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終章 クリスマス

終章 1

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(前略)
 こうしてぼくは、新田美優という素晴らしい女性と巡り合い、代筆屋という心を救う仕事に邁進しています。
 代筆屋は、天職だと自負しています。
 ぼくは二十七歳になりました。
 夢でいいから出てきてください。お父さんと一緒にお酒が飲みたいです。
 また、もっと字が上手くなりたいので、教えてください。

 追伸:
 お母さんの茶碗蒸しが食べたいです。
                    氷藤貴之

   * * * *

「……なんだ、この手紙は」
「すみません、あまり字は上手くなくて。でも、内容には自信があります!」
「その内容に問題があるんだよ」

 貴之はボリュームのある黒髪をかき上げながら、脱力して座席にもたれかかった。

 貴之と美優は約束どおり、交換代筆をして両親へ手紙を書いた。
 昨日は貴之に緊急の仕事が入ってしまったため、二人は草案を見せ合うことができず、両親の命日である今日、完成した手紙を持参した。

 そしてまさに今、貴之の車の中で、お互いに交換した手紙を読んでいた。
 美優の丸文字のような角のない字で綴られた、貴之の気持ちを代弁した手紙は、十枚という大作だった。

「長い」
「貴之さんのつもりになって書いたら、ご両親に伝えたいことがたくさんあったんです」

 相手の心境になって考えるのは悪いことではないのだが、多く書けばいいというものでもない。

「もっとコンパクトにまとめろよ。それに“新田美優という素晴らしい女性と巡り合い”ってなんだ」
「新田美優という素晴らしく聡明で可愛らしい運命の女性に巡り合い、にしようと思ったんですけど、ちょっと盛りすぎかなと思って」
 助手席に座る美優は、はにかんで頬を染めた。

「その情報、丸っといらないから」
「なぜですか! ご両親への超スーパー最重要必須情報ですよ!」
「必殺技みたいだな」

 まさか、美優にこんなに文才がないとは思わなかった。「お母さんの茶碗蒸しが食べたいです」って、小学生の作文か。

 先日、公園で両親について話している時に嫌な予感がしたのだが、見事に的中してしまった。観察眼や洞察力と文章力の間には、相関関係はないらしい。

「あと、手紙にシールを貼るな」
「キラキラしていて、可愛くないですか?」
「可愛くしなくていいんだよ」
「そう言う貴之さんが書いた手紙は、ちょっと硬いですよ。わたしが両親に宛てた手紙の想定なんですから、思い切りデコってよかったのに」
「……ああ、悪かった」

 これ以上美優と話していると脱力しすぎて、空気の抜けた風船のようにシワシワになりそうなので、話を切り上げることにする。

 貴之は厚みのある便箋を、封筒が破けないようにしまうと、手紙をセンターコンソールボックスに入れてエンジンを切り、ドアを開けた。

「行くぞ」
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