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六章 ロバートの過去
ロバートの過去 3
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「帝国の諜報員なんだろ、アレクサンドラ・ヴァローズ」
頭を鈍器で殴られたような衝撃を受け、アレクサンドラは足を止めた。
「知って……」
「知っていたさ、初めから」
ロバートが重厚な扉を開けると、暗い通路に強い明かりが差し込んだ。アレクサンドラは眩しさに目を眇めて、顔の前に手をかざした。
「突っ立ってないで来いよ。オレのことが知りたいんだろ」
通路脇にランタンを置いて、笑みを浮かべたロバートが肩越しに振り返る。片側の口角を上げて揶揄したような表情だ。そこから敵意は感じないが、なにを考えているのかまでは読めなかった。
「なぜ、私をここに連れてきたの」
身元が突きとめられているとなれば、むしろアジトに来たアレクサンドラの身が危険なはずだ。
しかしアレクサンドラは、ロバートに命を取られるイメージが少しもわかなかった。
「来ればわかるさ」
再びロバートは歩き出す。扉を抜けると、白を基調とした幅広いアーチの豪華な回廊が伸びている。宮殿のようだった。
「ここだ」
しばらく歩き、ロバートは扉を開けて部屋に入った。
「……ここは」
いくつも並ぶ大きな窓。そこにかかる緻密なレースのカーテン。マントルピースや天蓋ベッドの柱の繊細な細工。シンプルだが高級な白い壁紙の、広く豪華な部屋。
「私は、この部屋を知っている」
船から見えた太陽の位置、星の位置、そして舵輪の下に設置してある羅針盤で、船の進んでいる方向はわかっていた。
「ここはオルレニア王国の宮殿」
そして四年前の仮面舞踏会で、アレクサンドラが髑髏に連れてこられた部屋だった。
部屋を見回していたアレクサンドラは、壁に寄りかかって腕を組むロバートに視線を向けた。
「あなたは、あの時の髑髏?」
黒いローブに動物の頭蓋骨を被った、華奢で背の高い男性。
「そうだ」
ロバートはいたずらっ子のように笑った。
「一緒に踊るのを楽しみにしていたのに、会場にアレクサンドラはいなかった。オレはすぐに調べて、アレクサドラがドミール帝国の軍人の娘だと知った」
王太子の婚礼を祝した大規模なパーティーだ、参加者リストは作成しているだろう。大人ばかりの参列者の中、十四歳の少女を探し出すのは容易かったに違いない。
ただし、要人ばかりの参加者名簿を一般公開するはずがない。彼はそのリストをチェックできる立場だったのだ。
「あなたは、一体……」
あの時の髑髏はフランシスと呼ばれていた。ロバートという名は偽名なのか。
アレクサンドラが一歩踏み出すのと、トントンとドアが叩かれるのは同時だった。
「こんな時に誰だ。アレックス、隣の部屋に衣装部屋がある。見て来いよ」
ロバートは奥の扉を指さし、部屋から出ていった。
アレクサンドラは広い部屋に一人で取り残された。
することもないので、ロバートに示されたドアを開けてみる。先ほどの部屋の半分ほどだが、それでも十分に広い部屋に数百着の服が並んでいた。色とりどりの変わった衣装や被り物で、仮面舞踏会用の服だと思われた。
「これは」
部屋の手前に置かれているトルソーの前で足を止めた。そのサテンの赤いドレスは、四年前にアレクサンドラが身につけていたものだった。
「あの時、君が着ていたドレスだ。また会えた時に返そうと、大事に保管していたんだよ」
アレクサンドラは振り返った。
そこには金色の髪に黒いバンダナを巻き、左目には眼帯をして、膝下まである深紅のジュストコールを羽織った男性が立っていた。
「……ロバート?」
見た目はロバートのはずだが、アレクサンドラは違和感を覚えた。
なにかが違う。
「あなたは、誰?」
頭を鈍器で殴られたような衝撃を受け、アレクサンドラは足を止めた。
「知って……」
「知っていたさ、初めから」
ロバートが重厚な扉を開けると、暗い通路に強い明かりが差し込んだ。アレクサンドラは眩しさに目を眇めて、顔の前に手をかざした。
「突っ立ってないで来いよ。オレのことが知りたいんだろ」
通路脇にランタンを置いて、笑みを浮かべたロバートが肩越しに振り返る。片側の口角を上げて揶揄したような表情だ。そこから敵意は感じないが、なにを考えているのかまでは読めなかった。
「なぜ、私をここに連れてきたの」
身元が突きとめられているとなれば、むしろアジトに来たアレクサンドラの身が危険なはずだ。
しかしアレクサンドラは、ロバートに命を取られるイメージが少しもわかなかった。
「来ればわかるさ」
再びロバートは歩き出す。扉を抜けると、白を基調とした幅広いアーチの豪華な回廊が伸びている。宮殿のようだった。
「ここだ」
しばらく歩き、ロバートは扉を開けて部屋に入った。
「……ここは」
いくつも並ぶ大きな窓。そこにかかる緻密なレースのカーテン。マントルピースや天蓋ベッドの柱の繊細な細工。シンプルだが高級な白い壁紙の、広く豪華な部屋。
「私は、この部屋を知っている」
船から見えた太陽の位置、星の位置、そして舵輪の下に設置してある羅針盤で、船の進んでいる方向はわかっていた。
「ここはオルレニア王国の宮殿」
そして四年前の仮面舞踏会で、アレクサンドラが髑髏に連れてこられた部屋だった。
部屋を見回していたアレクサンドラは、壁に寄りかかって腕を組むロバートに視線を向けた。
「あなたは、あの時の髑髏?」
黒いローブに動物の頭蓋骨を被った、華奢で背の高い男性。
「そうだ」
ロバートはいたずらっ子のように笑った。
「一緒に踊るのを楽しみにしていたのに、会場にアレクサンドラはいなかった。オレはすぐに調べて、アレクサドラがドミール帝国の軍人の娘だと知った」
王太子の婚礼を祝した大規模なパーティーだ、参加者リストは作成しているだろう。大人ばかりの参列者の中、十四歳の少女を探し出すのは容易かったに違いない。
ただし、要人ばかりの参加者名簿を一般公開するはずがない。彼はそのリストをチェックできる立場だったのだ。
「あなたは、一体……」
あの時の髑髏はフランシスと呼ばれていた。ロバートという名は偽名なのか。
アレクサンドラが一歩踏み出すのと、トントンとドアが叩かれるのは同時だった。
「こんな時に誰だ。アレックス、隣の部屋に衣装部屋がある。見て来いよ」
ロバートは奥の扉を指さし、部屋から出ていった。
アレクサンドラは広い部屋に一人で取り残された。
することもないので、ロバートに示されたドアを開けてみる。先ほどの部屋の半分ほどだが、それでも十分に広い部屋に数百着の服が並んでいた。色とりどりの変わった衣装や被り物で、仮面舞踏会用の服だと思われた。
「これは」
部屋の手前に置かれているトルソーの前で足を止めた。そのサテンの赤いドレスは、四年前にアレクサンドラが身につけていたものだった。
「あの時、君が着ていたドレスだ。また会えた時に返そうと、大事に保管していたんだよ」
アレクサンドラは振り返った。
そこには金色の髪に黒いバンダナを巻き、左目には眼帯をして、膝下まである深紅のジュストコールを羽織った男性が立っていた。
「……ロバート?」
見た目はロバートのはずだが、アレクサンドラは違和感を覚えた。
なにかが違う。
「あなたは、誰?」
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