15 / 31
4 凶暴化しているケモノの原因とは?
3
しおりを挟む
「どうしよう、逃げ道はないよ」
そう言っている間に、動物たちが突進し始めた。
《龍司、その子を抱き上げなさい》
シロガネが龍司にするどく指示をした。
「カヲルを? なんで?」
《いいから早く!》
その声と同時に、シロガネが巨大なキツネの姿になった。そしてわたしたちを背中に乗せて、空に飛びあがる。
《しっかりつかまって!》
シロガネは木よりも高く飛んだ。
下を見ると、わたしたちが立っていた場所で、動物たちが頭をゴッツンとぶつけて痛そうにしている。ちょっとかわいそう。
「スゲーなシロガネ。おまえって変身して、しかも空を飛べるんだな!」
龍司は相沢さんを抱えたまま興奮している。
「ありがとうシロガネ、助かったよ」
《どういたしまして》
シロガネは上空にゆったりと浮いていた。山全体を見渡せるくらい高い。
「ちょっ、な、なんだこれ、なんで空に浮いてるんだよっ」
めずらしく相沢さんが慌てふためいていた。
それはそうだよね、空を飛んでるんだから。普通じゃありえない。
「相沢さんには見えないよね。今わたしたちは、シロガネに乗ってるんだよ」
「シロガネって、なに?」
おびえたようにそう言いながら、相沢さんは龍司にしっかりとしがみついている。
シロガネが見えないってことは、なにもないのにわたしたち三人がふわふわ浮いているように感じているんだろうね。
それにきっと、龍司がちゃんと抱えていないと、相沢さんは落ちちゃうんだろうな。空の上は気持ちいいけど、危ないから早く降りないとね。
「シロガネは、うちの神社の神使なんだよ」
「シンシ?」
「神さまの使いと書いて、神使だよ。シロガネは狛狐なんだ、うちは稲荷神社だからね」
コンゴウとシロガネは対の神使で、もう何百年もうちの神社を守ってくれているんだって。
本来は今みたいに、ゾウよりも大きな体をしているの。だけど大きすぎるから、手のひらサイズになって、わたしと一緒にいてくれるんだよ。
小さいシロガネたちもかわいくて好きだけど、今みたいに大きくなると、キツネというよりオオカミみたいにりりしくて、すごくカッコいいんだ。
「久しぶりの、大きなシロガネだあ」
《ウフフ、くすぐったいわよ》
わたしはシロガネの太い首に抱きついて、全身で銀色のふさふさを楽しんだ。やっぱり気持ちがいいなあ。
「結局さ、動物だけが変っていうより、山自体がおかしかったよな」
龍司は山を見下ろしながら言った。
「確かに、途中から虫や鳥の声がしなくなったからね」
あんなに取り乱していたのがウソのように、相沢さんは片腕だけ龍司の肩に回して、落ち着いたようすで景色を眺めている。もうこの状況に慣れちゃったみたい。
「あれ? ねえねえ、山の頂上あたりに、お社があるよね」
わたしは二人を振り返った。森の色と同じ緑の屋根だからわかりづらい。それに、あまり大きくない。車の半分くらいかな?
相沢さんは首をかしげた。
「何度かこの山に入ったことがあるけど、お社があるなんて知らなかったな」
「おい、なんか、屋根が壊れてねえか?」
「ホントだっ」
緑の屋根瓦の一部が崩れ落ちていて、下地の木も折れちゃってる。
「お社の隣りに、倒れた木があるね。おそらく、梅雨の大雨で地面がゆるんで、倒れた木がお社に当たったんだろう」
そう言った相沢さんの言葉に、シロガネがうなずいた。
《山神さまが怒っているのかもしれないわね》
「山神さま?」
《そうよ。山神さまは、山の動物たちを守り、森を守っているのよ。それなのに、山の動物を狩るだけじゃなく、壊れたお社を放っておくんだもの。怒るのも当然かもしれないわね》
わたしはシロガネの声が聞こえない相沢さんに、同じことを伝えた。すると、相沢さんは表情をくもらせた。
「わたしたちは遊びでやっているわけじゃない。害獣が増えすぎないように調整しているだけだよ。狩猟の時期も決まってる」
狩りをするのは、基本的には冬だけなんだって。
《人間の作ったルールなんて、神さまに通用しないわよ。でも、節度を守っているうちは、黙っていたんじゃないかしら》
「じゃあ、お社を直せばいいのかな?」
《そうね、それが礼儀というものよ。自然にも感謝するように》
その言葉を告げると、相沢さんはうなずいた。
「父に伝えるよ」
「おいスズ香、あそこを見ろよ」
龍司は今入ったのとは別の、もう少し高い山のふもとを指さした。
そう言っている間に、動物たちが突進し始めた。
《龍司、その子を抱き上げなさい》
シロガネが龍司にするどく指示をした。
「カヲルを? なんで?」
《いいから早く!》
その声と同時に、シロガネが巨大なキツネの姿になった。そしてわたしたちを背中に乗せて、空に飛びあがる。
《しっかりつかまって!》
シロガネは木よりも高く飛んだ。
下を見ると、わたしたちが立っていた場所で、動物たちが頭をゴッツンとぶつけて痛そうにしている。ちょっとかわいそう。
「スゲーなシロガネ。おまえって変身して、しかも空を飛べるんだな!」
龍司は相沢さんを抱えたまま興奮している。
「ありがとうシロガネ、助かったよ」
《どういたしまして》
シロガネは上空にゆったりと浮いていた。山全体を見渡せるくらい高い。
「ちょっ、な、なんだこれ、なんで空に浮いてるんだよっ」
めずらしく相沢さんが慌てふためいていた。
それはそうだよね、空を飛んでるんだから。普通じゃありえない。
「相沢さんには見えないよね。今わたしたちは、シロガネに乗ってるんだよ」
「シロガネって、なに?」
おびえたようにそう言いながら、相沢さんは龍司にしっかりとしがみついている。
シロガネが見えないってことは、なにもないのにわたしたち三人がふわふわ浮いているように感じているんだろうね。
それにきっと、龍司がちゃんと抱えていないと、相沢さんは落ちちゃうんだろうな。空の上は気持ちいいけど、危ないから早く降りないとね。
「シロガネは、うちの神社の神使なんだよ」
「シンシ?」
「神さまの使いと書いて、神使だよ。シロガネは狛狐なんだ、うちは稲荷神社だからね」
コンゴウとシロガネは対の神使で、もう何百年もうちの神社を守ってくれているんだって。
本来は今みたいに、ゾウよりも大きな体をしているの。だけど大きすぎるから、手のひらサイズになって、わたしと一緒にいてくれるんだよ。
小さいシロガネたちもかわいくて好きだけど、今みたいに大きくなると、キツネというよりオオカミみたいにりりしくて、すごくカッコいいんだ。
「久しぶりの、大きなシロガネだあ」
《ウフフ、くすぐったいわよ》
わたしはシロガネの太い首に抱きついて、全身で銀色のふさふさを楽しんだ。やっぱり気持ちがいいなあ。
「結局さ、動物だけが変っていうより、山自体がおかしかったよな」
龍司は山を見下ろしながら言った。
「確かに、途中から虫や鳥の声がしなくなったからね」
あんなに取り乱していたのがウソのように、相沢さんは片腕だけ龍司の肩に回して、落ち着いたようすで景色を眺めている。もうこの状況に慣れちゃったみたい。
「あれ? ねえねえ、山の頂上あたりに、お社があるよね」
わたしは二人を振り返った。森の色と同じ緑の屋根だからわかりづらい。それに、あまり大きくない。車の半分くらいかな?
相沢さんは首をかしげた。
「何度かこの山に入ったことがあるけど、お社があるなんて知らなかったな」
「おい、なんか、屋根が壊れてねえか?」
「ホントだっ」
緑の屋根瓦の一部が崩れ落ちていて、下地の木も折れちゃってる。
「お社の隣りに、倒れた木があるね。おそらく、梅雨の大雨で地面がゆるんで、倒れた木がお社に当たったんだろう」
そう言った相沢さんの言葉に、シロガネがうなずいた。
《山神さまが怒っているのかもしれないわね》
「山神さま?」
《そうよ。山神さまは、山の動物たちを守り、森を守っているのよ。それなのに、山の動物を狩るだけじゃなく、壊れたお社を放っておくんだもの。怒るのも当然かもしれないわね》
わたしはシロガネの声が聞こえない相沢さんに、同じことを伝えた。すると、相沢さんは表情をくもらせた。
「わたしたちは遊びでやっているわけじゃない。害獣が増えすぎないように調整しているだけだよ。狩猟の時期も決まってる」
狩りをするのは、基本的には冬だけなんだって。
《人間の作ったルールなんて、神さまに通用しないわよ。でも、節度を守っているうちは、黙っていたんじゃないかしら》
「じゃあ、お社を直せばいいのかな?」
《そうね、それが礼儀というものよ。自然にも感謝するように》
その言葉を告げると、相沢さんはうなずいた。
「父に伝えるよ」
「おいスズ香、あそこを見ろよ」
龍司は今入ったのとは別の、もう少し高い山のふもとを指さした。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】アシュリンと魔法の絵本
秋月一花
児童書・童話
田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。
地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。
中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP
じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】
悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。
「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。
いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――
クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。
子猫マムと雲の都
杉 孝子
児童書・童話
マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。
マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。
ハッピーエンドをとりもどせ!
cheeery
児童書・童話
本が大好きな小学5年生の加奈は、図書室でいつも学校に来ていない不良の陽太と出会う。
陽太に「どっか行け」と言われ、そそくさと本を手にとり去ろうとするが、その本を落としてしまうとビックリ!大好きなシンデレラがハッピーエンドじゃない!?
王子様と幸せに暮らすのが意地悪なお姉様たちなんてありえない!
そう思っていると、本が光り出し、陽太が手に持っていたネコが廊下をすり抜ける。
興味本位で近づいてみた瞬間、ふたりは『シンデレラ』の世界に入りこんでしまった……!
「シンデレラのハッピーエンドをとりもどさない限り、元来た場所には帰れない!?」
ふたりは無事、シンデレラのハッピーエンドをとりもどし元の世界に戻れるのか!?
オオカミ少女と呼ばないで
柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。
空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように――
表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。
ヴァンパイアハーフにまもられて
クナリ
児童書・童話
中学二年の凛は、文芸部に所属している。
ある日、夜道を歩いていた凛は、この世ならぬ領域に踏み込んでしまい、化け物に襲われてしまう。
そこを助けてくれたのは、ツクヨミと名乗る少年だった。
ツクヨミに従うカラス、ツクヨミの「妹」だという幽霊、そして凛たちに危害を加えようとする敵の怪異たち。
ある日突然少女が非日常の世界に入り込んだ、ホラーファンタジーです。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
氷鬼司のあやかし退治
桜桃-サクランボ-
児童書・童話
日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。
氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。
これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。
二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。
それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。
そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。
狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。
過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。
一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる