【完結】恋文が苦手な代筆屋のウラ事情~心を汲み取る手紙~

じゅん

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二章 大切なものほど秘められる

二章 3

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 貴之は何日か考えて、次のような手紙を編集者に渡した。

   * * * *

 お父さん お母さん

 あれから六年が経ち、ぼくは大学一年生になりました。
 二人が他界して一人取り残されたぼくは、世界が終わったような気がしていました。

 しばらくは外に出られず、部屋にこもり、世界一の不幸を背負ったように思えました。
 なにも考えることができず、時が止まったようでした。

 引き取ってくれた叔父さん夫婦はよくしてくれましたが、ぼくはほとんど口も開きませんでした。

 見かねた叔父さんに、
「そんな姿を両親が見たらどんなに悲しむか。親が死んだ意味を考えろ」
 そう言われました。

「意味なんてあるものか、ただ事故に巻き込まれただけだ」
 そう返事をすると、叔父さんはこう言って立ち去りました。

「意味は残された者が決めるんだ。おまえがそう思っているなら、兄たちは無駄死にだ」

 厳しい言葉です。

 だけど、そのアイスピックのように鋭い言葉が、ぼくにまとわりついていた氷を砕いてくれました。
 やっと、頭が働くようになりました。

 それからずっと考えていますが、ぼくはまだ、お父さんたちの死に、意味を見つけ出せていません。
 ただ、わかっていることは、ぼくの行動に答えがあるということです。

 答えを探しながら、強く生きていきます。
 どうか見守っていてください。

   * * * *

「うわっ、こんな書き方してたっけ。青いなあ」

 寄稿したメッセージは、半ページを使って大きく掲載されている。貴之は苦笑いを浮かべながら雑誌を閉じた。

 あのころの貴之は、死に意味はあるのかと、ずっと考えていた。
 途中で考えるのを放棄してしまったが。

 ともあれ、この件をきっかけに、貴之はOBの勤める出版社に就職した。希望通り雑誌の編集部に配属されたのだが、仕事をしてみると自分は編集作業をしたかったのではないと気付いた。

 編集者は自ら取材をすることもあるが、文字通り編集をするのが仕事だ。企画を考え、コンテを切り、ライターやデザイナーを発注して、構成全体を監督する。プロデューサーに近い。

 OBが自分にしたように、もしくは、高校時代に自分が友人にしたように、心を開くようなインタビューがしたい。

 そう考えた貴之は二年で退職し、フリーライターになった。
 円満退社だったので、今でも所属していた編集部が一番のお得意先だ。

「さて、次の取材までに、もう少し時間があるんだよな」

 切りがいいところまで掃除が終わった。
 とはいえ、雑誌の整理をするには時間が足りない。
 自然とローテーブルの上にあるスマートフォンに目がいった。

「あいつに連絡してやるか……」

 あいつとは、新田美優のことだ。

 二人で名古屋に行ってから一か月、貴之は一度も美優に連絡をしていなかった。
 そして美優からも、一度も連絡がなかった。
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