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四章 竜骨の下で
竜骨の下で 3
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「あれは」
商船員のひとりの挙動がおかしいことに気づいた。そっと帯刀している剣に手を伸ばしている。
「ロバート、危ない!」
男は脱出用ボートに乗るふりをして、振り返りざま剣でロバートに斬りかかった。ロバートは難なく避けると男を海に放り込んだ。
「ほら、早く助けてやらないと、サメに食われるぞ」
商船員たちは急いでボートをおろし、海に落とされた男を救助して、大海原に漕ぎ出した。
「ここからなら三日もせずに港に着くさ。運が良ければもっと早く船に拾われるはずだ。天候もしばらく問題ないだろう」
そう言いながらロバートがガレー船に戻ってきた。
「さっきは、ありがとな」
「私が言わなくても気づいていたんでしょ?」
「どうかな」
ロバートはアレクサンドラを見つめて、ニッと笑った。
「よく似合ってる」
ロバートは指輪のついた長い指でアレクサンドラ頬をなでた。アレクサンドラの胸が高鳴る。
どうも見張り台で一緒になってから心臓がおかしい。
「着替えてこなきゃね」
恥ずかしくなって、アレクサンドラは顔をそらした。
「本当、いつまでそんな格好してるんだよ。ボクが手伝ってあげる」
後ろからクリスの声が聞こえたかと思うと、ドレスを一気に下げられた。
「あっ!」
驚いて上ずった悲鳴が漏れてしまった。
「なに女みたいな声出して……」
胸元を押さえてアレクサンドラはしゃがみ込んだ。胸には晒しを巻いているとはいえ、あらわになった肩からくびれた腰にかけて露出している。
「女……?」
「女じゃねえの?」
ざわざわと声が聞こえる。
「ちょっと、ちゃんと立ちなよ」
クリスに腕を引かれて、ドレスとかつらを奪われた。亜麻布のパンツと靴は身に着けていたが、上半身は鎖骨の下から胸の下までを巻いた晒しのみの姿となる。体のラインが丸分りだった。
ばれた。
アレクサンドラは唇を噛みしめた。
血の気が引いて、顔が真っ青になる。
「エドはあんたが女だって知ってたんでしょ? だからあんなに甘やかしてたんだ」
クリスが指摘した。
「さあ」
どう答えればエドワードに迷惑にならないのかわからない。視線だけでエドワードを探したが、近くにいないようだ。
「エドはあっちの船。オレが適当に二手にわけた。港に着くまでは合流しない」
アレクサンドラの視線に気づいたロバートが商船を親指でさす。商船は若干離れた後方からついてきていた。
「ネイサン、この船にいる全員を集めてくれ」
ロバートが指示すると、ネイサンは他の乗組員たちにメガホンを使って呼びかけた。船員たちは船尾楼側の甲板に集まり、晒し姿のままのアレクサンドラを囲む。軍隊の訓練以外にも毎日トレーニングを欠かすことがなかった身体は、ほっそりとしながらも筋肉の張りがあって引き締まっている。女性としては背が高く手足がスラリと長い。
観念したアレクサンドラは、それでも弱気な態度になるまいと、いつものように姿勢よく立つよう心掛けた。握った手は冷や汗で湿っている。
「こうして見ると、女だと気づかなかったのが不思議だな」
「先入観ってのは恐ろしいもんだ」
ロバートは手を打って、ざわついている船員たちを黙らせた。
「さて、女は連れ込まないというのが俺たちの掟だ。みんな、どうしたい?」
ロバートは樽に腰掛けて長い脚を組み、船員を見回した。
「船から落とせばいい」
商船員のひとりの挙動がおかしいことに気づいた。そっと帯刀している剣に手を伸ばしている。
「ロバート、危ない!」
男は脱出用ボートに乗るふりをして、振り返りざま剣でロバートに斬りかかった。ロバートは難なく避けると男を海に放り込んだ。
「ほら、早く助けてやらないと、サメに食われるぞ」
商船員たちは急いでボートをおろし、海に落とされた男を救助して、大海原に漕ぎ出した。
「ここからなら三日もせずに港に着くさ。運が良ければもっと早く船に拾われるはずだ。天候もしばらく問題ないだろう」
そう言いながらロバートがガレー船に戻ってきた。
「さっきは、ありがとな」
「私が言わなくても気づいていたんでしょ?」
「どうかな」
ロバートはアレクサンドラを見つめて、ニッと笑った。
「よく似合ってる」
ロバートは指輪のついた長い指でアレクサンドラ頬をなでた。アレクサンドラの胸が高鳴る。
どうも見張り台で一緒になってから心臓がおかしい。
「着替えてこなきゃね」
恥ずかしくなって、アレクサンドラは顔をそらした。
「本当、いつまでそんな格好してるんだよ。ボクが手伝ってあげる」
後ろからクリスの声が聞こえたかと思うと、ドレスを一気に下げられた。
「あっ!」
驚いて上ずった悲鳴が漏れてしまった。
「なに女みたいな声出して……」
胸元を押さえてアレクサンドラはしゃがみ込んだ。胸には晒しを巻いているとはいえ、あらわになった肩からくびれた腰にかけて露出している。
「女……?」
「女じゃねえの?」
ざわざわと声が聞こえる。
「ちょっと、ちゃんと立ちなよ」
クリスに腕を引かれて、ドレスとかつらを奪われた。亜麻布のパンツと靴は身に着けていたが、上半身は鎖骨の下から胸の下までを巻いた晒しのみの姿となる。体のラインが丸分りだった。
ばれた。
アレクサンドラは唇を噛みしめた。
血の気が引いて、顔が真っ青になる。
「エドはあんたが女だって知ってたんでしょ? だからあんなに甘やかしてたんだ」
クリスが指摘した。
「さあ」
どう答えればエドワードに迷惑にならないのかわからない。視線だけでエドワードを探したが、近くにいないようだ。
「エドはあっちの船。オレが適当に二手にわけた。港に着くまでは合流しない」
アレクサンドラの視線に気づいたロバートが商船を親指でさす。商船は若干離れた後方からついてきていた。
「ネイサン、この船にいる全員を集めてくれ」
ロバートが指示すると、ネイサンは他の乗組員たちにメガホンを使って呼びかけた。船員たちは船尾楼側の甲板に集まり、晒し姿のままのアレクサンドラを囲む。軍隊の訓練以外にも毎日トレーニングを欠かすことがなかった身体は、ほっそりとしながらも筋肉の張りがあって引き締まっている。女性としては背が高く手足がスラリと長い。
観念したアレクサンドラは、それでも弱気な態度になるまいと、いつものように姿勢よく立つよう心掛けた。握った手は冷や汗で湿っている。
「こうして見ると、女だと気づかなかったのが不思議だな」
「先入観ってのは恐ろしいもんだ」
ロバートは手を打って、ざわついている船員たちを黙らせた。
「さて、女は連れ込まないというのが俺たちの掟だ。みんな、どうしたい?」
ロバートは樽に腰掛けて長い脚を組み、船員を見回した。
「船から落とせばいい」
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