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じゅん

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二章 引きこもりの鬼

二章 2

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「そういえばマルセルさん、血は吸っていないの?」
 毬瑠子はマルセルが吸血する姿を見たことがなかった。
「普通の食事でこと足りますが、時々あやかしからいただいています。好物ですからね」
 やっぱり好物なんだ、と毬瑠子は内心で思った。私もこの先、血を吸いたいと思うのかな?
「で、さっきの鬼の話だが、二百年以上人里離れて森に隠れ住んでいるようだ」
 蘇芳はカクテルを飲みながら話を元に戻した。
「どこに住んでいようと鬼の自由でしょう」
 まだ眉を上げたままでマルセルは赤ワインに口づけた。よく赤ワインを飲んでいるので、一番好きなお酒なのかもしれない。
「なにか訳ありみたいなんだよ。あやかしからも距離をとっているらしい。隠れ住むのが本意でなければ、鬼が可哀想じゃないか」
「そう思うなら自分で解決すればいいと、いつも言っているでしょう」
「俺はそういうあやかしをここに連れてくるのが好きなんだ」
「あきれた人ですね」
 マルセルはため息をついて、サイドに流している金色の前髪をかき上げた。
 以前マルセルが、蘇芳は「厄介事をわたしに押しつけて楽しむ趣味がある」と言っていたが、本当のようだ。
 蘇芳がどうやって悩みのあるあやかしを探しているのかわからないが、時間も手間もかかることだろう。今回は連れてきそこなったとはいえ、森まで鬼に会いに行っているようだ。蘇芳は暇なのだろうか。
「行かねえのかよ。クロみたいに手を差し伸べてやれよ」
 蘇芳は「せっかく見つけてきたオモチャで遊ばないのか」と言わんばかりの不満顔だ。ちなみに二週間ほど前からバーの看板猫となった猫又のクロは、今は二階でくつろいでいる。
「毬瑠子はどう思いますか」
「どうって?」
 いまだに端正すぎて長い時間直視できないバーテンダーを見上げた。
「毬瑠子が行くなら、わたしも一緒に鬼に会いに行きます」
「私が決めるの?」
 しかも、なぜ自分が行くことが前提なのか。
 クロの家に行った時も自分はなんの役にも立たず、ただクロからもらい泣きをしただけだった。「マルセルさん一人で行けばいいじゃない」と喉まで出かかったが、それは薄情だろうか。
 鬼というだけで怖がるのはやめようと思ったばかりだが、ほとんどの物語で悪役になっている鬼には積極的に会いたいと思わない。火のないところに煙は立たず。鬼は基本的に乱暴者のような気がする。
 しかし蘇芳が言うように事情があって森に隠れているのなら、話くらい聞いてあげてもいいかもしれない。童話『泣いた赤鬼』の鬼のように、優しい鬼が泣いているのなら助けてあげたい。
「じゃあ、ちょっとだけ」
 鬼に会うのにちょっともたくさんもないと思いながらも、毬瑠子は消極的アピールをしてみた。
「そうですか、毬瑠子が行くと言うなら仕方がありませんね」
 マルセルは嬉しそうな表情になり、蘇芳に鬼の住む場所を聞いてメモをし始めた。
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