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二章 思い出の景色を探せ
二章 思い出の景色を探せ その7
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――最後に、あなたにお願いがあります。
喜代は雄誠に向かって言った。
――実はあなたは重蔵さんにそっくりなの。最後にもう一度、顔を見せて。
内見に来た雄誠の顔を喜代は見ている。
雄誠は困ったように眉を寄せた。今はカメラが回っているからだろう。
《やった、見たい!》
《とうとう、お兄さまのご尊顔が!》
央都也は流れるコメントを横目で読んで苦笑をし、雄誠に目を向けた。
「兄さん、後ろから撮っていい?」
「ああ」
雄誠はホッとしたようにうなずいた。
(そんなに顔を出すのはイヤなんだ。せっかく男前なのに)
視聴者が喜ぶだろうになあと思いながら央都也はスタンドから撮影用のスマートフォンを取り上げて、雄誠の背後に回った。
雄誠は帽子を取り、メガネ、マスクを外した。
――やっぱり、重蔵さんに似ているわ。
喜代はうっとりと雄誠をみつめた。
二人はしばらく見つめ合っていたが、喜代を迎え入れるように雄誠が両腕を広げた。
喜代は大きく瞳を開いたあと、まるで少女に戻ったかのようにはにかみながら微笑んだ。
(兄さん、やるじゃん)
斜め後ろからの輪郭くらいなら映ってもいいだろうと、央都也はスマートフォンを持ちながら、喜代の表情がよくわかる位置にゆっくり移動する。
正座をしていた喜代は膝付きで進み、雄誠の胸に飛び込むところで、すっと消えていった。晴れやかな笑みを浮かべていた。
《喜代さん、いい笑顔だったね》
《きっとこれから重蔵さんと会うんだよ》
《二人で幸せになってほしいな》
チャットが盛り上がる。
(いい絵が撮れた)
央都也は満足げに笑う。今回の再生回数も回りそうだ。
そんな不遜なことを考えていたからだろうか。
「あっ!」
カメラ用のスマートフォンを元のスタンドに戻そうとした央都也は、床に置いていた雄誠のスマートフォンを踏んで滑った。
央都也の声に機敏に反応して、雄誠は膝立ちになって央都也を抱き支える。
「大丈夫か?」
「うん。ごめん、スマホ踏んじゃった。割れてはいないみたいだけど……、あっ」
どこか怪我でもしたのかというように雄誠が見上げて来るが、央都也はデスクの上のモニターに釘付けだった。
《キャー、やっぱりお兄さまイケメン》
《予想の遥か上!》
《美形兄弟とか、ドラマかよ》
《でも、ぜんぜん似てないよね》
チャットが勢いよく流れていく。
「ヤバ……。ごめん兄さん、顔が映っちゃったみたい。一瞬だと思うけど」
「そうか……」
雄誠は困ったように、大きな手で顔をおおった。
「みんな、今日は集まってくれてありがとう。また明日の動画でね」
央都也は自分にカメラを向けて、慌てて配信を終わらせた。
「アーカイブには残らないようにして、兄さんが映ったところはカットして改めて配信するよ。さっきは生配信だったし、身バレとかにはならないと思うけど」
「そうだな」
胡坐をかいている雄誠は、心ここにあらずという表情をしている。
「ねえ兄さん、なんでそんなに映りたくなかったの? こういうことしてると会社に怒られちゃう?」
恥ずかしいから、という理由ではないような気がする。
「そういうわけじゃない。……気にするな、俺が神経質なだけだろう」
ポンと央都也の肩に手をのせてから、雄誠は立ち上がって伸びをした。
喜代は雄誠に向かって言った。
――実はあなたは重蔵さんにそっくりなの。最後にもう一度、顔を見せて。
内見に来た雄誠の顔を喜代は見ている。
雄誠は困ったように眉を寄せた。今はカメラが回っているからだろう。
《やった、見たい!》
《とうとう、お兄さまのご尊顔が!》
央都也は流れるコメントを横目で読んで苦笑をし、雄誠に目を向けた。
「兄さん、後ろから撮っていい?」
「ああ」
雄誠はホッとしたようにうなずいた。
(そんなに顔を出すのはイヤなんだ。せっかく男前なのに)
視聴者が喜ぶだろうになあと思いながら央都也はスタンドから撮影用のスマートフォンを取り上げて、雄誠の背後に回った。
雄誠は帽子を取り、メガネ、マスクを外した。
――やっぱり、重蔵さんに似ているわ。
喜代はうっとりと雄誠をみつめた。
二人はしばらく見つめ合っていたが、喜代を迎え入れるように雄誠が両腕を広げた。
喜代は大きく瞳を開いたあと、まるで少女に戻ったかのようにはにかみながら微笑んだ。
(兄さん、やるじゃん)
斜め後ろからの輪郭くらいなら映ってもいいだろうと、央都也はスマートフォンを持ちながら、喜代の表情がよくわかる位置にゆっくり移動する。
正座をしていた喜代は膝付きで進み、雄誠の胸に飛び込むところで、すっと消えていった。晴れやかな笑みを浮かべていた。
《喜代さん、いい笑顔だったね》
《きっとこれから重蔵さんと会うんだよ》
《二人で幸せになってほしいな》
チャットが盛り上がる。
(いい絵が撮れた)
央都也は満足げに笑う。今回の再生回数も回りそうだ。
そんな不遜なことを考えていたからだろうか。
「あっ!」
カメラ用のスマートフォンを元のスタンドに戻そうとした央都也は、床に置いていた雄誠のスマートフォンを踏んで滑った。
央都也の声に機敏に反応して、雄誠は膝立ちになって央都也を抱き支える。
「大丈夫か?」
「うん。ごめん、スマホ踏んじゃった。割れてはいないみたいだけど……、あっ」
どこか怪我でもしたのかというように雄誠が見上げて来るが、央都也はデスクの上のモニターに釘付けだった。
《キャー、やっぱりお兄さまイケメン》
《予想の遥か上!》
《美形兄弟とか、ドラマかよ》
《でも、ぜんぜん似てないよね》
チャットが勢いよく流れていく。
「ヤバ……。ごめん兄さん、顔が映っちゃったみたい。一瞬だと思うけど」
「そうか……」
雄誠は困ったように、大きな手で顔をおおった。
「みんな、今日は集まってくれてありがとう。また明日の動画でね」
央都也は自分にカメラを向けて、慌てて配信を終わらせた。
「アーカイブには残らないようにして、兄さんが映ったところはカットして改めて配信するよ。さっきは生配信だったし、身バレとかにはならないと思うけど」
「そうだな」
胡坐をかいている雄誠は、心ここにあらずという表情をしている。
「ねえ兄さん、なんでそんなに映りたくなかったの? こういうことしてると会社に怒られちゃう?」
恥ずかしいから、という理由ではないような気がする。
「そういうわけじゃない。……気にするな、俺が神経質なだけだろう」
ポンと央都也の肩に手をのせてから、雄誠は立ち上がって伸びをした。
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