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六章 ロバートの過去

ロバートの過去 5

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「なぜ私たちを海賊団に入れたの?」
「おまえを呼んだのがオレだからだよ。アレックス」
「私を、呼んだ?」
 アレクサンドラは瞠目し、睫毛を瞬かせた。ロバートはにやりと笑って、長い足を組み替える。
「オルレニア王国は表向き、おまえの国とは友好国だからな。兄貴を通して、海賊被害が激しくて困っていると泣きついたんだ。海賊島に諜報員を送って、海賊のトップを叩こうと提案した。こちらは諜報のノウハウがないので帝国に任せたい。金はいくらでも出す、って具合に」
「諜報のノウハウがないなんて、なんという二枚舌だ」
しかも「いくらでも出す」という金は、帝国海軍の船を襲って調達した金だろう。オルレニア王国の懐は少しも痛まない。
「そしてもうひとつ、オレは条件を付けた。そちらには女性の軍人がいるらしいから、その者を海賊島に送ること。“いままでの男の諜報員はことごとく失敗しているから、女で試されたし”ってな」
 それで指名されたのかと、アレクサンドラは驚いた。
 海軍卿ですら知らない任命者が誰なのかと疑問に思いながらも、目まぐるしい日々で忘れていた謎が、やっと解けた。
「いくら友好国とはいえ、他国がそこまでの内政干渉をできるとは思えない」
「できるさ、トップ同士の会談だ。それに帝国にとって旨味しかない話じゃないか」
「トップ」
 驚くべき言葉ばかりで、さっきからアレクサンドラはオウム返しばかりになっている。
「もうわかってるんだろ。オレの兄が誰なのか」
 アレクサンドラは頷く。疑いようがない。
「ウィリアム国王陛下」
 昨年、前国王が退位したことにより、ウィリアムが王位を継承していた。言われてみると、四年前のパーティーで遠目に見かけたウィリアムの面影を、ロバートの中に見つけることができた。
「そこまでして、なぜ私を呼んだの?」
 四年前に少しだけ話をしただけだ。アレクサンドラにとっては、髑髏の仮装をした人物に男装をさせられたという強烈な印象があり、ドレスを着なくなったきっかけでもあるものの、それで終わった思い出だった。
「本当にわからないのか。言わせたいのか」
 ロバートはアレクサンドラを引き寄せた。
「おまえが好きだ」
至近距離から碧眼に見つめられ、アレクサンドラは息を呑んだ。
「アレックスのことはなんでも知っている。生真面目なところも、几帳面そうに見えて案外抜けているところも、軍人としての悩みも、大海原への憧れも。どれだけ離れていても、オレがおまえのことを一番理解している」
 アレクサンドラは抱きしめられた。まるで、ひとつの塊になりそうなほど強く。
 それだけで、ロバートがどれほど激しい慕情を胸に秘めていたのか、伝わってくるようだった。身体は圧迫されているが、隙間なく密着している肌が心地よく感じる。心が満たされる。
 ふと、海賊島に到着した初日を思い出した。
 ロバートは「浮かれて」飲みすぎているとネイサンに注意されていた。それはアレクサンドラが来ることを心待ちにしていたからではないか。
 しばらくそのままでいたロバートが吐息するのを、うなじで感じた。
「初めは、ただ見守っているつもりだった。幸福な姿を見届けようと思っていた。しかし、おまえにはいつまで経っても浮いた話が出ず、海軍でくすぶっているようだった。だから、オレのものにすることにした」
 オレのものって……。
 アレクサンドラ頬を赤らめた。
 ロバートの突然の告白を喜びつつも、戸惑いもあった。
「どうして。この部屋でほんのわずかな時間を過ごしただけなのに」
「一目惚れは信じない?」
 ロバートはアレクサンドラの顔を覗き込み、揶揄したように笑う。そして、その笑みが柔らかく変わった。
「俺は四年前に死んで、生まれ変わった。アレックスの言葉に背中を押されたからだ」
「どういうこと?」
 ロバートは立ち上がった。
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