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5 肝試しに行こう!
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「麗子ちゃん、誰が行くとかじゃなくて、その企画自体、中止にしてほしいんだってば。おばけトンネルは危ないんだよ」
わたしはもう一度、主張した。
「どうしてやめなきゃならないのよ。スズ香は来ないんだから、関係ないでしょ」
ああっ、わたしは行かないことになってる!
「やれやれ、あれは意地になってるな」
カヲルは頬杖をついたまま、麗子ちゃんを流し見ている。
「強制はよくないよ。ぼくもトンネルの悪いうわさを聞いたことがあるから行きたくない。興味がある人だけで計画すればいいんじゃないかな」
悠一郎くんが発言した。
「ええっ、そんなあ」
麗子ちゃんはガッカリしたようだったけれど、すぐになにか思いついたように、ニヤリと笑った。
「じゃあ、悠一郎が参加してくれるなら、希望者だけってことにしてもいいわよ」
麗子ちゃんは交換条件を出した。しかも悠一郎くんにとっては、どっちを選んでも参加しなきゃいけなくて、全然メリットがない。
「まいったな、ぼくも行きたくないんだけど」
「じゃあ、クラス全員、強制参加にする!」
悠一郎くんはあきらめたように、ため息をついた。
「……わかった、参加するよ」
「やったあ! じゃあ、もういいわ、みんなは来なくて」
なんだよそれ! とブーイングが起こったけれど、麗子ちゃんはおかまいなし。足取りも軽く教壇から降りた。
「全員参加って言いだしたのは、悠一郎を参加させるための口実だったみたいだな。悠一郎だけ誘っても断られるから、行事ってていにしたんだ」
カヲルはやれやれというように肩をすくめた。
「カヲル、どうしよう」
「ああなった麗子はとめられないよ。放っておけばいい」
《スズ香は忠告してやったんだ。トンネルで怖い思いをしたとしても、自業自得だろ》
肩にいるコンゴウも、カヲルと同じ意見みたい。
「でも悠一郎くんは、行きたくない人のために参加してくれたんだよ。なにかあったらかわいそう」
わたしはいい案がないか考えた。
……そうだ!
「麗子ちゃん、別のクラスだけど、龍司を連れて行ってよ。危ない場所とか、教えてくれるはずだから」
龍司なら幽霊が見えるし、お祓いもできる。きっと悠一郎くんたちを守ってくれるよね。
「あらスズ香、たまにはいいこと言うじゃない。龍司なら大歓迎よ!」
よかった、許可をもらえた。
わたしはホッとして、席についた。
「麗子は本当にメンクイだな。本命は悠一郎だろうけど、顔が良ければなんでもいいっていう一貫した態度は、いっそすがすがしいよ」
カヲルは眉をひそめて、ますますあきれた表情になった。
「ちょっとスズ香、なに座ってるの。今から龍司を誘いに行くわよ」
「えっ、わたしも行くの?」
いつのまにか麗子ちゃんがそばにいた。
「当たり前でしょ。腹立たしいけど、スズ香から誘ったほうが、参加する可能性が上がるんだから」
急かされて廊下に出ると、龍司と同じクラスのカヲルがとなりの教室に入って、龍司を呼び出してくれた。
「なんだよスズ香。おれを呼び出すなんて珍しいじゃないか」
龍司は廊下の壁に寄りかかって、わたしをうながした。龍司の腕と足には、まだ大きな絆創膏がはってあった。それを見るたびに、申し訳ない気持ちと、ちょっとくすぐったい気持ちにもなった。
「あのね、言いにくいんだけどね……」
わたしはなかなか本題に入れなかった。
だって龍司、怒りそうなんだもん。
「スズ香のクラスがおばけトンネルで肝試しをすることになったから、龍司にも参加してほしいんだってさ」
わたしがもじもじしていると、代わりにカヲルが言ってくれた。
「はあ? バカじゃねえの。近づくなっつっただろ!」
はわわっ、やっぱり怒られた! わたしは止めたのに!
わたしは思わずぎゅっと目を閉じた。
「本当におばけがいるか、確かめに行くのよ。おもしろそうでしょ? 龍司は幽霊が見えるんだから、どんな霊がいるのか解説してよ」
わたしも龍司も同じように幽霊が見えることは知られているけれど、麗子ちゃんの態度はこんなに違う。ひどい。
「マジで危ねえよ、やめとけ麗子」
「そう言うなら、龍司があたしを守ってよ」
「なんでだよ」
龍司は頭痛がするとでもいうように、頭を押さえた。
「スズ香も行くのか?」
「わたしは行かないから、龍司に行ってもらおうと思って」
「おれに見張り役を押しつけに来たのか」
「そ、そういうわけじゃ」
わたしは慌てて手をふった。でも、結果的にそうなっちゃうのかな。
龍司は腕を組んで、しばらく考えてから、壁から体を離して真っすぐに立った。
「スズ香が行くなら、おれも参加するよ」
「えっ、でもわたしは……」
「やった! これで決まりね。スズ香も来るのよ!」
「ええっ? いたっ」
麗子ちゃんに強く背中を叩かれた。さっきは来なくていいって言ってたのに、手首が骨折しそうなほどの手のひら返しだよ!
「ううっ、わたしまで巻き込まれちゃった」
「バーカ、それはこっちのセリフだっつの」
龍司は舌を出して、教室に入っていった。
「今夜はあたしもつきあうよ、スズ香」
ポンとわたしの肩を叩いて、カヲルも教室に入った。
そこに、キーンコーンカーンコーン、と予鈴が鳴り響いた。
うわあ、危ないおばけトンネルに行くことになっちゃったよ!
わたしはもう一度、主張した。
「どうしてやめなきゃならないのよ。スズ香は来ないんだから、関係ないでしょ」
ああっ、わたしは行かないことになってる!
「やれやれ、あれは意地になってるな」
カヲルは頬杖をついたまま、麗子ちゃんを流し見ている。
「強制はよくないよ。ぼくもトンネルの悪いうわさを聞いたことがあるから行きたくない。興味がある人だけで計画すればいいんじゃないかな」
悠一郎くんが発言した。
「ええっ、そんなあ」
麗子ちゃんはガッカリしたようだったけれど、すぐになにか思いついたように、ニヤリと笑った。
「じゃあ、悠一郎が参加してくれるなら、希望者だけってことにしてもいいわよ」
麗子ちゃんは交換条件を出した。しかも悠一郎くんにとっては、どっちを選んでも参加しなきゃいけなくて、全然メリットがない。
「まいったな、ぼくも行きたくないんだけど」
「じゃあ、クラス全員、強制参加にする!」
悠一郎くんはあきらめたように、ため息をついた。
「……わかった、参加するよ」
「やったあ! じゃあ、もういいわ、みんなは来なくて」
なんだよそれ! とブーイングが起こったけれど、麗子ちゃんはおかまいなし。足取りも軽く教壇から降りた。
「全員参加って言いだしたのは、悠一郎を参加させるための口実だったみたいだな。悠一郎だけ誘っても断られるから、行事ってていにしたんだ」
カヲルはやれやれというように肩をすくめた。
「カヲル、どうしよう」
「ああなった麗子はとめられないよ。放っておけばいい」
《スズ香は忠告してやったんだ。トンネルで怖い思いをしたとしても、自業自得だろ》
肩にいるコンゴウも、カヲルと同じ意見みたい。
「でも悠一郎くんは、行きたくない人のために参加してくれたんだよ。なにかあったらかわいそう」
わたしはいい案がないか考えた。
……そうだ!
「麗子ちゃん、別のクラスだけど、龍司を連れて行ってよ。危ない場所とか、教えてくれるはずだから」
龍司なら幽霊が見えるし、お祓いもできる。きっと悠一郎くんたちを守ってくれるよね。
「あらスズ香、たまにはいいこと言うじゃない。龍司なら大歓迎よ!」
よかった、許可をもらえた。
わたしはホッとして、席についた。
「麗子は本当にメンクイだな。本命は悠一郎だろうけど、顔が良ければなんでもいいっていう一貫した態度は、いっそすがすがしいよ」
カヲルは眉をひそめて、ますますあきれた表情になった。
「ちょっとスズ香、なに座ってるの。今から龍司を誘いに行くわよ」
「えっ、わたしも行くの?」
いつのまにか麗子ちゃんがそばにいた。
「当たり前でしょ。腹立たしいけど、スズ香から誘ったほうが、参加する可能性が上がるんだから」
急かされて廊下に出ると、龍司と同じクラスのカヲルがとなりの教室に入って、龍司を呼び出してくれた。
「なんだよスズ香。おれを呼び出すなんて珍しいじゃないか」
龍司は廊下の壁に寄りかかって、わたしをうながした。龍司の腕と足には、まだ大きな絆創膏がはってあった。それを見るたびに、申し訳ない気持ちと、ちょっとくすぐったい気持ちにもなった。
「あのね、言いにくいんだけどね……」
わたしはなかなか本題に入れなかった。
だって龍司、怒りそうなんだもん。
「スズ香のクラスがおばけトンネルで肝試しをすることになったから、龍司にも参加してほしいんだってさ」
わたしがもじもじしていると、代わりにカヲルが言ってくれた。
「はあ? バカじゃねえの。近づくなっつっただろ!」
はわわっ、やっぱり怒られた! わたしは止めたのに!
わたしは思わずぎゅっと目を閉じた。
「本当におばけがいるか、確かめに行くのよ。おもしろそうでしょ? 龍司は幽霊が見えるんだから、どんな霊がいるのか解説してよ」
わたしも龍司も同じように幽霊が見えることは知られているけれど、麗子ちゃんの態度はこんなに違う。ひどい。
「マジで危ねえよ、やめとけ麗子」
「そう言うなら、龍司があたしを守ってよ」
「なんでだよ」
龍司は頭痛がするとでもいうように、頭を押さえた。
「スズ香も行くのか?」
「わたしは行かないから、龍司に行ってもらおうと思って」
「おれに見張り役を押しつけに来たのか」
「そ、そういうわけじゃ」
わたしは慌てて手をふった。でも、結果的にそうなっちゃうのかな。
龍司は腕を組んで、しばらく考えてから、壁から体を離して真っすぐに立った。
「スズ香が行くなら、おれも参加するよ」
「えっ、でもわたしは……」
「やった! これで決まりね。スズ香も来るのよ!」
「ええっ? いたっ」
麗子ちゃんに強く背中を叩かれた。さっきは来なくていいって言ってたのに、手首が骨折しそうなほどの手のひら返しだよ!
「ううっ、わたしまで巻き込まれちゃった」
「バーカ、それはこっちのセリフだっつの」
龍司は舌を出して、教室に入っていった。
「今夜はあたしもつきあうよ、スズ香」
ポンとわたしの肩を叩いて、カヲルも教室に入った。
そこに、キーンコーンカーンコーン、と予鈴が鳴り響いた。
うわあ、危ないおばけトンネルに行くことになっちゃったよ!
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