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一章 初めての事故物件
一章 初めての事故物件 その1
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「わあ、いつもスパチャありがとう! このルームウェアのブランド? それはねぇ……」
央都也はベッドに寝転がりながら、投げ銭機能であるスーパーチャットの質問を読み上げた。最大五万円までの金額を“投げ銭”してもらえるので、収入としては大きい。
央都也は「夜のお供に」というコンセプトで、週に一度ユーチューブで生配信をしていた。ベッドに寝転がって、まったりと会話をするものだ。
《今日も色っぽすぎる!》
《一家に一人欲しいよね。うちにいたら愛でまくるのに!》
チャットが流れるのを央都也は目で追った。
「ぼくを飼いたいの? 嬉しいな、常に飼い主サマ募集だよ。一人で引きこもってるだけだからね」
《キャー、私の家に来てほしい!》
《ペケくんが玄関でお出迎えしてくれたら、百倍仕事を頑張れるよ!》
チャットが一気に盛り上がった。高速でコメントが流れていく。
ペケくん、というのは央都也のことだ。ユーチューブでは“ミスターX(エックス)”と名乗っているのだが、いつの間にか“ペケくん”と呼ばれるようになっていた。
《ペケくんは、いつ引きこもりをやめるの?》
(やめないよ。一生引きこもれるように頑張ってるんだから)
そう思いながら、央都也は端正な顔に笑みを浮かべる。それだけでまたチャットの速度が上がった。
「うんとね、白馬の王子様ならぬ、白馬のお姫様が迎えに来てくれたら、だね」
《迎えに行く!》
《早い者勝ち? 場所を特定させて! 部屋を見せて!》
「いいけど、ぼくの部屋はなにもないよ」
央都也は素直にカメラとして使っているスマートフォンでぐるりと部屋を映した。ベッドのほかには、編集用のパソコンを置いた机があるだけの殺風景な部屋だ。窓には厚手のカーテンがしてあり、特定される心配は皆無だ。
「じゃあ、そろそろ寝ようかな。みんな、今日もありがとう。夢でも会えたら嬉しいな。おやすみ」
《おやすみ!》
《夢にペケくんが現れますように!》
央都也はカメラ機能を切って、スマホをポイッとベッドに投げた。作り笑顔を崩す。
「チョロい」
仰向けにごろりと半回転して、央都也は肩まで伸びた黒髪をかき上げた。
必死にプログラムのコードを打つよりも、一度の生配信のほうがよほど稼げる。とはいっても頻繁に流しすぎても飽きられるので、生配信は週に一度と決め、短い動画を作って毎日投稿していた。
(部屋から出ないだけで、やってることはホストだよなあ)
実際、央都也の視聴者は九十%が女性だ。
(この顔って女の子ホイホイだよね。……男もいるかもしれないけど)
唇をゆがめて央都也は皮肉げに笑う。
央都也は特技で稼ぐ方法を考えて、ユーチューブを始めるに至った。
これならば家から一歩も出なくて済むし、人と関わる必要もない。
それに、容姿で損をしているのだから、容姿で得をしないと割が合わないという気持ちもあった。
(ぼくなんて、顔くらいしか取り柄がないし)
そう思うと情けなくもなるが、事実だ。
容姿は衰える。こんな顔をなぜありがたがるのかわからないが、金になるうちにせいぜい晒しておこうと覚悟を決めた。
こうして央都也は『美しすぎる引きこもりユーチューバー“ミスターX”』と題して動画を投稿。同時にSNSもスタートした。
痛いタイトルにしたのは意図的だ。どんなヤツだと興味をひかれて見に来る者もいるだろう。「どこが美しすぎるんだ」と叩かれても構わない。むしろ炎上したほうが話題になるというものだ。
そして狙い通りに話題になり、かなり早い段階から再生数が伸びた。始めて半年ほどだが、今では人気ユーチューバーの仲間入りを果たしている。
央都也はベッドに寝転がりながら、投げ銭機能であるスーパーチャットの質問を読み上げた。最大五万円までの金額を“投げ銭”してもらえるので、収入としては大きい。
央都也は「夜のお供に」というコンセプトで、週に一度ユーチューブで生配信をしていた。ベッドに寝転がって、まったりと会話をするものだ。
《今日も色っぽすぎる!》
《一家に一人欲しいよね。うちにいたら愛でまくるのに!》
チャットが流れるのを央都也は目で追った。
「ぼくを飼いたいの? 嬉しいな、常に飼い主サマ募集だよ。一人で引きこもってるだけだからね」
《キャー、私の家に来てほしい!》
《ペケくんが玄関でお出迎えしてくれたら、百倍仕事を頑張れるよ!》
チャットが一気に盛り上がった。高速でコメントが流れていく。
ペケくん、というのは央都也のことだ。ユーチューブでは“ミスターX(エックス)”と名乗っているのだが、いつの間にか“ペケくん”と呼ばれるようになっていた。
《ペケくんは、いつ引きこもりをやめるの?》
(やめないよ。一生引きこもれるように頑張ってるんだから)
そう思いながら、央都也は端正な顔に笑みを浮かべる。それだけでまたチャットの速度が上がった。
「うんとね、白馬の王子様ならぬ、白馬のお姫様が迎えに来てくれたら、だね」
《迎えに行く!》
《早い者勝ち? 場所を特定させて! 部屋を見せて!》
「いいけど、ぼくの部屋はなにもないよ」
央都也は素直にカメラとして使っているスマートフォンでぐるりと部屋を映した。ベッドのほかには、編集用のパソコンを置いた机があるだけの殺風景な部屋だ。窓には厚手のカーテンがしてあり、特定される心配は皆無だ。
「じゃあ、そろそろ寝ようかな。みんな、今日もありがとう。夢でも会えたら嬉しいな。おやすみ」
《おやすみ!》
《夢にペケくんが現れますように!》
央都也はカメラ機能を切って、スマホをポイッとベッドに投げた。作り笑顔を崩す。
「チョロい」
仰向けにごろりと半回転して、央都也は肩まで伸びた黒髪をかき上げた。
必死にプログラムのコードを打つよりも、一度の生配信のほうがよほど稼げる。とはいっても頻繁に流しすぎても飽きられるので、生配信は週に一度と決め、短い動画を作って毎日投稿していた。
(部屋から出ないだけで、やってることはホストだよなあ)
実際、央都也の視聴者は九十%が女性だ。
(この顔って女の子ホイホイだよね。……男もいるかもしれないけど)
唇をゆがめて央都也は皮肉げに笑う。
央都也は特技で稼ぐ方法を考えて、ユーチューブを始めるに至った。
これならば家から一歩も出なくて済むし、人と関わる必要もない。
それに、容姿で損をしているのだから、容姿で得をしないと割が合わないという気持ちもあった。
(ぼくなんて、顔くらいしか取り柄がないし)
そう思うと情けなくもなるが、事実だ。
容姿は衰える。こんな顔をなぜありがたがるのかわからないが、金になるうちにせいぜい晒しておこうと覚悟を決めた。
こうして央都也は『美しすぎる引きこもりユーチューバー“ミスターX”』と題して動画を投稿。同時にSNSもスタートした。
痛いタイトルにしたのは意図的だ。どんなヤツだと興味をひかれて見に来る者もいるだろう。「どこが美しすぎるんだ」と叩かれても構わない。むしろ炎上したほうが話題になるというものだ。
そして狙い通りに話題になり、かなり早い段階から再生数が伸びた。始めて半年ほどだが、今では人気ユーチューバーの仲間入りを果たしている。
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