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2 おさげの女の子と虹色のオーラ
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《さすがに遅刻じゃないか?》
コンゴウが心配そうにわたしを見つめる。
「まだ平気だよ。ほら、登校している人、けっこういるよ」
そう言いつつも、早歩きで学校に向かった。いままでずっと無遅刻・無欠席だったのに、遅れたら困るもんね。
教室に入ると、朝の会の五分前だった。
「よかった、セーフ。……わあ、涼しい」
教室は冷房が効いていた。汗で前髪が張り付いちゃってるおでこを、ハンカチでぬぐった。
「おはよう、スズ香」
窓際の真ん中あたりにあるわたしの席に向かっていると、桜井麗子ちゃんが声をかけてきた。
麗子ちゃんはオシャレが大好きで、いつも色付きのリップをつけている美人さん。
胸まである栗色の巻き髪は、いつも高い位置でポニーテールにしていて、そのせいで皮膚が引っ張られているのか、目じりは少し上がり気味なんだ。
「おはよう、麗子ちゃん」
わたしは警戒しながら返事をした。麗子ちゃんはちょっといじわるな表情をしている。こういうときは、からかわれることが多い。……というよりも、そういうときしか麗子ちゃんは話しかけてこない。
「今日はまた一人で、変な儀式をしていたそうじゃない」
あわわ、公園でのお祓いを見られちゃってたみたい。
「本当に幽霊がいるなら、クレオパトラを呼んでよ。世界一の美女に、美のヒケツを聞きたいなあ」
「だから、それはイタコだってば」
死者を呼び寄せる「降霊術」というものがあるのだけど、わたしはそれができない。前にも説明したのに、麗子ちゃんは覚える気がないみたい。
だいたい、死んだ人を呼べるなら、わたしにだって会いたい人がいるよ。
「ほら、やっぱりできないじゃない。幽霊が見えるっていうのもウソなんでしょ」
麗子ちゃんがそう言うと、
「ウソつきは泥棒の始まりなんだからね」
「そうそう、ウソつきスズ香」
と、いつも麗子ちゃんと一緒にいる二人が便乗してきた。
《スズ香、こんなのは相手にするな》
わたしの肩にのっているコンゴウは、耳とシッポを立てていらだっている。
「ありがと、だいじょうぶだよ」
小声で言いながら、コンゴウの気を静めようと頭を指先でなでる。
「あっ、ほら、スズ香のなにか見えてますアピールでた!」
麗子ちゃんはわたしを小バカにするように笑った。
「そんなつもりじゃないんだけど……」
困ったな。こうなると麗子ちゃんのいじわるは、とまらないんだよね。でも、もうすぐ朝の会だから、あとちょっとのがまんだ。
「ぼくは、スズ香ちゃんは霊が見えてるって信じてるよ」
同級生の男の子たちとはかなり違う、低い声が後ろからした。
振り向くと、とても優しい笑顔があった。
「悠一郎くん」
勅使河原(てしがわら)悠一郎くん。
習字の時間に書くのが大変そうな名前の彼は、誰も異論を唱えられないパーフェクトなイケメンなの!
軽いウェーブのかかった紅茶色の髪で、同じ色のアーモンド形の二重の瞳。鼻が高くて、頬もシュッとしている。
身長は百六十五センチもあって、学年で一番、背が高い。悠一郎くんのことを知らない人は、高校生だよと紹介されても信じると思う。
芸能事務所にスカウトされたことがあると噂が流れたこともあって、本当にアイドルみたいにカッコいいんだ。
それに加えて、スポーツも勉強もできて、お父さんは会社をいくつも持っている社長さんだから、とてもお金持ち。性格もとてもいい。
ホントにパーフェクト!
でも、わたしは悠一郎くんに一つだけ欠点があると思っている。
悠一郎くんは、ランドセルが似合わない。
「悠一郎、おはよう~」
麗子ちゃんは目をハートにして、悠一郎くんの腕に飛びついた。麗子ちゃんは悠一郎くんが大好きなんだ。
「おはよう、悠一郎くん。いつもありがとう」
わたしも悠一郎くんにあいさつをした。
悠一郎くんは、よくわたしに話しかけてくれる。わたしは一人でいることが多いから、心配してくれているんだと思う。その思いやりが嬉しい。
麗子ちゃんとは意味が違うけど、わたしも悠一郎くんがとても好き。
「どうしたの? ぼくに幽霊でもついてる?」
わたしがずっと見つめていたから、悠一郎くんは勘違いをしてしまったみたい。
「悠一郎くんには幽霊はつかないよ」
「どうして、そう言い切れるの?」
「悠一郎くんは、すっごいオーラをまとってるからだよ。虹色に輝いてる。幽霊が逃げちゃうくらい強い光だよ。きっと、ご先祖さまに守られているんだね」
守護霊の力なのかな。こんなに輝いている人は、悠一郎くん以外に見たことがない。
「でたでた、スズ香の“不思議な力を持ってます”ってパフォーマンス。それで悠一郎の気を引こうってコンタンでしょ。ウソつきなうえに、あざとい!」
麗子ちゃんは悠一郎くんの腕を抱きしめたまま、わたしにイーッと歯をむき出した。
あまりの言われように、ムッとする。
悠一郎くんがわたしと話しているのが気に食わないから、いじわるを言っているのはわかるんだけど。でも、そこまで言われたら、わたしだって黙ってないんだからね。
コンゴウが心配そうにわたしを見つめる。
「まだ平気だよ。ほら、登校している人、けっこういるよ」
そう言いつつも、早歩きで学校に向かった。いままでずっと無遅刻・無欠席だったのに、遅れたら困るもんね。
教室に入ると、朝の会の五分前だった。
「よかった、セーフ。……わあ、涼しい」
教室は冷房が効いていた。汗で前髪が張り付いちゃってるおでこを、ハンカチでぬぐった。
「おはよう、スズ香」
窓際の真ん中あたりにあるわたしの席に向かっていると、桜井麗子ちゃんが声をかけてきた。
麗子ちゃんはオシャレが大好きで、いつも色付きのリップをつけている美人さん。
胸まである栗色の巻き髪は、いつも高い位置でポニーテールにしていて、そのせいで皮膚が引っ張られているのか、目じりは少し上がり気味なんだ。
「おはよう、麗子ちゃん」
わたしは警戒しながら返事をした。麗子ちゃんはちょっといじわるな表情をしている。こういうときは、からかわれることが多い。……というよりも、そういうときしか麗子ちゃんは話しかけてこない。
「今日はまた一人で、変な儀式をしていたそうじゃない」
あわわ、公園でのお祓いを見られちゃってたみたい。
「本当に幽霊がいるなら、クレオパトラを呼んでよ。世界一の美女に、美のヒケツを聞きたいなあ」
「だから、それはイタコだってば」
死者を呼び寄せる「降霊術」というものがあるのだけど、わたしはそれができない。前にも説明したのに、麗子ちゃんは覚える気がないみたい。
だいたい、死んだ人を呼べるなら、わたしにだって会いたい人がいるよ。
「ほら、やっぱりできないじゃない。幽霊が見えるっていうのもウソなんでしょ」
麗子ちゃんがそう言うと、
「ウソつきは泥棒の始まりなんだからね」
「そうそう、ウソつきスズ香」
と、いつも麗子ちゃんと一緒にいる二人が便乗してきた。
《スズ香、こんなのは相手にするな》
わたしの肩にのっているコンゴウは、耳とシッポを立てていらだっている。
「ありがと、だいじょうぶだよ」
小声で言いながら、コンゴウの気を静めようと頭を指先でなでる。
「あっ、ほら、スズ香のなにか見えてますアピールでた!」
麗子ちゃんはわたしを小バカにするように笑った。
「そんなつもりじゃないんだけど……」
困ったな。こうなると麗子ちゃんのいじわるは、とまらないんだよね。でも、もうすぐ朝の会だから、あとちょっとのがまんだ。
「ぼくは、スズ香ちゃんは霊が見えてるって信じてるよ」
同級生の男の子たちとはかなり違う、低い声が後ろからした。
振り向くと、とても優しい笑顔があった。
「悠一郎くん」
勅使河原(てしがわら)悠一郎くん。
習字の時間に書くのが大変そうな名前の彼は、誰も異論を唱えられないパーフェクトなイケメンなの!
軽いウェーブのかかった紅茶色の髪で、同じ色のアーモンド形の二重の瞳。鼻が高くて、頬もシュッとしている。
身長は百六十五センチもあって、学年で一番、背が高い。悠一郎くんのことを知らない人は、高校生だよと紹介されても信じると思う。
芸能事務所にスカウトされたことがあると噂が流れたこともあって、本当にアイドルみたいにカッコいいんだ。
それに加えて、スポーツも勉強もできて、お父さんは会社をいくつも持っている社長さんだから、とてもお金持ち。性格もとてもいい。
ホントにパーフェクト!
でも、わたしは悠一郎くんに一つだけ欠点があると思っている。
悠一郎くんは、ランドセルが似合わない。
「悠一郎、おはよう~」
麗子ちゃんは目をハートにして、悠一郎くんの腕に飛びついた。麗子ちゃんは悠一郎くんが大好きなんだ。
「おはよう、悠一郎くん。いつもありがとう」
わたしも悠一郎くんにあいさつをした。
悠一郎くんは、よくわたしに話しかけてくれる。わたしは一人でいることが多いから、心配してくれているんだと思う。その思いやりが嬉しい。
麗子ちゃんとは意味が違うけど、わたしも悠一郎くんがとても好き。
「どうしたの? ぼくに幽霊でもついてる?」
わたしがずっと見つめていたから、悠一郎くんは勘違いをしてしまったみたい。
「悠一郎くんには幽霊はつかないよ」
「どうして、そう言い切れるの?」
「悠一郎くんは、すっごいオーラをまとってるからだよ。虹色に輝いてる。幽霊が逃げちゃうくらい強い光だよ。きっと、ご先祖さまに守られているんだね」
守護霊の力なのかな。こんなに輝いている人は、悠一郎くん以外に見たことがない。
「でたでた、スズ香の“不思議な力を持ってます”ってパフォーマンス。それで悠一郎の気を引こうってコンタンでしょ。ウソつきなうえに、あざとい!」
麗子ちゃんは悠一郎くんの腕を抱きしめたまま、わたしにイーッと歯をむき出した。
あまりの言われように、ムッとする。
悠一郎くんがわたしと話しているのが気に食わないから、いじわるを言っているのはわかるんだけど。でも、そこまで言われたら、わたしだって黙ってないんだからね。
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