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遺棄事件と見えないドア6
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――翌日。
教室に入ると、クラスの雰囲気が違った。
「おい、真田」
私はクラスメートに呼ばれた。その男子はクラスの中で一番背が高く、柔道選手のように厚みのある身体をしていた。
「こいつに見覚えがあるだろ」
ツインテールの女の子が私を睨んでいた。上履きの色で一年生だと分かる。
「……っ!」
私はハッとした。顔色も変わったかもしれない。昨日、犬の散歩をしていた女の子だった。
「間違いないよお兄ちゃん。この人だよ」
女の子は私を指さした。
教室の中央辺りで少女たちと対峙する私は、クラスメートたちに注目されていた。静まり返った教室のあちこちで、囁き合う声が聞こえてきた。
「真田のせいで、うちの犬は五針も縫ったんだ。どうしてくれる」
声変わりの終わった男子生徒の太い声に、頭を殴られた気がした。あの小さな犬は、そんなに大きな怪我をしていたのか。
謝らなければいけないと思った。
だけど、私の口から出たのは別の言葉だった。
「知らない」
「責任逃れするのか」
「私じゃない」
「何言ってるの、他にもあんたを見たって言う人、いっぱいいるんだよ」
別のクラスメートが声を張り上げた。
「証拠でもあるの?」
私は反発して強気に出た。内心ビクビクとしながら。
「よそ者は目立つんだ」
男子生徒の言葉に、胸がズキリと痛んだ。一緒にされたくないと思っているのに、よそ者だとはっきりと言われて傷ついた。
「これだから、田舎者は」
田舎者、と口に出したのは初めてだった。クラスが憤った気配がした。
「まあまあ。これじゃあ一人をクラス中で責め立ててるみたいで、ちゃんと話ができないよ。先生にも協力してもらってさ、後で当事者だけで話そうよ」
おっとりとした口調で宥めに入ったのは涼子だった。
「涼子が庇う必要なんかないよ」
「こいつが犯人に間違いないんだ」
「早く謝れよ」
クラスメートたちが次々と口にする。
「この前の事件も、真田がやったんじゃねえの?」
誰かの言葉に、一瞬教室が静かになった。新聞で名前が出たわけでもないのに、犬の大量遺棄事件の第一発見者が私だということは、町中に知れ渡っているようだった。
「そうだな、平気で犬に石をぶつけるようなやつなんだから」
わざとじゃないと言いたくなったけれど、それでは私がやったと白状するようなものだ。
「犬殺し」
「犬殺し」
「犬殺し」
投げかけられる声は、だんだん増えて大きくなっていった。
「やめてよ」
そう言ったところで、声は止まらなかった。
「やってらんない!」
持っていた鞄で思い切り机を叩くと、私は学校から出た。
教室に入ると、クラスの雰囲気が違った。
「おい、真田」
私はクラスメートに呼ばれた。その男子はクラスの中で一番背が高く、柔道選手のように厚みのある身体をしていた。
「こいつに見覚えがあるだろ」
ツインテールの女の子が私を睨んでいた。上履きの色で一年生だと分かる。
「……っ!」
私はハッとした。顔色も変わったかもしれない。昨日、犬の散歩をしていた女の子だった。
「間違いないよお兄ちゃん。この人だよ」
女の子は私を指さした。
教室の中央辺りで少女たちと対峙する私は、クラスメートたちに注目されていた。静まり返った教室のあちこちで、囁き合う声が聞こえてきた。
「真田のせいで、うちの犬は五針も縫ったんだ。どうしてくれる」
声変わりの終わった男子生徒の太い声に、頭を殴られた気がした。あの小さな犬は、そんなに大きな怪我をしていたのか。
謝らなければいけないと思った。
だけど、私の口から出たのは別の言葉だった。
「知らない」
「責任逃れするのか」
「私じゃない」
「何言ってるの、他にもあんたを見たって言う人、いっぱいいるんだよ」
別のクラスメートが声を張り上げた。
「証拠でもあるの?」
私は反発して強気に出た。内心ビクビクとしながら。
「よそ者は目立つんだ」
男子生徒の言葉に、胸がズキリと痛んだ。一緒にされたくないと思っているのに、よそ者だとはっきりと言われて傷ついた。
「これだから、田舎者は」
田舎者、と口に出したのは初めてだった。クラスが憤った気配がした。
「まあまあ。これじゃあ一人をクラス中で責め立ててるみたいで、ちゃんと話ができないよ。先生にも協力してもらってさ、後で当事者だけで話そうよ」
おっとりとした口調で宥めに入ったのは涼子だった。
「涼子が庇う必要なんかないよ」
「こいつが犯人に間違いないんだ」
「早く謝れよ」
クラスメートたちが次々と口にする。
「この前の事件も、真田がやったんじゃねえの?」
誰かの言葉に、一瞬教室が静かになった。新聞で名前が出たわけでもないのに、犬の大量遺棄事件の第一発見者が私だということは、町中に知れ渡っているようだった。
「そうだな、平気で犬に石をぶつけるようなやつなんだから」
わざとじゃないと言いたくなったけれど、それでは私がやったと白状するようなものだ。
「犬殺し」
「犬殺し」
「犬殺し」
投げかけられる声は、だんだん増えて大きくなっていった。
「やめてよ」
そう言ったところで、声は止まらなかった。
「やってらんない!」
持っていた鞄で思い切り机を叩くと、私は学校から出た。
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