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終章 別れと始まり
別れと始まり 4【完結】
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アレクサンドラは不自然な波の揺れを感じた。
その揺れはさらに大きくなり、部屋の外が騒がしくなる。
アレクサンドラとエドワードは顔を見合わせて部屋を出た。乗客が血相を変えて甲板から降りてくる。
「なにがあったんだ?」
エドワードが乗客の一人を捕まえた。
「海賊だ!」
乗客が叫ぶ。
海賊。
アレクサンドラは人の波をかき分けて甲板に向かって全力で走った。
「アレックス」
すぐにエドワードも追いかけてくる。
扉を開けて眩しい甲板に飛び出すと、旅客船のすぐ隣りにはガレー船が横付けされていた。船縁をいくつものロープで固定している。
帆柱には海賊旗がはためいていた。
赤地に白い髑髏、左の眼窩には眼帯をし、髑髏の後ろでカトラスがクロスしている。
「ロバート海賊団のジョリー・ロジャー」
船縁にずらりと並んだ海賊たちは、マスケット銃を旅客船に向けている。
「心配するな、俺たちは仲間を連れ戻しに来ただけだ。大人しく引き渡せばなにもしない」
海風に豪奢な深紅のダマスク織りのジュストコールをなびかせている男が叫んだ。
隻眼の赤い死神と呼ばれる男。
「ロバート!」
アレクサンドラは手摺に駆け寄った。
「よう、アレックス。迎えに来てやったぜ」
太陽を背負ったロバートはアレクサンドラに笑顔を向けた。
「なぜ……」
アレクサンドラの胸に熱いものがこみ上げてきた。
「なぜって、満場一致でおまえを改めて仲間に迎え入れることに決まったからだ」
女性であるアレクサンドラを団員として認めるか、本日、多数決をとる予定だった。それが行われたのだろう。
「満場一致?」
誰一人、アレクサンドラが加わることに反対しなかったのか。あれだけ反発する者が多かったのに。
「おまえの今までの行動が認められたってことだ」
船の清掃や修復に熱心に取り組んでいたこと。船底くぐりを成功させたこと。乱暴されても仲間を売らなかったこと。航海士として力量を見せたこと。
アレクサンドラは信じられない思いで並んでいる団員一人一人に視線を向けた。みんな目や拳で応えてくれる。ブッチャーは力こぶを作り、その隣りのピエールは両手を振った。
ピンクゴールドの長い巻き毛を揺らすクリスと目が合うと、細い眉をつり上げた。
「借りは返したからね! おまえなんか大っ嫌いだから!」
「クリス」
アレクサンドラは苦笑した。目頭が熱くなる。
「みんな、ありがとう」
船縁にのぼってロープを渡ろうとすると、後ろから手を取られた。
「行くなアレックス」
エドワードは懇願するようにも見える表情でアレクサンドラを掴んでいた。
アレクサンドラは首を振る。
「進む道は自分で決める。私の人生は私だけのものだ」
「アレックス……」
エドワードはきつく眉根を寄せた。手の力が緩んでいく。
「ありがとう、エド。元気で」
アレクサンドラから強くエドワードの手を握り、そして、ずっと守ってくれていた大きな手を放した。
ネイサンにサポートされてアレクサンドラは隣りの船に乗り移った。歓声とともに団員たちに囲まれる。背中や頭を叩かれてもみくちゃにされた。
「アレックスは預けるだけだ。後悔するなよ。俺が必ずおまえを捕らえてやる。首を洗って待っていろ」
エドワードがロバートに向かって叫んだ。
「楽しみにしている」
エドワードの燃え滾る視線をロバートは受け止めた。
渡されていたロープが外れる。船が離れていく。
胸が締め付けられる思いで、アレクサンドラは小さくなっていくエドワードを見ていた。
彼には感謝の気持ちしかない。
「さよなら、エド」
アレクサンドラが振り返ると、近くにロバートが立っていた。
「来いよ、今夜はおまえが主役の宴会だ。覚悟しろ」
「……お手柔らかに」
酒の弱いアレクサンドラは苦笑いを浮かべた。
「後悔はさせない。俺がおまえに世界を見せてやる」
ロバートはアレクサンドラの肩を叩き、ジュストコールを翻した。
「どこまでもついて行くよ、キャプテン」
アレクサンドラはロバートの後に続いて歩き出した。
了
その揺れはさらに大きくなり、部屋の外が騒がしくなる。
アレクサンドラとエドワードは顔を見合わせて部屋を出た。乗客が血相を変えて甲板から降りてくる。
「なにがあったんだ?」
エドワードが乗客の一人を捕まえた。
「海賊だ!」
乗客が叫ぶ。
海賊。
アレクサンドラは人の波をかき分けて甲板に向かって全力で走った。
「アレックス」
すぐにエドワードも追いかけてくる。
扉を開けて眩しい甲板に飛び出すと、旅客船のすぐ隣りにはガレー船が横付けされていた。船縁をいくつものロープで固定している。
帆柱には海賊旗がはためいていた。
赤地に白い髑髏、左の眼窩には眼帯をし、髑髏の後ろでカトラスがクロスしている。
「ロバート海賊団のジョリー・ロジャー」
船縁にずらりと並んだ海賊たちは、マスケット銃を旅客船に向けている。
「心配するな、俺たちは仲間を連れ戻しに来ただけだ。大人しく引き渡せばなにもしない」
海風に豪奢な深紅のダマスク織りのジュストコールをなびかせている男が叫んだ。
隻眼の赤い死神と呼ばれる男。
「ロバート!」
アレクサンドラは手摺に駆け寄った。
「よう、アレックス。迎えに来てやったぜ」
太陽を背負ったロバートはアレクサンドラに笑顔を向けた。
「なぜ……」
アレクサンドラの胸に熱いものがこみ上げてきた。
「なぜって、満場一致でおまえを改めて仲間に迎え入れることに決まったからだ」
女性であるアレクサンドラを団員として認めるか、本日、多数決をとる予定だった。それが行われたのだろう。
「満場一致?」
誰一人、アレクサンドラが加わることに反対しなかったのか。あれだけ反発する者が多かったのに。
「おまえの今までの行動が認められたってことだ」
船の清掃や修復に熱心に取り組んでいたこと。船底くぐりを成功させたこと。乱暴されても仲間を売らなかったこと。航海士として力量を見せたこと。
アレクサンドラは信じられない思いで並んでいる団員一人一人に視線を向けた。みんな目や拳で応えてくれる。ブッチャーは力こぶを作り、その隣りのピエールは両手を振った。
ピンクゴールドの長い巻き毛を揺らすクリスと目が合うと、細い眉をつり上げた。
「借りは返したからね! おまえなんか大っ嫌いだから!」
「クリス」
アレクサンドラは苦笑した。目頭が熱くなる。
「みんな、ありがとう」
船縁にのぼってロープを渡ろうとすると、後ろから手を取られた。
「行くなアレックス」
エドワードは懇願するようにも見える表情でアレクサンドラを掴んでいた。
アレクサンドラは首を振る。
「進む道は自分で決める。私の人生は私だけのものだ」
「アレックス……」
エドワードはきつく眉根を寄せた。手の力が緩んでいく。
「ありがとう、エド。元気で」
アレクサンドラから強くエドワードの手を握り、そして、ずっと守ってくれていた大きな手を放した。
ネイサンにサポートされてアレクサンドラは隣りの船に乗り移った。歓声とともに団員たちに囲まれる。背中や頭を叩かれてもみくちゃにされた。
「アレックスは預けるだけだ。後悔するなよ。俺が必ずおまえを捕らえてやる。首を洗って待っていろ」
エドワードがロバートに向かって叫んだ。
「楽しみにしている」
エドワードの燃え滾る視線をロバートは受け止めた。
渡されていたロープが外れる。船が離れていく。
胸が締め付けられる思いで、アレクサンドラは小さくなっていくエドワードを見ていた。
彼には感謝の気持ちしかない。
「さよなら、エド」
アレクサンドラが振り返ると、近くにロバートが立っていた。
「来いよ、今夜はおまえが主役の宴会だ。覚悟しろ」
「……お手柔らかに」
酒の弱いアレクサンドラは苦笑いを浮かべた。
「後悔はさせない。俺がおまえに世界を見せてやる」
ロバートはアレクサンドラの肩を叩き、ジュストコールを翻した。
「どこまでもついて行くよ、キャプテン」
アレクサンドラはロバートの後に続いて歩き出した。
了
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