【完結】恋文が苦手な代筆屋のウラ事情~心を汲み取る手紙~

じゅん

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二章 大切なものほど秘められる

二章 6

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 それから数日後。
 日曜日の午後二時に依頼人と会う約束をしていた。その二十分前に、貴之の自宅兼事務所に美優がやってきた。

「こんにちは。おおっ、前に来た時より片付いてる。特にキッチン。お掃除してあげようと早めに来たのに」

 美優は来るなり、応接間を見回した。
 初回は予期せぬ襲来だったため、動線を片付けるのに精いっぱいだった。流しに溜まった皿などどうせ見えないだろうと思っていたが、抜け目なく美優はチェックしていたようだ。

 美優は先月と同じ薄桃色のコートを着ていた。十月に入り、季節が美優の服装に追いついた。
 コートを脱ぐと、フリルのついた立ち襟の白いブラウスに、足首近くまであるフレアスカートを合わせていた。

「どうですか、助手っぽくエレガントな格好にしたんですよ」
 美優はくるりと回った。フレアスカートがふわりと広がり、細い足が脛まで覗く。ハーフアップの黒髪も揺れた。

 助手のつもりで来たのか。

 大人っぽいコーディネートも、美優が着るとエレガントというよりガーリーだと思ったが、「よく似合っている」と無難な返事をした。

 実際、美優は可愛らしい。仕事柄、貴之は女優やモデルも見慣れているが、そこに美優が並んでもまったく遜色ないだろう。
 わざわざ口にするつもりはないが。

「もう、つまらない返事ですね。そんなんじゃ心を代弁する代筆屋さん失格ですよ。はい、お茶菓子を用意してきました。お客さんに出してくださいね。どうせ貴之さんは飲み物しか出していないんでしょ」

 美優に紙袋を手渡された。スイーツに興味のない貴之でも知っている、老舗の洋菓子店の袋だ。

「客に茶菓子まで出すものか?」
 貴之はよく取材先を訪問するが、茶菓子を出されることはそうそうない。仕事なのだから当然だ。

「じっくりお話を伺うんですから、あったほうがいいですよ。甘いものを食べると、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが分泌されますから、口も滑らかになるはずです」

 美優は医療従事者らしい発言をする。

「でも実は、食べすぎると逆効果なので、少量にするのがポイントです。太りますしね」
「だったら、ないほうが無難じゃねえか」

 貴之は美優のコートを預かって、貴之の肩ほどの高さにあるコート掛けにかけてやる。

「えっ、貴之さんが親切」
 美優は感動したように貴之を見上げた。

「いや、ハンガーに手が届かないかと思って」
「そこまで小さくないですよ!」

 そんなやりとりをしていると呼び鈴が鳴った。
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