【完結】恋文が苦手な代筆屋のウラ事情~心を汲み取る手紙~

じゅん

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終章 クリスマス

終章 2

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 貴之は厚みのある便箋を、封筒が破けないようにしまうと、手紙をセンターコンソールボックスに入れてエンジンを切り、ドアを開けた。

「行くぞ」

 空は今にも雨が降りそうな灰色の雲に覆われており、コートを着ていてもさすがに空風は冷たい。たまらず後部座席に置いていたマフラーを取り出して首に巻いた。

 二人は都内の霊園に来ていた。小高い位置にあり、自然豊かで景観がいい。
 整理された区画をしばらく歩き、目的地に着いた。
 墓石には「新田家之墓」と書かれている。既に墓には新鮮な花が供えられていた。

「きっと伯父夫婦です。わたしは法要があるときしか来ませんでしたから。未だに両親のお墓を見るのがつらくて……。冷たい娘ですよね」
「俺も同じようなもんだ。まめに墓参りをしていたら親孝行ということにもならないだろう。墓掃除を省略させてもらえたな」

 美優は用意していた花と水を追加で供えた。蠟燭を立てて、お酒や和菓子、そして貴之が書いた手紙を一番目立つ中央に置く。

「貴之さん、ありがとうございます」
 顔を向けると、美優が照れくさそうに貴之を見上げていた。

「この手紙です。わたしのために、便せんや万年筆を新調してくれたんじゃないですか?」
「……まあな」

 美優の表情につられて、貴之も少し照れる。
 さすがにシールという発想はなかったが、美優がいつも着ていたコートと同じ、薄桃色のレターセットを購入した。花とレースがあしらわれた可愛らしいものだ。柄物のレターセットを使うのは初めてだった。
 文字も美優の好みに合わせて、チェリーピンクで書いている。

 相手が喜ぶ顔を思い浮かべながら文具を選ぶのは新鮮で、かつ、どこか胸が躍った。本来の手紙というのは、こうあるべきなのだろう。

 これからは便箋に合わせて、文字の色を変えるのもおもしろいかと考えて、貴之はガラスペンと何種類かのインクを買った。ずっと父の形見の万年筆を使っていたので、こちらも新しい試みだ。

 ただし、道具に踏み込みすぎてはいけないと、既に頭の片隅で警戒警報が鳴っている。凝り性だと自覚している貴之は、あまり熱心にガラスペンや便箋について調べると、収集してしまう予感がした。

「出会った頃は一種類の便箋だけだったのに、成長しましたね、貴之さん」

 偉そうに、おまえは何様なのだ。
 むにっと頬を引っ張ってやったのに、美優は嬉しそうに、頬にある貴之の手に手を重ねた。

「貴之さんが、とても丁寧に手紙を書いてくれたんだって、すごく伝わってきました。この手紙にはわたし以上に、わたしの気持ちが込められている気がします。手紙に触れていると、その熱が伝わってくるようでした。貴之さんは、やっぱりすごいです」

 そこまで言われたら、交換代筆を提案した甲斐があるというものだ。
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