちに危害を加えようとする敵の怪異たち。
ある日突然少女が非日常の世界に入り込んだ、ホラーファンタジーです。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
氷鬼司のあやかし退治
桜桃-サクランボ-
児童書・童話
日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。
氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。
これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。
二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。
それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。
そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。
狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。
過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。
一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる