11 / 31
3 洞くつ探検
2
しおりを挟む
恵美ちゃんを抱き上げると、わたしの首にしがみついてきた。
あの男の子と会うのが怖いんだよね。
わたしは公園で見た、恵美ちゃんの記憶を思い出していた。
* * *
おさげ髪の少女が、同い年くらいの少年と、川辺で遊んでいる。
「ねえ、もっと奥に行ってみようよ」
おさげ髪の恵美が誘った。
「行ったことない場所は危ないよ」
「だからいいんじゃない、冒険だよ。もう、弱虫なんだから」
「弱虫じゃないよ!」
少年はムッとして、恵美より先に歩き出した。
夏ならば川遊びに来る家族もいたかもしれないが、山の中腹辺りにある冬の川には、誰もいなかった。
「あ、あっちに洞くつみたいな穴があるよ。向こう岸に行ってみようよ」
恵美が指さす先の斜面には、大人でも入れそうな大きな穴が、ポッカリとあいていた。
「川を渡るのは、さすがにやめておこうよ」
少年は乗り気ではないようだ。
川の幅は六メートルほどあり、それなりに川の流れも速い。
「ここ、川が浅くなってる。それに、向こうまで大きな石が置かれてるよ。誰かが渡れるようにしたんだね」
「やめなよ、危ないってば」
少年がとめるのもきかず、恵美は石を渡りはじめた。
湿った石にはコケがはえていて、滑りやすい。だから恵美は、ゆっくりと、慎重に歩いた。
「ほら、だいじょうぶだって。おいでよ」
川の半分ほど行ったあたりで、恵美は振り返った。
そのとたん。
ツルリと足が滑った。
「きゃあっ」
恵美は川に落ちた。
浅くなっているその場所なら、立てるはずだった。
だけど、川の流れが速すぎて、足を踏ん張ることができずに、そのまま流されてしまう。
あっという間に、足が届かないほど川は深くなってしまった。
恵美は泳げる方だと思っていたけれど、激しい流速には無意味だった。
「恵美ちゃん!」
少年は叫んで、川に飛び込んだ。
(苦しいよ、冷たいよ)
鼻や口から川の水が入ってしまって、むせると余計に水を飲んでしまった。
泳ぐ気力がなくなっていた恵美の腕を、少年は掴んだ。
「恵美ちゃん、しっかりして」
「こわい、たすけて!」
恵美は少年にしがみついた。
「待って恵美っちゃん、そんなにされたら……」
しがみつかれた少年は、思うように泳げなくなってしまった。
二人はなすすべもないまま、川に流されていった――。
* * *
恵美ちゃんの記憶を思い出して、わたしはうつむいた。
流れてきたあの記憶から考えると、あのまま二人は川に流されて、死んでしまったんだろうな。
大好きなお友達が、自分のせいで命を落としてしまった。
そりゃあ合わせる顔がないし、なんと言っていいかわからないよね。
恵美ちゃんは、そんな気持ちでいっぱいなんだろうな。
道沿いに川が流れ始めた。水が岩に当たるゴオオオッと大きな音がする。
それに、セミの鳴き声もすごい。こういうのを、セミしぐれっていうのかな。
ここまでくると、森の木々から清涼な風が吹いてきて気持ちがいい。
《ここ……》
恵美ちゃんが川を指さした。
あの男の子と会うのが怖いんだよね。
わたしは公園で見た、恵美ちゃんの記憶を思い出していた。
* * *
おさげ髪の少女が、同い年くらいの少年と、川辺で遊んでいる。
「ねえ、もっと奥に行ってみようよ」
おさげ髪の恵美が誘った。
「行ったことない場所は危ないよ」
「だからいいんじゃない、冒険だよ。もう、弱虫なんだから」
「弱虫じゃないよ!」
少年はムッとして、恵美より先に歩き出した。
夏ならば川遊びに来る家族もいたかもしれないが、山の中腹辺りにある冬の川には、誰もいなかった。
「あ、あっちに洞くつみたいな穴があるよ。向こう岸に行ってみようよ」
恵美が指さす先の斜面には、大人でも入れそうな大きな穴が、ポッカリとあいていた。
「川を渡るのは、さすがにやめておこうよ」
少年は乗り気ではないようだ。
川の幅は六メートルほどあり、それなりに川の流れも速い。
「ここ、川が浅くなってる。それに、向こうまで大きな石が置かれてるよ。誰かが渡れるようにしたんだね」
「やめなよ、危ないってば」
少年がとめるのもきかず、恵美は石を渡りはじめた。
湿った石にはコケがはえていて、滑りやすい。だから恵美は、ゆっくりと、慎重に歩いた。
「ほら、だいじょうぶだって。おいでよ」
川の半分ほど行ったあたりで、恵美は振り返った。
そのとたん。
ツルリと足が滑った。
「きゃあっ」
恵美は川に落ちた。
浅くなっているその場所なら、立てるはずだった。
だけど、川の流れが速すぎて、足を踏ん張ることができずに、そのまま流されてしまう。
あっという間に、足が届かないほど川は深くなってしまった。
恵美は泳げる方だと思っていたけれど、激しい流速には無意味だった。
「恵美ちゃん!」
少年は叫んで、川に飛び込んだ。
(苦しいよ、冷たいよ)
鼻や口から川の水が入ってしまって、むせると余計に水を飲んでしまった。
泳ぐ気力がなくなっていた恵美の腕を、少年は掴んだ。
「恵美ちゃん、しっかりして」
「こわい、たすけて!」
恵美は少年にしがみついた。
「待って恵美っちゃん、そんなにされたら……」
しがみつかれた少年は、思うように泳げなくなってしまった。
二人はなすすべもないまま、川に流されていった――。
* * *
恵美ちゃんの記憶を思い出して、わたしはうつむいた。
流れてきたあの記憶から考えると、あのまま二人は川に流されて、死んでしまったんだろうな。
大好きなお友達が、自分のせいで命を落としてしまった。
そりゃあ合わせる顔がないし、なんと言っていいかわからないよね。
恵美ちゃんは、そんな気持ちでいっぱいなんだろうな。
道沿いに川が流れ始めた。水が岩に当たるゴオオオッと大きな音がする。
それに、セミの鳴き声もすごい。こういうのを、セミしぐれっていうのかな。
ここまでくると、森の木々から清涼な風が吹いてきて気持ちがいい。
《ここ……》
恵美ちゃんが川を指さした。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】アシュリンと魔法の絵本
秋月一花
児童書・童話
田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。
地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。
中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP
じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】
悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。
「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。
いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――
クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。
子猫マムと雲の都
杉 孝子
児童書・童話
マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。
マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。
ハッピーエンドをとりもどせ!
cheeery
児童書・童話
本が大好きな小学5年生の加奈は、図書室でいつも学校に来ていない不良の陽太と出会う。
陽太に「どっか行け」と言われ、そそくさと本を手にとり去ろうとするが、その本を落としてしまうとビックリ!大好きなシンデレラがハッピーエンドじゃない!?
王子様と幸せに暮らすのが意地悪なお姉様たちなんてありえない!
そう思っていると、本が光り出し、陽太が手に持っていたネコが廊下をすり抜ける。
興味本位で近づいてみた瞬間、ふたりは『シンデレラ』の世界に入りこんでしまった……!
「シンデレラのハッピーエンドをとりもどさない限り、元来た場所には帰れない!?」
ふたりは無事、シンデレラのハッピーエンドをとりもどし元の世界に戻れるのか!?
オオカミ少女と呼ばないで
柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。
空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように――
表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。
ヴァンパイアハーフにまもられて
クナリ
児童書・童話
中学二年の凛は、文芸部に所属している。
ある日、夜道を歩いていた凛は、この世ならぬ領域に踏み込んでしまい、化け物に襲われてしまう。
そこを助けてくれたのは、ツクヨミと名乗る少年だった。
ツクヨミに従うカラス、ツクヨミの「妹」だという幽霊、そして凛たちに危害を加えようとする敵の怪異たち。
ある日突然少女が非日常の世界に入り込んだ、ホラーファンタジーです。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
氷鬼司のあやかし退治
桜桃-サクランボ-
児童書・童話
日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。
氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。
これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。
二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。
それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。
そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。
狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。
過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。
一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる