70 / 74
終章 クリスマス
終章 2
しおりを挟む
貴之は厚みのある便箋を、封筒が破けないようにしまうと、手紙をセンターコンソールボックスに入れてエンジンを切り、ドアを開けた。
「行くぞ」
空は今にも雨が降りそうな灰色の雲に覆われており、コートを着ていてもさすがに空風は冷たい。たまらず後部座席に置いていたマフラーを取り出して首に巻いた。
二人は都内の霊園に来ていた。小高い位置にあり、自然豊かで景観がいい。
整理された区画をしばらく歩き、目的地に着いた。
墓石には「新田家之墓」と書かれている。既に墓には新鮮な花が供えられていた。
「きっと伯父夫婦です。わたしは法要があるときしか来ませんでしたから。未だに両親のお墓を見るのがつらくて……。冷たい娘ですよね」
「俺も同じようなもんだ。まめに墓参りをしていたら親孝行ということにもならないだろう。墓掃除を省略させてもらえたな」
美優は用意していた花と水を追加で供えた。蠟燭を立てて、お酒や和菓子、そして貴之が書いた手紙を一番目立つ中央に置く。
「貴之さん、ありがとうございます」
顔を向けると、美優が照れくさそうに貴之を見上げていた。
「この手紙です。わたしのために、便せんや万年筆を新調してくれたんじゃないですか?」
「……まあな」
美優の表情につられて、貴之も少し照れる。
さすがにシールという発想はなかったが、美優がいつも着ていたコートと同じ、薄桃色のレターセットを購入した。花とレースがあしらわれた可愛らしいものだ。柄物のレターセットを使うのは初めてだった。
文字も美優の好みに合わせて、チェリーピンクで書いている。
相手が喜ぶ顔を思い浮かべながら文具を選ぶのは新鮮で、かつ、どこか胸が躍った。本来の手紙というのは、こうあるべきなのだろう。
これからは便箋に合わせて、文字の色を変えるのもおもしろいかと考えて、貴之はガラスペンと何種類かのインクを買った。ずっと父の形見の万年筆を使っていたので、こちらも新しい試みだ。
ただし、道具に踏み込みすぎてはいけないと、既に頭の片隅で警戒警報が鳴っている。凝り性だと自覚している貴之は、あまり熱心にガラスペンや便箋について調べると、収集してしまう予感がした。
「出会った頃は一種類の便箋だけだったのに、成長しましたね、貴之さん」
偉そうに、おまえは何様なのだ。
むにっと頬を引っ張ってやったのに、美優は嬉しそうに、頬にある貴之の手に手を重ねた。
「貴之さんが、とても丁寧に手紙を書いてくれたんだって、すごく伝わってきました。この手紙にはわたし以上に、わたしの気持ちが込められている気がします。手紙に触れていると、その熱が伝わってくるようでした。貴之さんは、やっぱりすごいです」
そこまで言われたら、交換代筆を提案した甲斐があるというものだ。
「行くぞ」
空は今にも雨が降りそうな灰色の雲に覆われており、コートを着ていてもさすがに空風は冷たい。たまらず後部座席に置いていたマフラーを取り出して首に巻いた。
二人は都内の霊園に来ていた。小高い位置にあり、自然豊かで景観がいい。
整理された区画をしばらく歩き、目的地に着いた。
墓石には「新田家之墓」と書かれている。既に墓には新鮮な花が供えられていた。
「きっと伯父夫婦です。わたしは法要があるときしか来ませんでしたから。未だに両親のお墓を見るのがつらくて……。冷たい娘ですよね」
「俺も同じようなもんだ。まめに墓参りをしていたら親孝行ということにもならないだろう。墓掃除を省略させてもらえたな」
美優は用意していた花と水を追加で供えた。蠟燭を立てて、お酒や和菓子、そして貴之が書いた手紙を一番目立つ中央に置く。
「貴之さん、ありがとうございます」
顔を向けると、美優が照れくさそうに貴之を見上げていた。
「この手紙です。わたしのために、便せんや万年筆を新調してくれたんじゃないですか?」
「……まあな」
美優の表情につられて、貴之も少し照れる。
さすがにシールという発想はなかったが、美優がいつも着ていたコートと同じ、薄桃色のレターセットを購入した。花とレースがあしらわれた可愛らしいものだ。柄物のレターセットを使うのは初めてだった。
文字も美優の好みに合わせて、チェリーピンクで書いている。
相手が喜ぶ顔を思い浮かべながら文具を選ぶのは新鮮で、かつ、どこか胸が躍った。本来の手紙というのは、こうあるべきなのだろう。
これからは便箋に合わせて、文字の色を変えるのもおもしろいかと考えて、貴之はガラスペンと何種類かのインクを買った。ずっと父の形見の万年筆を使っていたので、こちらも新しい試みだ。
ただし、道具に踏み込みすぎてはいけないと、既に頭の片隅で警戒警報が鳴っている。凝り性だと自覚している貴之は、あまり熱心にガラスペンや便箋について調べると、収集してしまう予感がした。
「出会った頃は一種類の便箋だけだったのに、成長しましたね、貴之さん」
偉そうに、おまえは何様なのだ。
むにっと頬を引っ張ってやったのに、美優は嬉しそうに、頬にある貴之の手に手を重ねた。
「貴之さんが、とても丁寧に手紙を書いてくれたんだって、すごく伝わってきました。この手紙にはわたし以上に、わたしの気持ちが込められている気がします。手紙に触れていると、その熱が伝わってくるようでした。貴之さんは、やっぱりすごいです」
そこまで言われたら、交換代筆を提案した甲斐があるというものだ。
10
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~
Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。
おいしいご飯がたくさん出てきます。
いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。
助けられたり、恋をしたり。
愛とやさしさののあふれるお話です。
なろうにも投降中
「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨
悠里
ライト文芸
高校生になる前の春休み。自分の16歳の誕生日に、幼馴染の悠斗に告白しようと決めていた心春。
会う約束の前に、悠斗が事故で亡くなって、叶わなかった告白。
(霊など、ファンタジー要素を含みます)
安達 心春 悠斗の事が出会った時から好き
相沢 悠斗 心春の幼馴染
上宮 伊織 神社の息子
テーマは、「切ない別れ」からの「未来」です。
最後までお読み頂けたら、嬉しいです(*'ω'*)
つれづれなるおやつ
蒼真まこ
ライト文芸
食べると少しだけ元気になる、日常のおやつはありますか?
おやつに癒やされたり、励まされたりする人々の時に切なく、時にほっこりする。そんなおやつの短編集です。
おやつをお供に気楽に楽しんでいただければ嬉しいです。
短編集としてゆるく更新していきたいと思っています。
ヒューマンドラマ系が多くなります。ファンタジー要素は出さない予定です。
各短編の紹介
「だましあいコンビニスイーツ」
甘いものが大好きな春香は日々の疲れをコンビニのスイーツで癒していた。ところがお気に入りのコンビニで会社の上司にそっくりなおじさんと出会って……。スイーツがもたらす不思議な縁の物語。
「兄とソフトクリーム」
泣きじゃくる幼い私をなぐさめるため、お兄ちゃんは私にソフトクリームを食べさせてくれた。ところがその兄と別れることになってしまい……。兄と妹を繋ぐ、甘くて切ない物語。
「甘辛みたらしだんご」
俺が好きなみたらしだんご、彼女の大好物のみたらしだんごとなんか違うぞ?
ご当地グルメを絡めた恋人たちの物語。
※この物語に登場する店名や商品名等は架空のものであり、実在のものとは関係ございません。
※表紙はフリー画像を使わせていただきました。
※エブリスタにも掲載しております。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
アタエバネ ~恵力学園一年五組の異能者達~
弧川ふき
ファンタジー
優秀な者が多い「恵力学園」に入学するため猛勉強した「形快晴己(かたがいはるき)」の手首の外側に、突如として、数字のように見える字が刻まれた羽根のマークが現れた。
それを隠して過ごす中、学内掲示板に『一年五組の全員は、4月27日の放課後、化学室へ』という張り紙を発見。
そこに行くと、五組の全員と、その担任の姿が。
「あなた達は天の使いによってたまたま選ばれた。強引だとは思うが協力してほしい」
そして差し出されたのは、一枚の紙。その名も、『を』の紙。
彼らの生活は一変する。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・出来事などとは、一切関係ありません。
【完結】空飛ぶハンカチ!!-転生したらモモンガだった。赤い中折れ帽を被り、飛膜を広げ異世界を滑空する!-
ジェルミ
ファンタジー
俺はどうやら間違いで死んだらしい。
女神の謝罪を受け異世界へ転生した俺は、無双とスキル習得率UPと成長速度向上の能力を授かった。
そしてもう一度、新しい人生を歩むはずだったのに…。
まさかモモンガなんて…。
まあ確かに人族に生まれたいとは言わなかったけど…。
普通、転生と言えば人族だと思うでしょう?
でも女神が授けたスキルは最強だった。
リスサイズのモモンガは、赤で統一された中折れ帽とマント。
帽子の横には白い羽を付け、黒いブーツを履き腰にはレイピア。
神獣モモンガが異世界を駆け巡る。
物語はまったり、のんびりと進みます。
※カクヨム様にも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる