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6 おばけトンネル

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「カヲルはいいなあ。人気者だし、落ち着いてるし、美人だし、頭もいいし、運動神経もいいし。悩みなんてないでしょ」
 わたしはカヲルの腕を抱きしめながら、肩に頭をあずけてみた。同い年なのに、なんだかお姉さんみたいに安心する。
「わたしなんて運動は苦手だし、友達も少ないし」
 少ないというか、カヲルしかいない。
 性格も成績も容姿もフツーなんだけどな。なんで友達ができないんだろう。
「スズ香は声をかけづらいんだよ」
 ガーン!
 わたしはカヲルの言葉に涙目になる。
「神社の巫女だからかな。神秘的な空気をまとっているっていうか、用もないのに話しかけちゃいけない感じがする」
「そんなっ、フツーなのに!」
「普通の人は、髪にそういうの使わないよ」
「そうかなあ」
 ハーフアップにしている黒髪に、ヘアゴム代わりに使っている、ギザギザの白い紙垂。神さまのご加護をいただける気がして元気が出るから、みんなもつければいいのに。
「用がなくても、龍司や麗子ちゃんは声をかけてくるよ」
「麗子は空気が読めないからね。それに、麗子がお気に入りのイケメンとばかりスズ香が話してるから、突っかかってくるんだよ」
 つまり、悠一郎くんとか龍司とか。
 悠一郎くんはイケメンで異議なしだけど、龍司は……。
 龍司は勝負を持ちかけてくるのは面倒くさいけど、助けてくれるときは、カッコいいかも。
「それにあたしにも、悩みくらいあるよ」
 龍司のことを思い出していると、カヲルが意外な発言をした。
「カヲルにも悩みがあるの? なに?」
 わたしは前のめりになった。
「そんなの、言うわけないでしょ」
「そんなこと言って、本当はないんでしょ。わたしに話を合わせただけなんでしょ?」
「なんでそんなこと知りたがるんだよ」
「わたしにはいっぱい悩みがあるからだよっ」
 幽霊が見えること……は、いいこともあるけど、やっぱり人と違うんだなって思っちゃうし、人前で話すことも苦手。
「……だよ」
「え? ごめん聞こえなかった。もう一回言って」
 カヲルは、恥ずかしそうに顔を赤らめた。そしてわたしの耳元にくちびるを寄せた。
「スカートが、似合わないことだよ」
「……えっ」
 そういえば、カヲルがスカートをはいているところを見たことがなかった。学校でも休日でも、いつもパンツだったから。
「気にしてたの?」
「気にしてたよ。中学生になったら制服が心配なんだ。内緒だからね」
「うん。カヲル、かわいいっ!」
「こら、引っ張るなよ」
 わたしはカヲルの腕をぎゅっと抱きしめた。
「だからおまえら、イチャイチャすんなって言ってるだろ」
「あれ龍司、まだいたの?」
「なっ……!」
 龍司のことをすっかり忘れていた。
「ほらカヲル、そろそろ代わってやるよ。スズ香は重いだろ」
「失礼ねっ! そんなに体重かけてないよ」
「別に、スズ香は軽いけど。ほら」
「ふええっ、ちょっとカヲル!」
 ひょいっと、カヲルにお姫様だっこされちゃった!
「やだ、目立っちゃうよ。恥ずかしい、おろして」
「どうしようかな」
 カヲルは楽しそうにニヤニヤしている。
「カヲル、てめえ、わざとだな」
 龍司はじだんだをふんだ。
「龍司が素直じゃないから、おもしろくて。まあいいや。手を広げなよ」
「手だあ? 広げてどうするんだよ」
「いいから。……うん、そのまま。落とすなよ」
 カヲルがそう言った途端、わたしの体がふわっと浮いた。
「パス」
「わわわわっ」
「ええっ」
 そして気づけば、今度は龍司にお姫様だっこされていた。わたしはボールみたいにカヲルに投げられちゃったんだ。
「同じクラスのよしみ」
「ちょっとカヲル、わたしはモノじゃないんだからねっ」
 びっくりして、わたしは落ちないようにギュッと龍司の肩に両腕を回して抱きついた。
 あっ、感触がカヲルと違う。
 身長は同じくらいなのに、肩幅があるし、体に厚みがあってたくましい。やっぱり、龍司は男の子なんだな。
 そう思うと、ドキドキしてしまう。
「……あれ、龍司?」
 龍司はわたしをだっこしたまま、立ち止まって固まっていた。
「そんなに重いの? 降りるから、しゃがんでよ」
「あーあ、フリーズしたか。よくそれで手をつなぎたがったな」
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