【完結】神柱小町妖異譚

じゅん

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終章

終章 2

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「てっきり私は、死んで神のような存在になったものかと思っていました。いままでになかった力も得ました」
「それにはわたしも驚かされた」
 光仙は檜扇で口元を押さえた。
「確かにわたしは、人柱は身を犠牲にした尊い魂として、神に近い存在となり力が宿るとおまえに説明した」
 小藤はうなずいた。
「しかし、そもそもおまえは死んでいない。正確には人柱になっていないのだ。力が宿るわけがない」
 小藤は目を丸くした。
「ならば、なぜ私は力を得たのでしょう」
 光仙は檜扇の先で手の平を打った。
「推測でしかないが、おまえは自分には神のような力があると信じ込んだ。そして既に菊や一部の者たちは、おまえを神格化していた。神というのは信仰が強まると威神力が強まる。だからおまえに力が備わったのだと思う。それにもう一つ。これは以前も話したが、神は完全な存在ゆえに成長をしない。新たな力が芽生えるようなことはない。しかし人は成長するものだ」
 くすりと光仙は笑う。
「本当に、おまえには驚かされてばかりだった」
「光仙さま」
 思い出に浸るような光仙の口調に、急に小藤は不安になった。
「おまえはこの神社に足繁く通ってきた。いつも他人の幸せばかりを願っていた。わたしはなんと心根のよい娘かと気にかけていた。だから人柱に立ったときには腹が立った」
 光仙はその時の感情が戻ってきたのか、眉根を寄せた。
「平等に愛さねばならない神にあるまじきことだが、おまえを救いたくなった。だからここに連れてきたのだ。傷が治るまでと期限を決めて」
「傷が治るまで」
 だから光仙は頻繁に小藤の傷を気にかけていたのか。
「ここに連れてきたばかりのころは、おまえは心も身体も弱っていた。ある意味でこちら側に適応していたのだ。しかしだんだんと傷が癒えるにつれ、生身では次元のずれが大きくなりすぎた。だからおまえは体調を崩しはじめたのだ」
 光仙に「おいで」と呼ばれ、小藤は膝進で一歩近づいた。光仙と膝が当たる距離になる。
「昨日、わたしは物事には適した頃合いというものがあるとおまえに説いた。しかし、わたしは頃合いに気づかないふりをしていた。もっと早く、おまえを戻さねばならなかったのだ」
 光仙は柔らかい笑みを浮かべて小藤の頭を優しくなでた。
「苦しい思いをさせてすまなかった」
「いいえ。軽いめまいがしただけです。苦しくなんてありません」
 小藤は首を振った。目頭が熱くなってきた。
 光仙は手を戻し、表情を改めた。
「本日、小藤を元の世界に戻す」
「光仙さま」
 小藤は思わず奴袴ごしの光仙の膝に手をのせた。
「私はもう光仙さまに会えないのですか?」
「わたしはいつでもここにいる」
「でも、光仙さまを見ることも、話すこともできないのですよね」
「そうなるな」
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