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6 おばけトンネル
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「そろそろ行かなきゃなあ」
夕ご飯を食べ終わって、居間でゴロゴロとしていたわたしは、時計が六時五十分を指すのを見て、しぶしぶと起き上がった。
この家からおばけトンネルまで、自転車で二十五分くらいかかる。七時三十分に、おばけトンネル近くの広場で集合することになっていた。
「どこに行くんだ、スズ香」
「そっか、言ってなかったっけ」
テレビを見ているおジイちゃんがわたしにたずねた。神社にいるときは白衣に袴姿のおジイちゃんも、家ではジンベエを着ている。
夜、クラスメイトと肝試しをすることは事前に伝えていて、おジイちゃんにオーケーをもらってある。でも、うっかり場所を言いそびれていた。
わたしは遊びに行くことがほとんどないから、おジイちゃんとおバアちゃんは、ものすごく喜んでくれた。
「肝試しをする場所は、おばけトンネルだよ」
そう言った途端、おジイちゃんの顔色が青くなっていった。
「よりによって、あのトンネルなのか……。やめておきなさい」
「えっ、でもさっきは、行っていいって言ったよね」
「場所が悪すぎる」
おジイちゃんまで、そう言うくらい怖い場所なの?
わたしは、ますます腰が重くなった。
「わたしもあまり行きたくないんだけどね、幽霊が見えるわたしと龍司がいないと、もっとみんなが危なくなるかもしれないから」
わたしの言葉で、おジイちゃんは「幽霊の危険性は今気づいた」というような顔をした。
「……そういえば、あそこは心霊スポットになっていたんだっけな」
「おジイちゃんは、おばけが出るから行くなって言ったんじゃないの?」
「まあ、それは……」
おジイちゃんの歯切れが悪くなった。
「コンゴウさま、シロガネさま、スズ香について行ってくださいますか?」
《ああ》
《もちろんよ》
わたしの両肩にのっている神使たちはうなずいた。
おジイちゃんにも神使や幽霊、妖怪なんかが見えるんだ。でもおバアちゃんは神社の直系じゃないから、見えないんだって。
そこに、ピンポーンと玄関の呼び鈴が鳴った。
うちは神社の境内にある、社務所とつながっているんだ。社務所の入り口と玄関は別にある。
「ハーイ」
引き戸の玄関を開けると、龍司が立っていた。
「あれ、龍司」
「迎えに来てやったぞ。暗いからな」
ちょっと怒ったような顔で、いつもの調子で龍司が言った。
「一人でだいじょうぶなのに」
「いいから、早く出て来いよ。遅れるぞ」
「そうだよね」
わたしは準備していたリュックを取りに行って玄関に戻ると、おバアちゃんが龍司と話していた。
「龍司くんが一緒なら安心ね」
「帰りも、責任をもって送ります」
「あらあら、心強いわ。よかったわねスズ香」
「うん。ありがとう」
今はまだ外は完全に暗くなりきっていないけど、帰りは真っ暗なはずだもんね。一人で帰るのはちょっと怖い。たとえ龍司だとしても、誰かがいてくれると助かる。
「なんだよ、素直に礼を言われると、変な感じだな」
龍司はベリーショートの髪を照れくさそうにかき上げた。
「おれの自転車の後ろに乗っていくか?」
「二人乗りはルール違反なんだよ」
「真面目なやつ」
龍司はつまらなそうに言う。
わたしたちは、おばけトンネルに向かって自転車をこいだ。
まだほんのりと明るさがあった空は、みるみるうちに暗くなっていった。山道になると外灯が少なくなって、星がキラキラと輝いて見える。
それにしても、斜面ってだけでも自転車は大変なのに、ライトをつけているから、よけいにペダルが重い!
日が落ちたとはいえただでさえ暑いのに、山道をのぼっているから、汗がふき出してくる。
集合時間の五分前に、わたしたちは広場に到着した。
夕ご飯を食べ終わって、居間でゴロゴロとしていたわたしは、時計が六時五十分を指すのを見て、しぶしぶと起き上がった。
この家からおばけトンネルまで、自転車で二十五分くらいかかる。七時三十分に、おばけトンネル近くの広場で集合することになっていた。
「どこに行くんだ、スズ香」
「そっか、言ってなかったっけ」
テレビを見ているおジイちゃんがわたしにたずねた。神社にいるときは白衣に袴姿のおジイちゃんも、家ではジンベエを着ている。
夜、クラスメイトと肝試しをすることは事前に伝えていて、おジイちゃんにオーケーをもらってある。でも、うっかり場所を言いそびれていた。
わたしは遊びに行くことがほとんどないから、おジイちゃんとおバアちゃんは、ものすごく喜んでくれた。
「肝試しをする場所は、おばけトンネルだよ」
そう言った途端、おジイちゃんの顔色が青くなっていった。
「よりによって、あのトンネルなのか……。やめておきなさい」
「えっ、でもさっきは、行っていいって言ったよね」
「場所が悪すぎる」
おジイちゃんまで、そう言うくらい怖い場所なの?
わたしは、ますます腰が重くなった。
「わたしもあまり行きたくないんだけどね、幽霊が見えるわたしと龍司がいないと、もっとみんなが危なくなるかもしれないから」
わたしの言葉で、おジイちゃんは「幽霊の危険性は今気づいた」というような顔をした。
「……そういえば、あそこは心霊スポットになっていたんだっけな」
「おジイちゃんは、おばけが出るから行くなって言ったんじゃないの?」
「まあ、それは……」
おジイちゃんの歯切れが悪くなった。
「コンゴウさま、シロガネさま、スズ香について行ってくださいますか?」
《ああ》
《もちろんよ》
わたしの両肩にのっている神使たちはうなずいた。
おジイちゃんにも神使や幽霊、妖怪なんかが見えるんだ。でもおバアちゃんは神社の直系じゃないから、見えないんだって。
そこに、ピンポーンと玄関の呼び鈴が鳴った。
うちは神社の境内にある、社務所とつながっているんだ。社務所の入り口と玄関は別にある。
「ハーイ」
引き戸の玄関を開けると、龍司が立っていた。
「あれ、龍司」
「迎えに来てやったぞ。暗いからな」
ちょっと怒ったような顔で、いつもの調子で龍司が言った。
「一人でだいじょうぶなのに」
「いいから、早く出て来いよ。遅れるぞ」
「そうだよね」
わたしは準備していたリュックを取りに行って玄関に戻ると、おバアちゃんが龍司と話していた。
「龍司くんが一緒なら安心ね」
「帰りも、責任をもって送ります」
「あらあら、心強いわ。よかったわねスズ香」
「うん。ありがとう」
今はまだ外は完全に暗くなりきっていないけど、帰りは真っ暗なはずだもんね。一人で帰るのはちょっと怖い。たとえ龍司だとしても、誰かがいてくれると助かる。
「なんだよ、素直に礼を言われると、変な感じだな」
龍司はベリーショートの髪を照れくさそうにかき上げた。
「おれの自転車の後ろに乗っていくか?」
「二人乗りはルール違反なんだよ」
「真面目なやつ」
龍司はつまらなそうに言う。
わたしたちは、おばけトンネルに向かって自転車をこいだ。
まだほんのりと明るさがあった空は、みるみるうちに暗くなっていった。山道になると外灯が少なくなって、星がキラキラと輝いて見える。
それにしても、斜面ってだけでも自転車は大変なのに、ライトをつけているから、よけいにペダルが重い!
日が落ちたとはいえただでさえ暑いのに、山道をのぼっているから、汗がふき出してくる。
集合時間の五分前に、わたしたちは広場に到着した。
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