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4 凶暴化しているケモノの原因とは?

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「どうしよう、逃げ道はないよ」
 そう言っている間に、動物たちが突進し始めた。
《龍司、その子を抱き上げなさい》
 シロガネが龍司にするどく指示をした。
「カヲルを? なんで?」
《いいから早く!》
 その声と同時に、シロガネが巨大なキツネの姿になった。そしてわたしたちを背中に乗せて、空に飛びあがる。
《しっかりつかまって!》
 シロガネは木よりも高く飛んだ。
 下を見ると、わたしたちが立っていた場所で、動物たちが頭をゴッツンとぶつけて痛そうにしている。ちょっとかわいそう。
「スゲーなシロガネ。おまえって変身して、しかも空を飛べるんだな!」
 龍司は相沢さんを抱えたまま興奮している。
「ありがとうシロガネ、助かったよ」
《どういたしまして》
 シロガネは上空にゆったりと浮いていた。山全体を見渡せるくらい高い。
「ちょっ、な、なんだこれ、なんで空に浮いてるんだよっ」
 めずらしく相沢さんが慌てふためいていた。
 それはそうだよね、空を飛んでるんだから。普通じゃありえない。
「相沢さんには見えないよね。今わたしたちは、シロガネに乗ってるんだよ」
「シロガネって、なに?」
 おびえたようにそう言いながら、相沢さんは龍司にしっかりとしがみついている。
 シロガネが見えないってことは、なにもないのにわたしたち三人がふわふわ浮いているように感じているんだろうね。
 それにきっと、龍司がちゃんと抱えていないと、相沢さんは落ちちゃうんだろうな。空の上は気持ちいいけど、危ないから早く降りないとね。
「シロガネは、うちの神社の神使なんだよ」
「シンシ?」
「神さまの使いと書いて、神使だよ。シロガネは狛狐なんだ、うちは稲荷神社だからね」
 コンゴウとシロガネは対の神使で、もう何百年もうちの神社を守ってくれているんだって。
 本来は今みたいに、ゾウよりも大きな体をしているの。だけど大きすぎるから、手のひらサイズになって、わたしと一緒にいてくれるんだよ。
 小さいシロガネたちもかわいくて好きだけど、今みたいに大きくなると、キツネというよりオオカミみたいにりりしくて、すごくカッコいいんだ。
「久しぶりの、大きなシロガネだあ」
《ウフフ、くすぐったいわよ》
 わたしはシロガネの太い首に抱きついて、全身で銀色のふさふさを楽しんだ。やっぱり気持ちがいいなあ。
「結局さ、動物だけが変っていうより、山自体がおかしかったよな」
 龍司は山を見下ろしながら言った。
「確かに、途中から虫や鳥の声がしなくなったからね」
 あんなに取り乱していたのがウソのように、相沢さんは片腕だけ龍司の肩に回して、落ち着いたようすで景色を眺めている。もうこの状況に慣れちゃったみたい。
「あれ? ねえねえ、山の頂上あたりに、お社があるよね」
 わたしは二人を振り返った。森の色と同じ緑の屋根だからわかりづらい。それに、あまり大きくない。車の半分くらいかな?
 相沢さんは首をかしげた。
「何度かこの山に入ったことがあるけど、お社があるなんて知らなかったな」
「おい、なんか、屋根が壊れてねえか?」
「ホントだっ」
 緑の屋根瓦の一部が崩れ落ちていて、下地の木も折れちゃってる。
「お社の隣りに、倒れた木があるね。おそらく、梅雨の大雨で地面がゆるんで、倒れた木がお社に当たったんだろう」
 そう言った相沢さんの言葉に、シロガネがうなずいた。
《山神さまが怒っているのかもしれないわね》
「山神さま?」
《そうよ。山神さまは、山の動物たちを守り、森を守っているのよ。それなのに、山の動物を狩るだけじゃなく、壊れたお社を放っておくんだもの。怒るのも当然かもしれないわね》
 わたしはシロガネの声が聞こえない相沢さんに、同じことを伝えた。すると、相沢さんは表情をくもらせた。
「わたしたちは遊びでやっているわけじゃない。害獣が増えすぎないように調整しているだけだよ。狩猟の時期も決まってる」
 狩りをするのは、基本的には冬だけなんだって。
《人間の作ったルールなんて、神さまに通用しないわよ。でも、節度を守っているうちは、黙っていたんじゃないかしら》
「じゃあ、お社を直せばいいのかな?」
《そうね、それが礼儀というものよ。自然にも感謝するように》
 その言葉を告げると、相沢さんはうなずいた。
「父に伝えるよ」
「おいスズ香、あそこを見ろよ」
 龍司は今入ったのとは別の、もう少し高い山のふもとを指さした。
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