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2 おさげの女の子と虹色のオーラ

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「キシャーーーーッ」
 赤ちゃんのような甲高い声が聞こえて足をとめると、公園の奥で、ネコがなにかを威嚇しているようだった。
「なんだろう?」
《野良ネコの縄張り争いだろ。気にするなスズ香、遅刻するぞ》
 肩にのっているコンゴウがあくびをしながら言った。学校に行くときは、コンゴウかシロガネのどちらかがついて来てくれる。
「まだ時間に余裕があるからだいじょうぶだよ。ネコさんは怒ってるだけじゃなくて、脅えてもいるみたい」
 わたしは生きているネコとは話せないけど、なんとなく気持ちがわかる。
「よし、行ってみるよ」
 通勤、通学で人通りの多い住宅街の道から外れて、誰もいない広い公園に入った。奥にある鉄棒の隅にいるミケネコは、毛と耳を立てて、シッポを膨らませている。
 ネコの視線の先には、黒いおさげ髪の、五歳くらいの女の子の幽霊がいた。うずくまって顔を伏せているから、表情は見えない。
「この子、黒い霧みたいなのに包まれてるね」
《悪霊になりかけているようだな》
 人は亡くなると、自然と行くべき場所に導かれる。たぶん、天国とか地獄とか、そういうところなんだろうね。
 でも、あまりにも未練が強いと、この世にタマシイがとどまってしまう。その期間が長いと、だんだん悪い霊になってしまうの。
「ネコさん、バトンタッチしよう。わたしがこの子を移動させるから」
 そう言ってわたしは、ひざ下のスカートが地面につかないように、注意しながらしゃがんだ。
「はじめまして、わたしは冬月スズ香。あなたはなんていう名前なの? どうしてここにいるの?」
 笑顔で話しかけたけど、女の子は顔を上げなかった。
《スズ香の声は、届いていないようだぞ》
「やっぱり、この黒い霧を消さなきゃだめだね」
 昨日みたいに弱い霊なら素手でもお祓いができるのだけど、この霧は、ちょっと手ごわそう。
 でも、だいじょうぶ!
 こういうときのために、わたしにはとっておきのアイテムを持ち歩いているの。
 ランドセルをおろして、横側に吊り下げている巾着に入っているものを取り出した。
「じゃーん、コンパクト大麻(おおぬさ)!」
 わたしは、割りばしの先に白く長い紙がいくつもくっついたような道具を取り出した。掃除に使うハタキに似たカタチなんだ。
 この長い紙は紙(し)垂(で)といって、カミナリみたいにギザギザになるよう、特殊な折り方をするんだ。サカキという木でできた棒の部分は、折りたたみ傘みたいに三倍に伸びるように工夫したの。
 オオヌサはお祓いに使う道具で、本当は大人の身長くらい大きかったりもするんだ。それを持ち運べるように、自分で小さいものを作ったの。すごいでしょ。
 わたしはいつも髪をハーフアップにしているけど、ヘアゴムの代わりに使っているのは、この白い紙垂なんだ。気が引き締まって、力が湧いてくる感じがするからね。
「これで、わたしのお祓いの力がパワーアップするよ」
《力をこめすぎて、この娘ごと消し去らないようにな》
「もう、そんなことしないよっ」
 わたしはコンパクトオオヌサを両手で持って、気持ちを集中させる。
「祓えため、清めたまえ。この子から悪いものが消えますようにっ!」
 オオヌサを左右に振りながら、わたしは唱えた。
 するとオオヌサが輝きだして、女の子を包んでいた黒い霧がぱあっと晴れた。
「やったね!」
《成功したな》
 その途端、わたしの頭に映像が流れ込んできた。
「あっ、また……」
 お祓いをすると、ときどき、こういうことがあるの。
 その霊の思いや記憶が、伝わってくることが……。

 *

「そんなことが……」
 頭の中で、女の子の記憶が流れ終わった。
 女の子の悲しい事故の記憶に、わたしは言葉が出なかった。
 わたしはコンパクトオオヌサを巾着にしまってから、女の子の肩に手をのせた。
「わたしの声が聞こえる?」
 女の子は顔を上げて、コクリとうなずいた。
 うわあ、かわいい!
 映像で見たのと同じ、くりっとした大きな瞳で、女の子はわたしを見上げてくる。
「わたしはスズ香。あなたの名前は、恵美ちゃんだよね」
《うん》
 女の子は、またうなずく。
「あなたのやり残していることってなに? 解決しないと、またさっきみたいになっちゃうよ」
 そう尋ねると、恵美ちゃんの大きな瞳から涙が溢れてきた。
《謝りたい。でも、会いに行けないの。絶対にあたしのこと、許してくれないから……。あたしがわがままだったから……》
 きっと、あの男の子に謝りたいんだね。
「その人がどこにいるのか、わかる?」
《たぶん……。でも、行きたくない》
 恵美ちゃんは手の甲で涙をぬぐうけれど、すぐにまた頬がぬれてしまう。
「よし」
 わたしは恵美ちゃんの小さな頭に手をのせた。
「お姉ちゃんが一緒に行ってあげる」
《行くのが怖い。あたしはひどいことをしちゃったから、許してくれないよ》
「だいじょうぶ、恵美ちゃんがこんなに悩むほど後悔しているんだから、きっと許してくれるよ。学校が終わったら公園に来るから、ここで待っててくれる? それから、一緒に行こう」
「うん」
 恵美ちゃんに、少しだけ笑顔が戻った。
「じゃあ、またあとでね!」
 わたしは恵美ちゃんに手を振って公園を出た。
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