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3 洞くつ探検

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 恵美ちゃんを抱き上げると、わたしの首にしがみついてきた。
 あの男の子と会うのが怖いんだよね。
 わたしは公園で見た、恵美ちゃんの記憶を思い出していた。

 * * *

 おさげ髪の少女が、同い年くらいの少年と、川辺で遊んでいる。
「ねえ、もっと奥に行ってみようよ」
 おさげ髪の恵美が誘った。
「行ったことない場所は危ないよ」
「だからいいんじゃない、冒険だよ。もう、弱虫なんだから」
「弱虫じゃないよ!」
 少年はムッとして、恵美より先に歩き出した。
 夏ならば川遊びに来る家族もいたかもしれないが、山の中腹辺りにある冬の川には、誰もいなかった。
「あ、あっちに洞くつみたいな穴があるよ。向こう岸に行ってみようよ」
 恵美が指さす先の斜面には、大人でも入れそうな大きな穴が、ポッカリとあいていた。
「川を渡るのは、さすがにやめておこうよ」
 少年は乗り気ではないようだ。
 川の幅は六メートルほどあり、それなりに川の流れも速い。
「ここ、川が浅くなってる。それに、向こうまで大きな石が置かれてるよ。誰かが渡れるようにしたんだね」
「やめなよ、危ないってば」
 少年がとめるのもきかず、恵美は石を渡りはじめた。
 湿った石にはコケがはえていて、滑りやすい。だから恵美は、ゆっくりと、慎重に歩いた。
「ほら、だいじょうぶだって。おいでよ」
 川の半分ほど行ったあたりで、恵美は振り返った。
 そのとたん。
 ツルリと足が滑った。
「きゃあっ」
 恵美は川に落ちた。
 浅くなっているその場所なら、立てるはずだった。
 だけど、川の流れが速すぎて、足を踏ん張ることができずに、そのまま流されてしまう。
 あっという間に、足が届かないほど川は深くなってしまった。
 恵美は泳げる方だと思っていたけれど、激しい流速には無意味だった。
「恵美ちゃん!」
 少年は叫んで、川に飛び込んだ。
(苦しいよ、冷たいよ)
 鼻や口から川の水が入ってしまって、むせると余計に水を飲んでしまった。
 泳ぐ気力がなくなっていた恵美の腕を、少年は掴んだ。
「恵美ちゃん、しっかりして」
「こわい、たすけて!」
 恵美は少年にしがみついた。
「待って恵美っちゃん、そんなにされたら……」
 しがみつかれた少年は、思うように泳げなくなってしまった。
 二人はなすすべもないまま、川に流されていった――。

 * * *

 恵美ちゃんの記憶を思い出して、わたしはうつむいた。
 流れてきたあの記憶から考えると、あのまま二人は川に流されて、死んでしまったんだろうな。
 大好きなお友達が、自分のせいで命を落としてしまった。
 そりゃあ合わせる顔がないし、なんと言っていいかわからないよね。
 恵美ちゃんは、そんな気持ちでいっぱいなんだろうな。
 道沿いに川が流れ始めた。水が岩に当たるゴオオオッと大きな音がする。
 それに、セミの鳴き声もすごい。こういうのを、セミしぐれっていうのかな。
 ここまでくると、森の木々から清涼な風が吹いてきて気持ちがいい。
《ここ……》
 恵美ちゃんが川を指さした。
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