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一章 キライをスキになる方法
一章 14
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「指が、唇に触れました……」
「なにか言ったか?」
「いいえ! これ美味しいですね。もう一つください」
「全部やる」
小ぶりなチョコレートが二つ入っている皿ごと美優に押しやった。
美優はなぜか残念そうな表情になったが、気を取り直したように身体ごと貴之に向けた。
「お仕事も終わったことですし、次は名古屋城に行きましょう!」
美優は拳を握って、さも決定事項のように元気に貴之を誘った。貴之は美優を見たまま絶句する。
そんな貴之を尻目に、美優は身を乗り出した。
「萌々香さん、お城まで歩けます?」
「歩けなくはないけど……、三十分はかかりますよ。電車なら十五分くらいです。案内しましょうか?」
「いいんですか? 地元のかたが来てくれるなら心強いです。ねっ、氷藤さん」
「彼女がついて来てくれるなら、それでいいじゃないか。俺は帰る」
「えっ、どうしてですか?」
美優は目を大きく見開いた。
その様子に、貴之は二の句が継げなくなる。
断るのに理由が必要なのだろうか。「行きたくないから」ではダメなのか。そのほうがむしろ驚きだ。
貴之は学生時代から人付き合いがいい方ではなかった。愛想だってよくはない。仕事の不備を突かれたとはいえ、名古屋まで来ることになるなんて、貴之にとってはあり得ない事態だった。
「じゃあ、わたしが氷藤さんの年齢を当てたら来てください。時間はあるんですから、いいですよね?」
貴之は「こいつめ」と三度思う。
そして、やれやれと吐息した。
暇人扱いをする言い方は気にくわないが、それは大目に見るとして。
貴之は本名で仕事をしているが、年齢を公開したことはなかった。もし事前に美優が貴之のことをインターネットで検索していたとしても、知るはずがない。
貴之の身長は百八十六センチで、大抵の人を見下ろすことになる。自身は年相応の容姿だと思っているが、切れ長の鋭い瞳と相まって迫力が増すらしく、実年齢以上に見られることが多かった。
つまり、美優が貴之の年齢を当てる可能性は低い。
「まあ、いいだろう。外れたら即、帰るからな」
貴之は承諾した。
「ふふふ、引っかかりましたね。わたしは人の年齢を当てるのが得意なんです。萌々香さんは、氷藤さんがいくつに見えますか?」
「えっと……、三十歳くらいですか?」
萌々香は少し考えてから、遠慮がちに言った。思いついた年齢よりも若く言ったに違いない。
「萌々香さん、惜しい! 氷藤さんの年齢は二十七歳です。ね、氷藤さん」
貴之は瞠目した。
合っている。
「なぜ、わかったんだ?」
美優は満面の笑みを浮かべた。
「やっぱりそうですよね、よかった!」
「よかった?」
当たるかどうか、五分五分だったのか。
「いえ、こちらのことです。わたしは年齢当てが得意なんですって。老け顔だから外れると思ったんでしょ? 残念でした。さ、お城に行きましょう!」
「老け顔……」
デリカシーがないのはどっちなんだ。
貴之は眉間のしわを深めた。
結局、貴之は美優に引きずられて、名古屋城のあとに、ひつまぶしと味噌煮込みうどんの店を梯子することになった。
「なにか言ったか?」
「いいえ! これ美味しいですね。もう一つください」
「全部やる」
小ぶりなチョコレートが二つ入っている皿ごと美優に押しやった。
美優はなぜか残念そうな表情になったが、気を取り直したように身体ごと貴之に向けた。
「お仕事も終わったことですし、次は名古屋城に行きましょう!」
美優は拳を握って、さも決定事項のように元気に貴之を誘った。貴之は美優を見たまま絶句する。
そんな貴之を尻目に、美優は身を乗り出した。
「萌々香さん、お城まで歩けます?」
「歩けなくはないけど……、三十分はかかりますよ。電車なら十五分くらいです。案内しましょうか?」
「いいんですか? 地元のかたが来てくれるなら心強いです。ねっ、氷藤さん」
「彼女がついて来てくれるなら、それでいいじゃないか。俺は帰る」
「えっ、どうしてですか?」
美優は目を大きく見開いた。
その様子に、貴之は二の句が継げなくなる。
断るのに理由が必要なのだろうか。「行きたくないから」ではダメなのか。そのほうがむしろ驚きだ。
貴之は学生時代から人付き合いがいい方ではなかった。愛想だってよくはない。仕事の不備を突かれたとはいえ、名古屋まで来ることになるなんて、貴之にとってはあり得ない事態だった。
「じゃあ、わたしが氷藤さんの年齢を当てたら来てください。時間はあるんですから、いいですよね?」
貴之は「こいつめ」と三度思う。
そして、やれやれと吐息した。
暇人扱いをする言い方は気にくわないが、それは大目に見るとして。
貴之は本名で仕事をしているが、年齢を公開したことはなかった。もし事前に美優が貴之のことをインターネットで検索していたとしても、知るはずがない。
貴之の身長は百八十六センチで、大抵の人を見下ろすことになる。自身は年相応の容姿だと思っているが、切れ長の鋭い瞳と相まって迫力が増すらしく、実年齢以上に見られることが多かった。
つまり、美優が貴之の年齢を当てる可能性は低い。
「まあ、いいだろう。外れたら即、帰るからな」
貴之は承諾した。
「ふふふ、引っかかりましたね。わたしは人の年齢を当てるのが得意なんです。萌々香さんは、氷藤さんがいくつに見えますか?」
「えっと……、三十歳くらいですか?」
萌々香は少し考えてから、遠慮がちに言った。思いついた年齢よりも若く言ったに違いない。
「萌々香さん、惜しい! 氷藤さんの年齢は二十七歳です。ね、氷藤さん」
貴之は瞠目した。
合っている。
「なぜ、わかったんだ?」
美優は満面の笑みを浮かべた。
「やっぱりそうですよね、よかった!」
「よかった?」
当たるかどうか、五分五分だったのか。
「いえ、こちらのことです。わたしは年齢当てが得意なんですって。老け顔だから外れると思ったんでしょ? 残念でした。さ、お城に行きましょう!」
「老け顔……」
デリカシーがないのはどっちなんだ。
貴之は眉間のしわを深めた。
結局、貴之は美優に引きずられて、名古屋城のあとに、ひつまぶしと味噌煮込みうどんの店を梯子することになった。
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